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Azure HPC Cache
読み取り中心の HPC 計算ノード群に、低レイテンシのファイルアクセスを提供。Azure HPC Cache はバックエンドの NFS ストレージや Blob の手前に置くキャッシュ層で、オンプレ NAS のデータをクラウドの計算へ近づける。AWS の File Cache に近い位置づけ。
- 1.NFS のバックエンドや Blob の手前に置く読み取り高速化キャッシュ層。HPC のスケールアウト計算向け。
- 2.複数のストレージ拠点を1つの名前空間に集約し、計算ノードからのアクセスを低レイテンシ化する。
- 3.AWS の Amazon File Cache に近い。永続ストレージそのものではなくキャッシュである点に注意。
解決する課題
HPC のスケールアウト計算では、数百から数千の計算ノードが同じデータセットを同時に読み込みます。バックエンドがオンプレミスの NAS や遠隔リージョンのストレージだと、レイテンシと帯域がボトルネックになり、計算ノードを増やしても処理が頭打ちになります。Azure HPC Cache は計算ノードのそばに高速なキャッシュ層を置き、初回アクセス後はキャッシュから配信することで、バックエンドの場所や速度に左右されにくいファイルアクセスを実現します。
- オンプレの NAS にあるデータを、Azure の計算ノードから低レイテンシで読みたい(ハイブリッド HPC)
- EDA・レンダリング・解析・ゲノムなど、同じデータを多数のノードが繰り返し読む読み取り中心のワークロード
- 複数の NFS バックエンドや Blob を 1つの名前空間にまとめて計算ノードへ見せたい
- バックエンドのストレージを増強せずに、読み取り性能だけをスケールさせたい
主要概念と用語
- キャッシュ: HPC Cache 本体のリソース。計算ノードからのマウント先となり、バックエンドの内容をキャッシュして低レイテンシで配信する
- ストレージターゲット: キャッシュの背後にある実データの所在。オンプレや Azure 上の NFS サーバー、または Azure Blob を登録する
- キャッシュサイズ / スループット: キャッシュに割り当てる容量と、提供できるスループットの規模。需要に合わせて選ぶ
- 集約名前空間(アグリゲーテッドネームスペース): 複数のストレージターゲットを1つのディレクトリツリーに束ね、計算ノードからは単一のマウントポイントとして見せる仕組み
- キャッシュポリシー / 使用モデル: 書き込みの扱いやキャッシュの保持方針を決める設定。読み取り中心か、書き戻しを行うかなどで選ぶ
- NFS Blob(ADLS / Blob ターゲット): Azure Blob をバックエンドにする構成。オブジェクトをファイルのように扱って計算へ供給する
仕様・制限・クォータ
- 計算ノードからのアクセスは NFS(v3 など) が中心で、Linux ベースの HPC クラスターに向く
- バックエンドのストレージターゲットは NFS サーバー と Azure Blob に対応する
- 読み取り中心ワークロード向けに最適化されたキャッシュであり、永続的なプライマリストレージそのものではない。実体はストレージターゲット側にある
- キャッシュは VNet 内のサブネットにデプロイし、計算ノードと同じネットワークから到達できるようにする
- キャッシュサイズとスループットは デプロイ時に規模を選択し、ワークロードに合わせてスケールする
- 提供リージョン・上限・対応構成はサービス更新で変わるため、最新の公式ドキュメントで確認する
HPC Cache は手前の高速層で、データの正本はストレージターゲット(NFS や Blob)側にあります。キャッシュ層に重要データだけを置く設計は誤りで、永続性・バックアップはバックエンド側で確保してください。
内部の仕組み
Azure HPC Cache は、計算ノードとバックエンドストレージの間に位置するキャッシュ層です。計算ノードはキャッシュをマウントし、初回アクセスでバックエンドから取得した内容をキャッシュが保持します。以降の同一データへのアクセスはキャッシュから配信されるため、バックエンドのレイテンシや距離の影響を受けにくくなります。
- 計算ノードは NFS でキャッシュをマウントし、バックエンドの所在を意識せずに読み書きする
- バックエンドの NFS サーバーや Azure Blob はストレージターゲットとして登録され、キャッシュのミス時に参照される
- 複数のストレージターゲットを 集約名前空間で1つのツリーに束ね、計算側からは単一のマウントポイントに見せられる
- 読み取りはキャッシュヒットで高速化され、書き込みは 使用モデルに従ってバックエンドへ反映される
オンプレ NAS をストレージターゲットにすると、データ本体をオンプレに残したまま、Azure の計算ノードからは低レイテンシで読めます。バーストして大規模計算を回す「クラウドバースティング」と相性が良い構成です。
設計パターン / ベストプラクティス
- ハイブリッド HPC(クラウドバースティング): オンプレ NAS をストレージターゲットにし、Azure 側の計算ノードへ低レイテンシで供給する
- 集約名前空間で複数拠点を統合: 散在する NFS / Blob を1つのツリーにまとめ、計算ジョブのマウント構成を簡素化する
- 読み取り中心ワークロードに適用: EDA・レンダリング・解析など、同一データの繰り返し読み取りが多いほどキャッシュ効果が大きい
- キャッシュ規模を読み取り性能から逆算: 必要なスループットとワーキングセットの大きさからキャッシュサイズを見積もる
- 計算と同じ VNet / 近いリージョンに配置: ノードとキャッシュのネットワーク経路を短くしてレイテンシを抑える
- 永続性はバックエンドで確保: 重要データのバックアップ・冗長はストレージターゲット側に設計する
運用・監視
- Azure Monitor のメトリクスで、キャッシュのスループット・レイテンシ・ヒット状況やストレージターゲットの状態を監視する
- ワーキングセットに対してキャッシュが小さいと ヒット率が下がり性能が出ないため、規模を見直す
- ストレージターゲットの 到達性・名前解決・NFS エクスポート設定を定期確認し、ミス時のバックエンド遅延を抑える
- 計算ジョブの増減に合わせてキャッシュの スループット規模をスケールし、使わない期間は停止してコストを抑える
- マウントできないときは、VNet の到達性・サブネット・NFS の権限・ストレージターゲット設定を順に切り分ける
コスト
課金は主に、デプロイした キャッシュの規模(スループットとサイズ)と稼働時間に対して発生します。計算がアイドルでもキャッシュを起動している限り費用がかかるため、ジョブのライフサイクルに合わせた起動・停止が重要です。
- 必要なスループットに対して 過剰な規模を確保しない。読み取り要件から逆算してサイズを選ぶ
- ジョブが走らない期間はキャッシュを 停止・削除して稼働コストを抑える
- バックエンドが Azure Blob の場合、ストレージとトランザクションの費用が別途かかる点を見込む
- キャッシュはあくまで高速化層であり、永続容量のコストはストレージターゲット側で発生する
HPC Cache は稼働時間で課金されるため、計算ジョブが終わっても起動したままだと無駄が出ます。ジョブの開始前にプロビジョニングし、完了後は停止・削除する運用を自動化しましょう。
セキュリティ
- キャッシュは VNet 内のサブネットに配置し、計算ノードからプライベートに到達させる。パブリックに晒さない
- 保存時暗号化が利用でき、要件に応じてカスタマー管理キーを使える構成もある
- バックエンドの NFS は エクスポートポリシーとネットワーク制御でアクセス元を限定する
- Azure Blob をターゲットにする場合は Microsoft Entra ID / RBAC とネットワーク制御でアクセスを絞る
- オンプレ NAS をターゲットにする場合は、VPN / ExpressRoute で閉域接続し、経路を保護する
関連サービス・比較
同じ高性能ファイルでも、Azure NetApp Files は永続のプライマリ共有ストレージ、HPC Cache は読み取りを高速化するキャッシュ層という違いがあります。AWS では読み取り中心のファイルキャッシュとして Amazon File Cache が近い位置づけです。
| 観点 | Azure HPC Cache | Azure NetApp Files |
|---|---|---|
| 位置づけ | 読み取り高速化のキャッシュ層 | 永続の高性能共有ストレージ |
| データの正本 | バックエンド(NFS / Blob)側 | ボリューム自体が正本 |
| 主な用途 | HPC のスケールアウト読み取り | DB・SAP・HPC の共有ファイル |
| バックエンド | オンプレ / Azure の NFS・Blob | サービス内のボリューム |
| 向く場面 | ハイブリッド・データ近接 | 低レイテンシの永続共有 |
データの正本を持ちたいなら Azure NetApp Files や Azure Files、既存ストレージの手前で読み取りを高速化したいなら Azure HPC Cache を選びます。HPC Cache は永続ストレージの代替ではなく、計算へデータを近づける加速層と捉えてください。
ハンズオン / CLI例
# リソースグループを作成
az group create --name hpc-rg --location japaneast
# HPC Cache プロバイダーを登録(初回のみ)
az provider register --namespace Microsoft.StorageCache
# HPC Cache を作成(VNet 内のサブネットにデプロイし、規模を指定)
az hpc-cache create \
--resource-group hpc-rg \
--name demo-cache \
--location japaneast \
--cache-size-gb 3072 \
--subnet "/subscriptions/<sub-id>/resourceGroups/hpc-rg/providers/Microsoft.Network/virtualNetworks/hpc-vnet/subnets/cache-subnet" \
--sku-name "Standard_2G"
# NFS バックエンドをストレージターゲットとして登録
az hpc-cache nfs-storage-target add \
--resource-group hpc-rg \
--cache-name demo-cache \
--name nfs-target \
--nfs3-target 10.0.1.10 \
--nfs3-usage-model READ_HEAVY_INFREQ \
--junction namespace-path="/data" nfs-export="/export/data"
# 作成したキャッシュの状態とマウントアドレスを確認
az hpc-cache show \
--resource-group hpc-rg \
--name demo-cache
Azure Service
Azure HPC Cacheを実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
ストレージ
比較で見る軸
クラウド: Azure / カテゴリ: ストレージ / 難易度: intermediate
導入後に効く点
複数のストレージ拠点を1つの名前空間に集約し、計算ノードからのアクセスを低レイテンシ化する。
先に潰すリスク
サービス単体ではなく、権限、ネットワーク、監視、課金、バックアップを含めて設計する必要がある。
- クラウド
- Azure
- カテゴリ
- ストレージ
- 難易度
- intermediate
- 関連資格
- —
- 設計柱
- performance / cost / operational
判断チェックリスト
- 自社の用途が「ストレージ / performance」に近いか確認する。
- 強みである「NFS のバックエンドや Blob の手前に置く読み取り高速化キャッシュ層。HPC のスケールアウト計算向け。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「サービス単体ではなく、権限、ネットワーク、監視、課金、バックアップを含めて設計する必要がある。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。