TL

Cloud Service

Magic Transit

IPレイヤーのネットワーク全体をCloudflareのエッジに引き込み、BGPアナウンスだけでDDoS対策とルーティングを肩代わりさせるサービス。AWS Shield Advanced+Direct Connectの組み合わせに相当。

中級セキュリティ信頼性パフォーマンス効率
最終更新: 2026-06-28公式ドキュメント ↗
TL;DR要点だけ先に
  • 1.自社のIPプレフィックスをCloudflareからBGPアナウンスし、全トラフィックをエッジ経由に切り替える。
  • 2.L3/L4のDDoS攻撃をエッジ側で自動吸収し、クリーントラフィックだけをGREやAnycast接続で戻す。
  • 3.WAFやDNS、Zero Trustなど他のCloudflare製品と同じネットワーク上でまとめて防御・可視化できる。

解決する課題

  • 自社データセンターやクラウド上のネットワークが大規模なDDoS攻撃(帯域消費型・プロトコル型)にさらされ、自前のスクラビング設備では吸収しきれない
  • IPレンジ単位でネットワーク全体を守りたいが、Webアプリケーション単位のWAFやCDNだけではIP・TCP・UDPレイヤーの攻撃をカバーできない
  • 複数の拠点・クラウド・オンプレミスが混在し、経路とセキュリティポリシーの一元管理が難しい
  • 攻撃の有無にかかわらず正規トラフィックの遅延を増やしたくない(スクラビングセンター経由の迂回を避けたい)
  • DDoS対策とWAF、DNS、Zero Trustなどのセキュリティ機能を別々の仕組みで運用するコストと複雑さを減らしたい

主要概念と用語

  • Magic Transit: 顧客が保有するIPプレフィックスをCloudflareのエニーキャストネットワークからアナウンスし、IP・TCP・UDPレイヤーのトラフィック全体をエッジで受け止めてDDoS防御・ルーティングを行うサービス
  • BGPアナウンス: 顧客が自社で保有・管理するIPアドレス範囲(プレフィックス)を、Cloudflareのネットワークから世界中のインターネットへ広報する仕組み。これによりそのIP宛のトラフィックが最寄りのCloudflareエッジへ引き寄せられる
  • エニーキャスト: 同一のIPアドレスを世界中の拠点から同時にアナウンスする技術。攻撃トラフィックも正規トラフィックも最寄りの拠点で吸収・処理されるため、特定拠点への集中を避けられる
  • GRE トンネル / Anycast GRE: クリーントラフィック(攻撃を除去した後の通信)をCloudflareのエッジから顧客のネットワークへ戻すためのトンネリング方式。オンプレミスのルーターやファイアウォールとの間に張る
  • Magic IPsec: GREの代替として使えるIPsecベースの接続方式。トンネルの暗号化を重視する構成で利用する
  • Magic Firewall: Magic Transitに組み込まれたネットワークレイヤーのファイアウォール。IP・ポート・プロトコル単位でルールを定義し、L3/L4の許可・拒否を制御する
  • オンランプ(on-ramp): 顧客ネットワークからCloudflareへトラフィックを送り込む経路(GRE、IPsec、専用接続など)の総称
  • スクラビング: 受信したトラフィックから攻撃性の通信を検知・除去し、正規のトラフィックだけを抽出する処理

仕様・制限・クォータ

  • 対象になるのは顧客が自ら保有・管理するIPプレフィックス(BGPで広報可能なブロック)であり、個別の単一IPだけを保護する用途には向かない
  • BGPアナウンスの開始には、プレフィックスの所有権確認や既存アナウンス元との調整など事前のオンボーディング作業が必要
  • クリーントラフィックの戻し経路(GRE・IPsec・専用接続)は冗長構成での契約が前提になり、単一トンネルのみの構成は可用性上のリスクが残る
  • Magic Firewallのルール数やログ保持期間、GREトンネルの本数などは契約内容によって上限が異なる
  • 対応できるプロトコルはIP・TCP・UDPを中心としたネットワークレイヤーであり、HTTP/HTTPSレベルのアプリケーション攻撃対策は別途WAF等と組み合わせる
対象レイヤーを取り違えない

Magic TransitはIP・TCP・UDPレイヤーのネットワーク全体を守る仕組みです。Webアプリケーション固有の攻撃(SQLインジェクションなど)を防ぐにはWAFを、DNSの保護にはDNS関連の機能を組み合わせて多層で防御します。

内部の仕組み

Magic Transitを導入すると、顧客のIPプレフィックスはCloudflareのエニーキャストネットワークからBGPアナウンスされるようになります。そのプレフィックス宛の全トラフィックは、インターネットの経路制御の仕組みにより最寄りのCloudflareエッジへ自然に引き寄せられます。

  • エッジに到達したトラフィックは、まずネットワークレイヤーの自動DDoS検知にかけられ、異常なパターン(フラッド攻撃、増幅攻撃など)が自動的に検知・遮断される
  • Magic Firewallのルールに従って、許可されたIP・ポート・プロトコルの通信だけが後段へ通過する
  • 攻撃性のトラフィックが除去された後のクリーントラフィックは、GREトンネルやIPsecトンネルを通じて顧客のオンプレミス環境やクラウド上のネットワークへ転送される
  • 同じCloudflareのネットワーク上でWAFやDNS、Zero Trust関連の機能も動作しているため、Magic Transit経由のトラフィックに対してもこれらの機能を重ねて適用できる
  • 攻撃検知やトラフィックの傾向は可視化ダッシュボードに集約され、アナウンスしているプレフィックス単位で状況を確認できる
迂回によるレイテンシ増を避ける設計

エニーキャストにより攻撃時・平常時を問わず最寄りの拠点で処理されるため、特定のスクラビングセンターへ迂回させる従来型の構成に比べて、正規トラフィックへの遅延影響を抑えやすい設計になっています。

設計パターン / ベストプラクティス

  • 戻し経路(GRE/IPsec)は複数拠点・複数トンネルで冗長化し、単一の接続点に依存しない構成にする
  • Magic Firewallのルールは最小権限の原則で設計し、必要なプロトコル・ポートだけを明示的に許可する
  • WAFやDNSなど他のCloudflare製品と組み合わせて多層防御にし、ネットワークレイヤーとアプリケーションレイヤーの両方をカバーする
  • BGPアナウンスの切り替えは段階的な移行計画を立て、既存のISPやアップストリームとのアナウンスとの競合や優先度を事前に調整する
  • オンプレミス側のルーターやファイアウォールの設定は、GRE/IPsecトンネルのキープアライブとフェイルオーバーを明示的に検証しておく

運用・監視

  • ダッシュボードで攻撃の検知状況とトラフィック量の推移をプレフィックス単位・時系列で確認する
  • GRE/IPsecトンネルの**接続状態(up/down)**を継続的に監視し、戻し経路の障害を早期に検知する
  • Magic Firewallのルールごとのヒット数を確認し、意図しない遮断や想定外の通過がないかを定期的に点検する
  • BGPアナウンスの状態(アナウンスされているプレフィックスと経路)を外部の経路観測ツールと突き合わせて異常がないか確認する
  • インシデント発生時は、攻撃の種類・規模・遮断状況をログから追跡し、Magic Firewallのルール改善につなげる

コスト

Magic Transitは保護対象のIPプレフィックス規模や契約内容に応じた費用体系になっており、一般的な従量課金のサービスとは異なる契約形態を取ることが多いサービスです。自前でスクラビング設備やDDoS対策専用機器を保有・運用するコストと比較して、エッジネットワークを共有利用することで初期投資を抑えられる点が特徴です。具体的な料金は契約内容によって変動するため、公式情報での確認が前提になります。

自前設備との比較で考える

自社でDDoS対策設備を持つ場合の設備投資・運用人員・回線増強のコストと、Magic Transitのようなマネージドサービスを利用するコストを、攻撃時の機会損失も含めて比較検討すると判断しやすくなります。

セキュリティ

  • IP・TCP・UDPレイヤーの大規模なDDoS攻撃(フラッド攻撃、増幅攻撃など)を自動検知・自動緩和する
  • Magic Firewallによって、ネットワークレイヤーでのアクセス制御ルールを一元管理できる
  • 戻し経路にIPsecを選択すれば、Cloudflareと顧客ネットワークの間の通信を暗号化できる
  • 同じアカウント内でWAFやZero Trust関連の機能と組み合わせることで、ネットワークからアプリケーションまでの多層防御を構築できる
  • BGPアナウンスの切り替え自体がネットワーク構成の変更を伴うため、権限管理と変更手順の統制が重要になる
単一の戻し経路に依存しない

GREやIPsecの戻しトンネルを1本しか用意しない構成では、そのトンネル自体が単一障害点になります。複数拠点・複数経路での冗長化を最初から前提に設計してください。

関連サービス・比較

Magic Transitはネットワークレイヤー(L3/L4)全体を守るのに対し、CloudflareのWAFはアプリケーションレイヤー(L7)のHTTP/HTTPSトラフィックを守ります。対象レイヤーと保護範囲の違いを整理します。

観点Magic TransitWAF
保護レイヤーIP・TCP・UDP(L3/L4)HTTP/HTTPS(L7)
主な脅威帯域消費型・プロトコル型DDoSSQLインジェクション等のアプリ攻撃
導入単位IPプレフィックス全体Webサイト/ドメイン単位
経路制御BGPアナウンスでトラフィックを引き込むDNS/プロキシ経由でリクエストを受ける

ハンズオン / CLI例

# wranglerでログイン(アカウント認証)
wrangler login

# アカウントIDやトークンを確認(Magic Transitの設定はダッシュボード/APIが中心のため
# wranglerは主に周辺のWorkers連携やログ確認補助として利用する)
wrangler whoami

# アカウントに紐づくログ設定(Logpush等)の一覧を確認する例
wrangler tail --format=pretty

Cloudflare Service

Magic Transitを実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

ネットワーキング

比較で見る軸

クラウド: Cloudflare / カテゴリ: ネットワーキング / 難易度: intermediate

導入後に効く点

L3/L4のDDoS攻撃をエッジ側で自動吸収し、クリーントラフィックだけをGREやAnycast接続で戻す。

先に潰すリスク

サービス単体ではなく、権限、ネットワーク、監視、課金、バックアップを含めて設計する必要がある。

数字・仕様の読み方
クラウド
Cloudflare
カテゴリ
ネットワーキング
難易度
intermediate
関連資格
設計柱
security / reliability / performance

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「ネットワーキング / security」に近いか確認する。
  • 強みである「自社のIPプレフィックスをCloudflareからBGPアナウンスし、全トラフィックをエッジ経由に切り替える。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「サービス単体ではなく、権限、ネットワーク、監視、課金、バックアップを含めて設計する必要がある。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

ネットワーキングsecurityreliabilityperformance