TL

カーディナリティ推定とヒストグラム・スケッチ

実行計画の推定行数がどう算出されるかを根本から理解できます。ヒストグラム・MCV・HyperLogLog の数理と、独立性仮定が崩れて誤差が増幅する仕組みまで押さえられます。

応用カーディナリティ推定ヒストグラム選択率HyperLogLog統計情報最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.等値条件の選択率は n_distinct から、範囲条件は等深ヒストグラムから推定し、偏った値は MCV で別枠補正する。
  • 2.distinct 値数は全件保持せず HyperLogLog で推定し、わずか数 KB で誤差数%・マージ可能という性質を得る。
  • 3.複数条件は独立性を仮定して選択率を掛けるため、相関列では推定が桁で外れ、結合を通じて上流まで誤差が増幅する。

カーディナリティ推定とは何を計算しているのか

オプティマイザがプランを選ぶ唯一の数値的根拠は、各演算子が何行を出力するかの推定値です。これをカーディナリティ推定と呼びます。WHEREJOIN を通すと行数がどう絞られるか、その比率が**選択率(selectivity, 0〜1)**で、推定出力行数は「入力行数 × 選択率」で計算されます。コスト見積もり(→ クエリオプティマイザの内部)は最終的にこの行数推定の上に乗るため、推定が外れれば最適なはずの計画が崩れます。本稿は、この推定を支える分布の要約構造とアルゴリズムを内部から追います。

列分布を要約する3つの統計

実データの全分布を保持するのは非現実的なので、ANALYZE は各列の分布を3種類のコンパクトな要約に圧縮します。

統計捉える対象主な用途
n_distinct異なる値の個数等値条件の選択率
MCV(最頻値リスト)頻出値とその出現比率偏った値の選択率を正確化
ヒストグラムMCV を除いた残りの値域分布範囲条件の選択率

肝心なのは三者が役割分担している点です。MCV が偏りの大きい値を吸収し、ヒストグラムは MCV を除いた残りの値だけを対象に作られます。これにより「数件の超頻出値がヒストグラム区間を歪める」事態を防ぎ、両者を組み合わせて全体の選択率を再構成します。

等値条件:n_distinct と MCV

等値条件 col = v の選択率は、まず MCV リストに v があるかで分岐します。

if v が MCV にある:
    選択率 = その値の MCV 頻度(実測比率そのもの)
else:
    残余選択率 = 1 − (MCV 全体の頻度合計)
    残余の異なる値数 = n_distinct − (MCV 件数)
    選択率 = 残余選択率 ÷ 残余の異なる値数   # 残りは一様と仮定

v が最頻値なら実測比率をそのまま使えるので高精度です。MCV にない値は「残りの確率質量を、残りの distinct 値で均等割り」という一様仮定で近似します。ここで n_distinct の精度が選択率を直接左右します。n_distinct を 2 倍に誤れば、非 MCV の等値選択率は半分にずれます。

distinct 推定:なぜ HyperLogLog なのか

n_distinct は厄介な統計です。合計・最大は逐次集計できますが、異なる値の個数を正確に数えるには原理的に全ユニーク値を覚える必要があり、メモリは distinct 数に比例します。数億行・数千万 distinct では現実的でありません。そこで近似に確率的スケッチ(→ ブルームフィルタと確率的データ構造)の一種、HyperLogLog(HLL) を使います。

着想は「ハッシュ値の先頭に並ぶ 0 の最大数」を見ることです。一様なハッシュ値で先頭 0 が k 個続く確率は 2^-(k+1) なので、観測した最大先頭 0 数が大きいほど多くの異なる値を見たと推測できます。素朴に最大値1つだけ見ると分散が大きいため、HLL は値を m 個のバケットに振り分け、各バケットの最大先頭 0 数を保持し、それらを調和平均で束ねて分散を抑えます。

m 個のレジスタを用意(典型: m = 2^14 = 16384)
各値 x について:
    h = hash(x)
    先頭 p ビットでレジスタ番号 j を決める
    残りビットの先頭 0 の数 + 1 を rank とする
    register[j] = max(register[j], rank)
推定 distinct ≈ 補正係数 × m^2 ÷ Σ 2^-register[j]

この構造の効きどころは3点です。第一に、メモリは distinct 数に依存せずレジスタ数だけで固定(16384 レジスタなら約 12 KB)。第二に、標準誤差は約 1.04 / sqrt(m) で、m = 16384 なら誤差およそ 0.8%。第三に、2つの HLL は同じレジスタ位置の最大値を取るだけでマージ可能で、これは分散集計やパーティション統計の合算に直結します。COUNT(DISTINCT) の近似(PostgreSQL の拡張、Redis の PFCOUNT、各種 DWH の APPROX_COUNT_DISTINCT)の中核がこれです。

スケッチの使い分け

HLL は「異なる値が何種類あるか」の基数推定に特化します。「ある値が含まれるか」を確率的に判定するのはブルームフィルタ、「上位頻出要素は何か」は Count-Min Sketch と、目的ごとにスケッチが異なります。混同すると不要な誤差や容量を招きます。

範囲条件:等深ヒストグラム

col < vcol BETWEEN a AND b の選択率はヒストグラムで推定します。ヒストグラムには2方式あります。

方式区間の決め方弱点
等幅(equi-width)値域を同じ幅で N 分割偏った分布で一部区間に行が集中し精度が落ちる
等深(equi-depth / equi-height)各区間の行数がほぼ等しくなる境界で分割区間内分布は一様と仮定するため山形分布で誤差

主要 RDB が採る等深ヒストグラムは、ソートした値を等頻度に区切る境界(バケット境界)の列だけを保持します。各バケットが全体の 1/N を担うので、範囲 col < v の選択率は「v より下に完全に収まるバケット数 × 1/N」に、v をまたぐバケットの寄与をバケット内一様仮定で按分して加えます。バケット内では値が均等に分布するとみなし、v がバケットの何割の位置かで部分寄与を線形補間するわけです。

等深が等幅より優れるのは、偏った分布でも各バケットが同じ行数を持つため、密な領域に自動的に細かい境界が割り当たる点です。代償として、1バケット内に強い山がある(例:ある一点に集中)と一様仮定が破れ誤差が出ますが、そうした極端な値は先に MCV へ抜けるため実害は抑えられます。

誤差の主因:独立性仮定とその崩壊

単一列の推定が正確でも、複数条件の合成で誤差が生まれます。多くのオプティマイザは WHERE a = 1 AND b = 2 の選択率を、各列の選択率ので近似します。

sel(a=1 AND b=2) ≈ sel(a=1) × sel(b=2)   # 列 a と b は独立と仮定

これは ab が統計的に独立なら正しいものの、相関があると崩壊します。典型は 都道府県 = '東京都' AND 市区町村 = '渋谷区'。渋谷区は東京都にしか存在しないため、sel(市区町村='渋谷区') は既に都道府県を含意しています。独立仮定の積はこれを二重に掛けて選択率を過小評価し、推定行数を実際より桁で小さく見積もります。結果、本来 Hash Join が適切な場面で Nested Loop を選ぶ、といった破綻が起きます。

誤差は単独では止まらず増幅する

カーディナリティはプラン木を下から上へ伝播します。ある結合で推定行数が 10 倍小さく出ると、その出力を入力とする次の結合がさらに過小な入力で見積もられ、誤差が段ごとに掛け算で拡大します。下流1か所の独立性破れが、上流の結合順序ごと誤らせるのはこのためです。OR 条件や JOIN の選択率にも同種の独立性仮定が潜みます。

緩和策は**複数列統計(拡張統計)**です。相関する列の組について、組み合わせの n_distinct や依存度を別途収集し、独立仮定の積ではなく実測寄りの選択率を使わせます(PostgreSQL の CREATE STATISTICS、他 RDB の複合ヒストグラムやカラムグループ統計)。ただし全列の組み合わせは爆発するため、相関が分かっている列に限って明示的に作るのが定石です。

推定が外れたときの読み方

統計の誤差は EXPLAIN ANALYZE(→ クエリ最適化)の推定行数(rows)と実測行数(actual rows)の乖離に現れます。読む順は、まずプラン木の葉に近いノードで両者が大きく食い違う箇所を探すこと。誤差は上へ増幅するので、最上位の乖離より最下流の乖離が根本原因に近いからです。

試験・面接での問われ方

「複数条件で行数推定が大きく外れる理由」を問われたら、列ごとの選択率の積を取る独立性仮定が、相関のある列(郵便番号と都道府県など)で破れるため、と答えます。対処として複数列統計(拡張統計)の作成と ANALYZE での統計更新を挙げ、ヒント句は対症療法だと添えると的確です。

対処の優先順位は、第一に ANALYZE(→ 統計の鮮度を保つ/インデックス)で古い統計を更新、第二に相関列への拡張統計の付与、第三に統計の粒度(ヒストグラムバケット数や統計対象サンプル数)の引き上げです。実行計画ヒントによる結合方式の固定は、推定誤差そのものを直さないため最後の手段にとどめます。カーディナリティ推定は「分布をいかに少ないバイトで正確に要約するか」という近似アルゴリズムの問題であり、その限界を理解することが、壊れた計画を原理から直す近道になります。

データベース Article

カーディナリティ推定とヒストグラム・スケッチを実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

カーディナリティ推定

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: データベース / タグ数: 5

導入後に効く点

distinct 値数は全件保持せず HyperLogLog で推定し、わずか数 KB で誤差数%・マージ可能という性質を得る。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
データベース
タグ数
5

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「カーディナリティ推定 / ヒストグラム」に近いか確認する。
  • 強みである「等値条件の選択率は n_distinct から、範囲条件は等深ヒストグラムから推定し、偏った値は MCV で別枠補正する。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

カーディナリティ推定ヒストグラム選択率HyperLogLog統計情報カーディナリティ推定ヒストグラム選択率
参考: 公式情報