TL

分散SQL(NewSQL)アーキテクチャ

1台のRDBのように使えるのに、裏側は数百台に自動分散——CockroachDB/TiDB/YugabyteDB流「レンジ」設計の正体が分かります。

応用分散SQLNewSQLRaftシャーディング分散システムデータベース最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.分散SQLはSQL層と分散KVストレージ層を分離し、KV層をレンジ(連続キー区間)単位で水平分割する。
  • 2.各レンジは独立したRaft/Paxosグループを持ち、レンジごとに合意する“合意の並列化”がスケールの核心。
  • 3.レンジの分割・再配置はデータ移動ではなくメタデータ(境界とグループ構成)の更新で完結し、局所的なコストで済む。

分散SQLとは何を統合したものか

分散SQL(NewSQL)は、CockroachDB・TiDB・YugabyteDB・Google Spannerに代表される設計思想で、「RDBのようにSQLとACIDトランザクションを使える」体験を保ちながら、内部は複数台の分散KVストアとして水平スケールします。既存の要素技術を並べただけに見えますが、実際には分散合意アルゴリズム(Paxos/Raft)シャーディング方式レンジという単位で結合することで初めて成立する統合システムです。この結合の仕方こそが分散SQLの核心であり、単なる「合意+分割」の足し算ではありません。

アーキテクチャは明確に2層へ分離されます。

  • SQL層(ゲートウェイ層): クエリパース、クエリプランニング、分散結合・集約の調整。任意のノードがステートレスに受け付けられる。
  • 分散KVストレージ層: 実データを保持し、レンジ単位で複製・合意・トランザクションを担う。

SQL層はどのノードでリクエストを受けても良く、実データの所在を意識させません。これにより「1台のRDBに見えるインターフェース」と「実体は分散KV」というギャップを埋めます。

レンジ:シャーディングと合意グループの結合単位

分散SQLの独自性は、レンジ(range)という単位に「シャーディングの分割境界」と「合意グループの範囲」を一致させた点にあります。シャーディング方式で見たレンジ分割そのものですが、ここでは各レンジが独立したRaftグループを背負う点が違います。

レンジ = キー空間の連続区間 + それを複製するRaftグループ

Range 1: [a, g)   -> Raft group A (leaseholder: node1, followers: node2, node3)
Range 2: [g, m)   -> Raft group B (leaseholder: node4, followers: node5, node6)
Range 3: [m, +∞)  -> Raft group C (leaseholder: node2, followers: node4, node6)

1つのRaftグループが担当するのは典型的に数十〜数百MB程度の1レンジのみです。クラスタ全体では数千〜数百万のレンジが同時に、それぞれ独立した合意(Raft)を回している状態になります。合意アルゴリズムの記事で扱った「過半数の交わり」による安全性は各レンジ内で閉じており、レンジAの書き込みとレンジBの書き込みは互いのRaftログに一切干渉しません。

合意の並列化がスケールの本質

単一の合意グループで全データを扱うと、スループットは1グループのログ複製速度に頭打ちになります。分散SQLが数百台へスケールできるのは、合意そのものを高速化したからではなく、合意グループをレンジ単位に無数に分割し並列実行させたからです。1レンジあたりの合意性能は素のRaftと変わらず、スケールは「グループ数を増やす」ことで稼ぎます。

各レンジ内のリーダー(leaseholder、CockroachDBの用語ではリース保持者)は、そのレンジへの読み書きの窓口になります。同じ物理ノードが複数レンジのleaseholderを兼ねることも、逆に1レンジのフォロワーになることも普通にあり、ノード単位とレンジ単位のリーダーシップは独立しています。これによりクラスタ全体の書き込み負荷が特定ノードへ偏るのを防ぎます。

レンジ分割・再配置:メタデータ更新としての水平分散

レンジがしきい値(サイズや負荷)を超えると自動分割(split)されます。原理はシャーディング方式の自動splitと同じで、中央値付近のキーで区間を二分しますが、分散SQLでは分割と同時に新しいRaftグループの起動が伴います。

split の流れ(レンジ + Raftグループの同時分割)

1. Range[a, m) が閾値超過を検知
2. 分割点 s を近似中央値から決定
3. メタデータを更新: Range[a, m) -> Range[a, s) + Range[s, m)
4. 既存Raftグループを分裂させ、[a, s)・[s, m) 双方とも
   新しい独立したRaftグループとして、同じメンバー(node1,2,3)の
   構成のまま再スタート(各レプリカは既に対象データをローカルに
   保持済みのため、データコピー不要で境界だけ切れば済む)
5. ルーティングメタデータ(レンジ→ノード対応表)を更新

ポイントは、split の瞬間にはデータの物理移動が発生しないことです。両側とも直前まで同じメンバーがフォロワーを持つため、コピーは要らず、境界情報とグループ管理情報の更新だけで完結します。データの物理移動が必要になるのはその後の**再配置(rebalance)**フェーズで、負荷やディスク使用量が偏ったノード間でレンジ単位のRaftメンバーシップ変更(Raftのjoint consensus/configuration change)を使い、1レンジずつ安全に移送します。

再配置はRaftのメンバー変更そのもの

レンジを別ノードへ移すとは、そのRaftグループに新ノードをフォロワーとして追加し、ログを追いつかせてから旧ノードを除外する、というRaftの設定変更プロトコルを1レンジごとに実行することです。特別な「コピー機構」を別途持つのではなく、合意アルゴリズムが元々持つメンバーシップ変更機能を再利用しています。移動中も過半数さえ生きていれば読み書きは継続でき、再配置がオンラインで行える理由はここにあります。

レンジのメタデータ(境界・所属ノード・leaseholder)自体も、実は特別なレンジ(CockroachDBのMetaレンジ、TiDBのPlacement Driver管理情報)として同じ仕組みで分散管理されます。クライアントはこのメタデータをキャッシュし、古くなれば NotLeaseholder のようなリダイレクト応答から学習し直します。

SQL層と分散KV層の分離が可能にすること

もう1つの柱が、SQL層をKV層から切り離したことです。SQL層は次を担います。

処理SQL層の役割KV層への要求
クエリプラン述語・結合順序を決定レンジ単位でのスキャン範囲を特定
分散結合各ノードでの部分結合を調整対象レンジへの並列スキャン
トランザクション複数レンジにまたがる操作を束ねるレンジ単位のRaft合意+分散コミット

1つのSQL文が複数レンジにまたがる場合(複数行の更新、複数テーブルの結合など)、SQL層は各レンジのRaftグループに個別に書き込み、それらを2相コミットに類する分散トランザクションプロトコルで束ねます。ここはPercolator方式の分散SI決定論的トランザクション(Calvin)と重なる領域で、CockroachDBはPercolatorに近いタイムスタンプベースの方式、YugabyteDBも同様の系譜、TiDBは実際にPercolatorを直接採用しています。つまり分散SQLの全体像は「レンジ単位の合意(Raft)でストレージを水平分割し、その上にPercolator的な分散トランザクションを載せ、SQL層で1台のRDB風インターフェースに見せる」という3層構造として理解すると筋が通ります。

試験・面接での頻出ポイント

「分散SQLがシャーディングと何が違うか」への答えは、分割単位(レンジ)と合意グループの単位を一致させ、両者を1つのメタデータで管理している点です。「レンジ分割時にデータ移動は起きるか」は、split自体は起きない(メンバー構成を引き継ぐため)、rebalanceでは起きる(Raftのメンバーシップ変更として)、と切り分けて答えられるかが問われます。

まとめ

まとめ

分散SQLは、シャーディングのレンジ分割分散合意(Raft/Paxos)を、レンジ=合意グループという1つの単位に統合したアーキテクチャです。数千〜数百万のレンジがそれぞれ独立にRaftを回すことで合意を並列化し、split/rebalanceをメタデータ更新とRaftのメンバーシップ変更として局所化することで、データ移動コストを抑えたまま水平スケールを実現します。その上にSQL層を分離して載せ、複数レンジにまたがるトランザクションはPercolator的な分散コミットで束ねる——この3層の組み合わせを理解すれば、CockroachDB・TiDB・YugabyteDBの設計はほぼ共通の一枚の図に収まります。

データベース Article

分散SQL(NewSQL)アーキテクチャを実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

分散SQL

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: データベース / タグ数: 6

導入後に効く点

各レンジは独立したRaft/Paxosグループを持ち、レンジごとに合意する“合意の並列化”がスケールの核心。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
データベース
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「分散SQL / NewSQL」に近いか確認する。
  • 強みである「分散SQLはSQL層と分散KVストレージ層を分離し、KV層をレンジ(連続キー区間)単位で水平分割する。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

分散SQLNewSQLRaftシャーディング分散システム分散SQLNewSQLRaft