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データセンターネットワーク:Clos/Fat-Tree トポロジ

サーバーを増やしても帯域が詰まらない仕組みが腑に落ちる。スパインリーフ/Fat-Tree の無閉塞性、二分割帯域、オーバーサブスクリプション比の設計を、数式に頼らず構造で理解できる。

応用データセンターClosFat-TreeスパインリーフECMPネットワーク設計最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.Clos/Fat-Tree は安価な同一スペックのスイッチを多段で組み、コストを抑えつつ広帯域を作るスケールアウト型トポロジ。中核のスパインリーフはその2段版。
  • 2.性能指標は二分割帯域(ビセクション帯域)。リーフの上り口数と下り口数が等しければオーバーサブスクリプション比1:1で無閉塞、上り口を減らすほど比が悪化する。
  • 3.サーバー間(東西)トラフィックの急増に従来のツリー型は耐えられず、等価コスト多重経路(ECMP)で全スパインへ負荷分散する水平構造へ移行した。

なぜ従来のツリー型では足りなくなったのか

古典的なエンタープライズLANは、アクセス・ディストリビューション・コアの 3層ツリー で組まれてきました。この形は、トラフィックの大半が端末から外部へ抜ける 南北(north-south) 方向だった時代には合理的でした。ところが分散ストレージ、マイクロサービス、分散学習が主流になると、トラフィックは サーバー間を横に流れる東西(east-west) が支配的になります。ツリー型ではサーバー同士が通信するたびに上位のコアへ登って降りる必要があり、頂点のリンクに負荷が集中して詰まります。上位ほど帯域を増やす必要が生じ、超高速・高価なシャーシ型コアに依存する構造になってしまうのです。

この行き詰まりへの解が、安価で同一スペックの箱型スイッチを多数並べて広帯域を合成する Clos/Fat-Tree です。L2の転送原理そのものは /network/ethernet-switching-internals/ のままで、変わるのは「どう配線して帯域をスケールさせるか」という構造の設計です。

Clos ネットワークの起源と無閉塞性

Clos ネットワークは1953年に Charles Clos が電話交換網の論文で定式化した、多段クロスバ の理論です。少数ポートの小さなスイッチ(クロスバ)を入力段・中間段・出力段の3段に組み合わせ、巨大な1枚のクロスバと同等の接続能力を、はるかに少ない素子数で実現します。

核心は 無閉塞(non-blocking) という性質です。これは「空いている入力と空いている出力の組であれば、必ず経路を確保できる」ことを指します。無閉塞には強さの段階があり、Clos の定理は、入力段1台あたりのポート数を n としたとき、中間段のスイッチ数 m が m ≥ 2n − 1 なら既存接続を一切張り替えず常に経路を張れる 厳密無閉塞(strictly non-blocking)m ≥ n なら既存接続の張り替えを許せば収容できる 再配置可能無閉塞(rearrangeably non-blocking) が成立することを示しました。データセンターの文脈ではこの「素子を増やせば任意の入出力ペアに帯域を約束できる」という性質を、パケット網に移植して使っています。

回路交換からパケット網への翻訳

元の Clos は回路交換(1接続=1経路を占有)の理論ですが、データセンター網はパケット交換です。そのため「経路を張り替えない」保証は、実装上は 複数の等価経路へパケット単位/フロー単位で分散できる ことに置き換わります。後述の ECMP がこの役割を担い、理論上の無閉塞性をパケット網で近似します。

Fat-Tree とスパインリーフ:木を「太らせる」発想

Fat-Tree は1985年に Charles Leiserson が提唱した、Clos を木構造として再解釈したトポロジです。通常の木は根に近いほどリンクが細く詰まりますが、Fat-Tree は 根に近づくほど枝(帯域)を太くする ことで上位の輻輳を解消します。実装としては「太い1本のリンク」ではなく、同じ容量のリンクを複数本束ねて等価な太さを合成します。

現代のデータセンターで主流の スパインリーフ(spine-leaf) は、この Fat-Tree を実用上もっとも素直な2段に落とし込んだ形です。

  • リーフ(leaf/ToR): ラック上部に置かれ、サーバーを直接収容するスイッチ。下り口にサーバー、上り口に全スパインを接続する。
  • スパイン(spine): リーフ同士を束ねるバックボーン。サーバーは直結せず、すべてのリーフと1本ずつ つながる。

配線規則は単純で、各リーフは全スパインに必ず接続し、リーフ同士・スパイン同士は直接つながない というものです。この規則から、どのサーバーからどのサーバーへ向かう通信も リーフ → スパイン → リーフちょうど3ホップ(リーフ・スパイン・リーフを数えて) で到達し、経路長が均一になります。レイテンシが予測しやすいのはこの均一性の帰結です(帯域とレイテンシの関係は /network/bandwidth-latency/ を参照)。

観点3層ツリー型スパインリーフ(Clos)
主眼のトラフィック南北(端末↔外部)東西(サーバー↔サーバー)
任意サーバー間のホップ数可変(最大コアまで往復)原則一定(リーフ・スパイン・リーフ)
帯域拡張の方法上位を高価な大型機で増強同型スパインを横に追加
冗長経路の活用STPで片側を遮断しがちECMPで全経路を同時利用
スケール方向垂直(スケールアップ)水平(スケールアウト)

決定的な違いは冗長リンクの扱いです。古典L2では複数経路はループの原因なので /network/spanning-tree-internals/ が片側を論理遮断し、半分の帯域を捨てていました。スパインリーフは逆に 全スパインを同時に使い切る ことを前提に設計され、ここで ECMP が要になります。

二分割帯域とオーバーサブスクリプション比

この種のトポロジの性能を測る基準が 二分割帯域(bisection bandwidth) です。定義は「ネットワークをサーバー数が等しい2つに分割したとき、その境界をまたぐリンク帯域の合計の最小値」です。直感的には「最悪の分け方をしたとき、左半分と右半分の間に残る帯域」であり、全サーバーが反対側の相手と同時通信する最悪パターンでの実効帯域を表します。スパインリーフでは、各リーフからスパイン側へ向かう 上りリンク(uplink)の総帯域 が境界帯域を律します。

ここで重要になるのが オーバーサブスクリプション比(oversubscription ratio) です。1台のリーフについて、下り帯域(サーバー向き総容量)対 上り帯域(スパイン向き総容量) の比で定義します。

オーバーサブスクリプション比 = 下り帯域(サーバー側) : 上り帯域(スパイン側)

例: リーフが
  - サーバー向け 48ポート × 25Gbps = 1200 Gbps(下り)
  - スパイン向け 6ポート × 100Gbps = 600 Gbps(上り)
比 = 1200 : 600 = 2 : 1
→ サーバーが一斉に上り方向へ送ると、上りが半分しか無く輻輳しうる

比が 1:1 なら、全サーバーが同時に最大速度で外向き通信しても上りが詰まりません。これが 無閉塞(フルバイセクション) な構成です。比が 2:13:1 と大きくなるほど上り帯域を間引いてコストを下げた構成で、その代わり全サーバー全力通信時には輻輳が起きえます。設計とは、想定する東西トラフィックの同時性とコストを天秤にかけて、この比をどこに置くかを決める作業に他なりません。

比は「箱の選定」より先に決まらない

オーバーサブスクリプション比はリーフの 上り口数と下り口数の比 で物理的に固定されます。たとえば「上り口を増やしてフルバイセクションにしたい」と思っても、スイッチの総ポート数とポート速度の上限が天井になります。比を改善する手段は、上りポートをより高速にする・上り本数を増やす・収容サーバー数を減らすのいずれかで、いずれも台数とコストに直結します。後付けで比だけ変えることはできません。

ECMP:複数スパインへ「均す」中核アルゴリズム

スパインが N 台あれば、あるリーフから別のリーフへは N 本の等価な経路 が存在します。これらをどう使い切るかが ECMP(Equal-Cost Multi-Path) です。ルーティング(OSPF や BGP)が同コストの複数経路を見つけたとき、ECMP はそれらすべてをフォワーディングテーブルに残し、パケットを分散させます。リンクステート計算の基礎は /network/ospf-spf-internals/ と地続きで、違いは「最良1本だけ残す」のではなく「同コスト全部を残す」点です。

分散の単位は パケットごと ではなく フローごと が基本です。理由は、パケット単位でばらまくと同一フロー内のパケットが別経路を通って到着順が乱れ、上位のTCPが再送やウィンドウ縮小を起こすためです。そこで一般的なハッシュ法では、不変なフロー識別子からスパインを選びます。

ECMP のフロー単位ハッシュ(概念)
  key = hash(送信元IP, 宛先IP, プロトコル,
             送信元ポート, 宛先ポート)        # 5-tuple
  選択スパイン = ECMPメンバ[ key mod スパイン台数 ]
  → 同一フローは常に同じスパインへ(順序保存)
  → 異なるフローは台数分に散らばる(負荷分散)

この方式は多数の小フローが行き交う環境では均等に近づきますが、少数の巨大フロー(エレファントフロー)が同じスパインへ落ちると、そのリンクだけ偏って詰まる ハッシュ衝突による不均衡 が起きます。これを緩和するのが、フロー内をさらに細かい単位に砕いて分散する flowlet 方式や、混雑を測って動的に経路を選ぶ適応型負荷分散です。

なぜ DC ファブリックは L3 で組まれるのか

スパインリーフは多くの場合、リンクごとに L3 アドレスを振った ルーテッドファブリック として構築されます。L2 を全域に広げると STP が冗長経路を遮断し、ブロードキャストドメインも肥大します。リンクを L3 化すれば ECMP が自然に全経路を活用でき、ループ防止は IP の TTL とルーティングが担います。テナント隔離が必要な仮想L2は、VXLAN などのオーバーレイで L3 ファブリックの上に乗せます(L2 区画化の基礎は /network/vlan-trunking-internals/)。

トポロジの系統:いつ・何が分岐したか

帯域スケールの考え方は、年代を追って次のように分岐してきました。

年代段階/方式本質的な分岐点
1953Clos の多段クロスバ理論少数素子で無閉塞な大規模交換を合成する原理
1985Fat-Tree(Leiserson)Clos を木に翻訳し、根に近いほど帯域を太らせる
1980s〜3層ツリー型LAN南北トラフィック前提。上位を大型機で増強する垂直拡張
2008頃DC向け Fat-Tree の再評価商用安価スイッチで Clos を組む論文群、東西増大への対応
2010sスパインリーフ+ECMP2段Closを標準化。L3ルーテッドファブリックで全経路活用
2010s後半〜オーバーレイ/適応分散VXLANでL2をL3上に、flowletでハッシュ偏りを是正

分岐の軸は一貫して「増え続ける東西トラフィックを、安価な箱の水平増設でどう吸収するか」です。Clos の無閉塞理論が出発点にあり、Fat-Tree が木への翻訳を与え、商用スイッチの低価格化が実装を可能にし、ECMP が理論上の複数経路をパケット網で現実の負荷分散に変えました。

試験・面接で問われる要点

「東西トラフィックとは」→ サーバー間を横に流れる通信、分散システムで支配的。「二分割帯域とは」→ ネットワークを二等分する境界の最小総帯域、最悪時実効帯域の指標。「オーバーサブスクリプション比1:1の意味は」→ 上り=下りで全サーバー全力通信でも詰まらない無閉塞。「スパインリーフで全経路を使う仕組みは」→ ECMP、フロー単位ハッシュで順序を保ちつつ分散。「なぜ STP ではなく L3 か」→ STP は冗長経路を遮断するが ECMP は同時利用するため。この5点を構造で説明できれば上級。

まとめ

Clos/Fat-Tree は、「少数素子で無閉塞な交換を合成する」という1953年の理論を、安価な同型スイッチの水平増設へと翻訳したものです。スパインリーフはその実用2段版で、全リーフを全スパインに結ぶ均一構造により、東西トラフィックを予測可能なホップ数でさばきます。性能の物差しは二分割帯域であり、設計の自由度はリーフの上り口と下り口の比=オーバーサブスクリプション比に凝縮されます。1:1なら無閉塞、比を上げればコスト優先。そして理論上の複数経路を現実の帯域に変えるのが、フロー単位ハッシュで順序を保ちつつ全スパインへ均す ECMP です。垂直に積み上げる時代から、水平に並べて均す時代へ——その移行を一望できれば、現代データセンター網の骨格はつかめます。

ネットワーク Article

データセンターネットワーク:Clos/Fat-Tree トポロジを実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

データセンター

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: ネットワーク / タグ数: 6

導入後に効く点

性能指標は二分割帯域(ビセクション帯域)。リーフの上り口数と下り口数が等しければオーバーサブスクリプション比1:1で無閉塞、上り口を減らすほど比が悪化する。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
ネットワーク
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「データセンター / Clos」に近いか確認する。
  • 強みである「Clos/Fat-Tree は安価な同一スペックのスイッチを多段で組み、コストを抑えつつ広帯域を作るスケールアウト型トポロジ。中核のスパインリーフはその2段版。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

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