MPLS の原理:ラベルスイッチングと LSP
宛先 IP の最長一致ルックアップを20ビットのラベル照合に置き換える仕組みが腑に落ちる。LSP の確立とラベル配布、VPN や TE の基盤になる理由までさかのぼって理解できる。
- 1.MPLS は入口で固定長20ビットのラベルを付与し、中継ルータはラベルをキーに次ホップとスワップ先を引くだけで転送する。IP の最長一致ルックアップを完全一致照合に置き換える。
- 2.入口から出口までのラベル付き経路が LSP で、ラベルの対応づけは LDP(IGP 追従)や RSVP-TE(明示経路・帯域予約)で配布される。
- 3.ラベルは入れ子(スタック)にでき、外側で転送・内側でサービス識別という分離が L3VPN やトラフィックエンジニアリングの基盤になる。
なぜラベルで運ぶのか
通常の IP 転送では、ルータは1ホップごとに宛先 IP アドレスを見て最長一致(ロンゲストプレフィックスマッチ)で FIB を引きます。一致しうる経路が複数あるため、可変長プレフィックスとの照合という本質的に重い処理を各ホップで繰り返すことになります。
MPLS(Multiprotocol Label Switching)は、この「毎ホップの最長一致」を「1回だけの分類とその後の固定長ラベル照合」に置き換えます。ネットワークの入口ルータが1度だけ宛先を解析して固定長20ビットのラベルを付与し、以降の中継ルータはラベルだけを完全一致で引いて転送します。可変長プレフィックスの最長一致が、固定長キーの完全一致になる——これが MPLS の出発点です。
MPLS は IP に限らず任意の L3 プロトコルを運べるよう設計され、IP ヘッダとデータリンク層の間に独立したラベル層(シムヘッダ)を挿入します。L2.5 と呼ばれるのはこのためで、プロトコルのカプセル化の階層モデルに、L2 と L3 の中間として収まります。
ラベルとロール
MPLS のラベルは4バイトのシムヘッダで、内訳は次のとおりです。
| Label (20bit) | TC/EXP (3bit) | S (1bit) | TTL (8bit) |
↑転送キー ↑優先度(QoS) ↑スタック ↑ループ防止
末尾フラグ
ルータはネットワーク内での役割で呼び分けます。入口/出口の境界が LER(Label Edge Router)、内部の中継が LSR(Label Switch Router) です。動作は3種類に分かれます。
| ロール | 位置 | ラベル操作 | やること |
|---|---|---|---|
| 入口 LER | ingress | PUSH | IP を分類しラベルを付与してスタックに積む |
| 中継 LSR | core | SWAP | 入力ラベルを引いて出力ラベルへ貼り替え転送 |
| 出口 LER | egress | POP | ラベルを外し素の IP として転送 |
各ルータは IP の FIB とは別に LFIB(Label FIB) を持ちます。LFIB のエントリは「入力ラベル → (出力インターフェース, 出力ラベル, 操作)」という写像で、ラベルは完全一致のハッシュ/直接索引で引けるため、最長一致の段数依存がありません。
FEC とスワップの本質
MPLS の分類単位は FEC(Forwarding Equivalence Class) です。FEC とは「ネットワーク内で同じ経路・同じ扱いを受けるパケットの集合」で、典型的には宛先プレフィックスが同じパケット群を指します。入口 LER は IP パケットを FEC へ分類し、その FEC に割り当てられたラベルを PUSH します。同じ FEC に入れば、以降はまったく同じラベルで運ばれます。
中継での スワップ が要点です。ラベルはリンクごとにローカルな意味しか持ちません。あるラベル値が経路全体で一貫している必要はなく、各 LSR が「入ってきたラベル」を「次のリンクで使うラベル」へ貼り替えます。
PUSH(17) SWAP 17→22 SWAP 22→3 POP
[IP] --------> [LER A] --------> [LSR B] --------> [LSR C] --------> [LER D] --> [IP]
ingress L=17 L=22 L=3 egress
ラベルがローカル値で済むからこそ、各ルータは隣接との間でラベルを自由に割り当てられ、グローバルな番号調整が不要になります。これが分散環境でラベル配布を単純化します。
出口 LER が「ラベルを外す」と「IP を引く」を両方やると二度手間です。そこで多くの実装は最後から2番目の LSR でラベルを POP させ(暗黙 null ラベル)、出口には素の IP を渡します。出口は IP ルックアップ1回だけで済み、egress の負荷が下がります。これが PHP です。
LSP の確立とラベル配布
入口から出口まで、ラベルでつながった一方向の経路が LSP(Label Switched Path) です。LSP を作るには、各 LSR の LFIB に「どの FEC にどのラベルを使うか」を埋める必要があります。この対応づけを隣接ルータ間で配るのがラベル配布プロトコルで、代表が LDP と RSVP-TE です。
| 観点 | LDP | RSVP-TE |
|---|---|---|
| 経路の決め方 | IGP の最短経路に追従 | 明示経路(ヘッドエンドが計算) |
| 帯域予約 | なし | あり(リンク帯域を予約) |
| 主用途 | VPN 等の基本的な到達性 | トラフィックエンジニアリング |
| 状態 | ソフトステート不要・単純 | パスごとに状態を維持(soft state) |
| スケール | 経路数に比例し軽い | トンネル数に応じ状態が増える |
LDP(Label Distribution Protocol) は、OSPF や IS-IS が計算した最短経路にそのまま重ねてラベルを配ります。各 LSR は自分が知る FEC(IGP の経路)に対しローカルラベルを割り当て、隣接へ広告します。経路を別途計算しないため軽量で、IGP が選んだ道に沿って LSP ができます。配布は通常「ダウンストリーム自発(downstream unsolicited)」で、下流側が自分宛のラベルを上流へ先回りして配る方式です。
RSVP-TE(RSVP Traffic Engineering 拡張) は、入口(ヘッドエンド)が CSPF などで帯域や制約を満たす明示経路を計算し、その経路に沿って Path メッセージを下流へ送ります。出口が Resv メッセージを返す過程で各ホップがラベルを割り当て、同時にリンク帯域を予約します。IGP の最短経路に縛られず「あえて空いている迂回路を通す」といった制御ができるのが LDP との決定的な差です。
LDP も RSVP-TE も「ラベルをどう配るか」のプロトコルであり、「どこを通るか」を一から決めるわけではありません。LDP は IGP の結果に追従し、RSVP-TE はヘッドエンドの制約計算(CSPF)結果に沿います。経路の素材はルーティングプロトコルが供給し、MPLS はそこにラベル転送の層を載せる、という分業を取り違えないことが重要です。
ラベルスタックが生む応用
S ビット(スタック末尾フラグ)が示すとおり、ラベルは入れ子(スタック)にできます。これが MPLS を単なる高速転送以上のものにします。基本原理は「外側ラベルでネットワークを横断し、内側ラベルでサービスを識別する」分離です。
- L3VPN: 外側ラベルが PE(プロバイダエッジ)間の LSP を、内側ラベルがどの VPN(VRF)かを表します。コア(P ルータ)は外側だけ見て転送するため、顧客の重複した IP アドレス空間を意識せず運べます。これが VPN のうち事業者バックボーンで広く使われる方式の中身です。
- トラフィックエンジニアリング(TE): RSVP-TE で帯域予約付き LSP を張り、特定トラフィックを最短路ではなく余裕のある経路へ誘導します。シムヘッダの TC(旧 EXP)フィールドで QoS のクラスを運び、クラス別に扱いを変えることもできます。
2段スタックの例(L3VPN):
| 外側ラベル(LSP) | 内側ラベル(VPN識別) | IP | ペイロード |
↑Pルータはここだけ見る ↑PEだけが解釈
中継 P ルータがスタックの最上段だけを見て転送する点が鍵です。内側ラベルの意味を知るのは両端の PE だけで、コアはサービスの種類を一切意識しません。役割の分離が、単一のバックボーンに多数の VPN やサービスを多重化する土台になります。
まとめ
MPLS の核心は、可変長プレフィックスの最長一致を固定長ラベルの完全一致へ置き換え、転送をリンクローカルなスワップの連鎖に分解した点です。入口で一度だけ FEC へ分類して LSP に乗せれば、あとは各ホップがラベルを貼り替えるだけで運べます。ラベル配布は IGP に追従する LDP と、明示経路・帯域予約を行う RSVP-TE が担い、ラベルをスタックできる性質が L3VPN とトラフィックエンジニアリングという二大応用を生みます。「外側で運び、内側で識別する」——この階層化こそ、MPLS が現代のキャリアバックボーンの基盤であり続ける理由です。
ネットワーク Article
MPLS の原理:ラベルスイッチングと LSPを実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
MPLS
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: ネットワーク / タグ数: 5
導入後に効く点
入口から出口までのラベル付き経路が LSP で、ラベルの対応づけは LDP(IGP 追従)や RSVP-TE(明示経路・帯域予約)で配布される。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- ネットワーク
- タグ数
- 5
判断チェックリスト
- 自社の用途が「MPLS / ラベルスイッチング」に近いか確認する。
- 強みである「MPLS は入口で固定長20ビットのラベルを付与し、中継ルータはラベルをキーに次ホップとスワップ先を引くだけで転送する。IP の最長一致ルックアップを完全一致照合に置き換える。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。