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B+木とディスク指向インデックスの内部

なぜDBのインデックスが赤黒木でなくB+木なのかが腑に落ちる。ノード分割・併合、葉のリンク走査、ファンアウトとページサイズの関係を、ディスクI/O回数を最小化するという一点から正確に押さえる。

応用B+木インデックスデータベースアルゴリズムストレージ最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.B+木はノードを多分木にして木を低く保ち、検索1回あたりのディスク/SSDのページ読み込み回数を高さ(おおむね3〜4段)に抑えるための構造である。
  • 2.全データを葉だけに置き葉同士を双方向リンクで連結するため、範囲検索は葉のシーケンシャル走査だけで済み、内部ノードはルートへ向かう道標に専念できる。
  • 3.DBが赤黒木を選ばないのは、1ノード1要素では木が高くなりノードごとにランダムな1ページI/Oが発生して、低速なディスクアクセス回数が比較回数ではなく性能を支配するからである。

なぜ赤黒木ではなくB+木なのか

二分探索木の世界では赤黒木やAVL木が王様です。高さを O(log n) に保ち、n が10億でも比較は約30回。CPU上のソート済みマップとしては申し分ありません。ところがディスクやSSDに載るデータベースのインデックスでは、これらはほぼ採用されません。理由は一点に尽きます。コストを支配するのが比較回数ではなくページI/Oの回数だからです。

赤黒木は1ノードに1キーしか持ちません。10億件なら木の高さは約30段。各ノードがディスク上のバラバラな位置にあるなら、1回の検索で最悪30回のランダムなページ読み込みが要ります。HDDのシークは数ミリ秒、SSDでも1ページ読み込みは数十マイクロ秒。一方メモリ内の比較はナノ秒です。つまり「30回の比較」は無視できても「30回のランダムI/O」は致命的に遅い。B+木(B-treeの変種、1970年代に確立)はこの不均衡を1ノードに数百キーを詰めて木を低くすることで解消します。

1ノードを1ページに合わせる

B+木の設計はストレージのページ(ブロック)という最小転送単位から逆算されます。ディスクやSSDは1バイトだけを読むことができず、4KBや8KB、16KBといった固定サイズのページ単位でしか読み書きしません。ならば1ノード=1ページにして、1回のI/Oで取り込んだページを最大限に使い切るのが合理的です。これは仮想メモリがページ単位でしか動かないのと同じ事情です。

1ノードに収まるキー数の上限を**ファンアウト(fan-out)**と呼びます。内部ノードは「キー」と「子ページへのポインタ」を交互に持つので、ファンアウト f はおおよそ次で決まります。

f ≒ ページサイズ / (キー1個 + 子ポインタ1個 のバイト数)
例: 16KBページ, キー16B + ポインタ8B = 24B
    f ≒ 16384 / 24 ≒ 680

ファンアウトが f なら木の高さ h は約 log_f(n)、つまり対数の底が f まで跳ね上がります。f = 680 のとき、葉まで含めて3段で 680^3 ≒ 3.1億、4段で 680^4 ≒ 2100億件を収容できます。どんなに巨大なテーブルでも、検索は3〜4回のページI/Oで葉に到達する。赤黒木の30回との差がそのまま性能差です。

高さは底の対数で決まる

赤黒木とB+木はどちらも高さ O(log n) です。違いは対数の「底」。赤黒木の底は実質2、B+木の底はファンアウト f(数百)。log_2(n)log_680(n) は同じオーダーでも、係数が 1 / log_2(680) ≒ 1/9.4 倍に縮みます。この約9倍の段数差が、そのままランダムI/O回数の差として効きます。底を大きくして木を「低く太く」するのがB+木の核心です。

B木とB+木の決定的な違い — データを葉に集める

「B木」と「B+木」は混同されがちですが、データの置き場所が違います。

観点B木(オリジナル)B+木
値の格納場所内部ノードと葉の両方に値を持つ値はすべて葉だけに持つ
内部ノードの役割値も道標も兼ねる道標(キーと子ポインタ)に専念
内部ノードのファンアウト値ぶん場所を食い低くなりがちキーとポインタだけなので最大化される
葉の連結基本的になし葉同士を双方向リンクで連結
範囲検索木を行き来する中順走査が必要葉リンクをシーケンシャルに辿るだけ

B+木が値を葉だけに置く狙いは二つです。第一に、内部ノードが値を持たないぶん同じページにより多くのキーとポインタを詰められ、ファンアウトが最大化して木がさらに低くなる。第二に、全データが最下段に一列に並ぶため、葉同士をリンクで繋げば範囲検索が自明になります。内部ノードは「目的の葉はどっちの子か」を示す道標に徹し、値は一切持ちません。だから内部ノードに現れるキーは「区切り(separator)」であって、必ずしも実データの完全なコピーである必要すらありません。

葉のリンク走査 — 範囲検索が速い理由

B+木では全ての葉が双方向リンクリストで左右に連結されています。これが範囲検索の威力の源泉です。WHERE age BETWEEN 20 AND 40 を考えます。

1. ルートから内部ノードを辿り、age=20 を含む葉まで降りる   (ページI/O 3〜4回)
2. その葉から右隣の葉へリンクを辿りながら順に読む
3. age=40 を超えた時点で打ち切る

最初に目的の左端へ降りるところだけが木の探索で、あとは葉のリンクを横に辿るシーケンシャルアクセスです。木を上り下りする必要がありません。物理的にも葉ページが近接配置されていればプリフェッチが効き、連続I/OはランダムI/Oより桁違いに速い。これはLSM木が範囲検索で複数ファイルをマージせねばならず不利になりがちなのと、ちょうど裏表の関係です。ORDER BY やインデックスを使った整列出力も、葉が既にキー順に並んでいるので追加のソートなしに実現できます。

ノード分割 — 上へ伝播する挿入

B+木の平衡は、回転ではなく分割(split)と併合(merge)で保たれます。挿入はまず該当する葉まで降り、そこへキーを入れます。葉に空きがあれば終わり。問題は葉が満杯のときです。

満杯の葉に挿入が来ると、葉をほぼ半分に割って2つの葉にします。そして分割の境目のキーを親の内部ノードへ押し上げ(push up)、新しい葉を指すポインタを親に追加します。ここでB+木らしさが出ます。押し上げるのは「キーのコピー(区切り)」であり、実データは両方の葉に残ります(B木なら中央キーは上へ移動して葉から消える)。

満杯の葉 [10 20 30 40]   ← 25 を挿入したい
   分割 → [10 20] [25 30 40]
   区切りキー 25 を親へコピーして押し上げ
   親に「25 未満は左、25 以上は右」という道標が増える

押し上げによって今度は親が満杯になるかもしれません。その場合は親も分割し、さらにその親へ押し上げる。これが連鎖してルートまで到達すると、ルート自身が分割されて新しいルートが1段上に生まれます。木の高さが増えるのはこの瞬間だけです。重要なのは、二分探索木のように葉に偏って伸びるのではなく、常に根の側から1段ずつ均等に高くなる点。だからB+木は挿入順に関わらず完全な平衡を保ち、最悪でも高さは O(log_f n) に収まります。

分割は必ず半分ずつとは限らない

末尾に単調増加するキー(自動採番のIDやタイムスタンプ)を入れ続けると、毎回いちばん右の葉が満杯→分割を繰り返します。素朴に半々で割ると左半分は二度と埋まらず、ページ使用率が50%付近に落ちて空間が無駄になります。多くのDBは「右端への追記」を検知し、分割を9:1に偏らせる(右端最適化)などしてページ充填率を保ちます。挿入パターンがB+木の空間効率を左右する好例です。

ノード併合 — 削除と再平衡

削除は分割の逆です。葉からキーを消した結果、その葉の使用率が下限(一般に約半分)を割るとアンダーフローが起き、平衡を回復する必要があります。手段は二つです。

  • 借用(再分配): 左右どちらかの兄弟ノードに余裕があれば、兄弟から1キーを分けてもらう。同時に親の区切りキーを更新する。
  • 併合(merge): 兄弟にも余裕がなければ、自分と兄弟を1ノードに併合し、その間を仕切っていた親の区切りキーを引きずり降ろす(pull down)。

併合すると親の区切りキーが1つ減るので、今度は親がアンダーフローするかもしれません。これも分割と対称に上へ伝播し、ルートの子が1つだけになればその子が新しいルートになって木の高さが1段縮みます

実装では併合をサボることが多い

理論上は削除のたびにアンダーフローを併合で解消すべきですが、実際のDBエンジンの多くは葉の併合を積極的には行いません。削除で空いたページはフリーリストに繋いで再利用に回し、使用率が下限を割っても放置することがあります。理由は、併合は上へ伝播してロック範囲が広がり並行性を阻害するうえ、削除直後に同じ範囲へ挿入が来て結局また分割されるケースが多いからです。空間効率より並行性と単純さを優先する、現実的な割り切りです。

なぜ比較回数ではなくI/O回数で設計するのか

ここまでの設計判断はすべて**「遅いのはランダムページI/Oであって、ページ内の比較ではない」という前提から導かれます。1ページを読み込むコストに比べれば、そのページ内で数百キーを二分探索する比較コストは無視できるほど小さい。だから「1ノードに数百キーを詰めて比較回数を増やしてでも、I/O回数(=木の高さ)を減らす」のが正解になります。計算量とBig-Oの素朴な感覚では「比較が O(log n) なら何でも同じ」ですが、実機では操作の種類ごとにコストの桁が違う**ため、I/Oを定数倍ではなく支配項として扱う必要があります。

しかもDBはたいてい上位2〜3段(ルートと上位内部ノード)をメモリ上のバッファプールにキャッシュします。すると実際にディスクへ取りに行くのは下位1〜2段だけ。3〜4段の木のうちキャッシュ外は実質1〜2回のI/Oで済み、これがインデックス検索が体感的に「一瞬」で返る正体です。連続したメモリ・I/Oアクセスがハードウェアに優しいという原則はメモリレイアウトとデータ局所性と通底します。

試験・面接での頻出ポイント

「DBが赤黒木でなくB+木を使う理由は?」→ 1ノードに多数キーを詰めてファンアウトを上げ、木を低くしてランダムページI/O回数を最小化するため。コストを支配するのは比較回数でなくI/O回数だから。「B木とB+木の違いは?」→ B+木は値を葉だけに置き、葉を双方向リンクで連結する。これで内部ノードのファンアウトが最大化し範囲検索が葉走査だけで済む。「平衡をどう保つ?」→ 回転でなく分割と併合の上方伝播で、木は根の側から均等に高くなる/縮む。「高さの目安は?」→ ファンアウト数百で3〜4段、数億〜数千億件を収容。

まとめ

B+木の核心は「遅いのはランダムページI/Oだ」という現実から逆算した設計にあります。1ノードを1ページに合わせて数百キーを詰め、ファンアウトを上げて木を3〜4段に低く保つことで、どんな巨大テーブルでも検索を数回のI/Oに収めます。値を葉だけに集めて内部ノードを道標に専念させ、葉を双方向リンクで連結することで、範囲検索と整列出力をシーケンシャルな葉走査だけで実現します。平衡は分割と併合の上方伝播で保たれ、木は常に根の側から均等に高くなり縮みます。赤黒木が「メモリ内の1要素1ノードの構造」なら、B+木は「ディスクのページI/Oを最小化するための多分木」であり、両者を分けるのはアルゴリズムの優劣ではなく、コストを支配するのが比較かI/Oかという土俵の違いです。

プログラミング Article

B+木とディスク指向インデックスの内部を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

B+木

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: プログラミング / タグ数: 5

導入後に効く点

全データを葉だけに置き葉同士を双方向リンクで連結するため、範囲検索は葉のシーケンシャル走査だけで済み、内部ノードはルートへ向かう道標に専念できる。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
プログラミング
タグ数
5

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「B+木 / インデックス」に近いか確認する。
  • 強みである「B+木はノードを多分木にして木を低く保ち、検索1回あたりのディスク/SSDのページ読み込み回数を高さ(おおむね3〜4段)に抑えるための構造である。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

B+木インデックスデータベースアルゴリズムストレージB+木インデックスデータベース