Cloud Service
Cloud VPN
オンプレミス拠点と Google Cloud の VPC を IPsec で暗号化接続するマネージド VPN。AWS の Site-to-Site VPN に相当。
- 1.拠点と VPC を IPsec トンネルで暗号化接続するマネージドゲートウェイ。
- 2.HA VPN は2本のトンネルと冗長インターフェースで高い可用性を提供する。
- 3.経路交換は BGP を使う Cloud Router との組み合わせが基本。
解決する課題
オンプレミスのデータセンターやオフィス、あるいは他のクラウド環境と、Google Cloud の VPC ネットワークを、インターネット越しに暗号化して安全に相互接続したいというニーズに応えます。
- 拠点と VPC のプライベート IP 同士を暗号化したトンネルで接続したい
- 専用線(相互接続)を引くほどではないが安全なハイブリッド接続が必要
- 単一トンネルの障害でも通信を止めたくない、高い可用性を確保したい
- 拠点側のサブネット追加に追従して経路を動的に交換したい
主要概念と用語
- Cloud VPN ゲートウェイ: Google Cloud 側の VPN 終端点。HA VPN ゲートウェイは2つのインターフェース(それぞれ別の外部 IP)を持ち、冗長構成を前提とする
- ピア VPN ゲートウェイ: 拠点側(オンプレミスや他クラウド)の VPN 装置を表すリソース。物理ルーターやソフトウェア VPN を指す
- VPN トンネル: 2つのゲートウェイ間に張る IPsec の暗号化通路。HA VPN では複数本を張って冗長化する
- HA VPN(高可用 VPN): 冗長なトンネル構成で高い可用性を目標とするモード。Cloud Router との BGP 連携が前提
- Classic VPN: 単一インターフェースの旧来モード。静的ルートまたはポリシーベース/動的ルートに対応するが、HA VPN より可用性目標が低い
- Cloud Router: BGP を話すマネージドルーター。VPN トンネル経由で拠点と動的に経路を交換する。HA VPN とは事実上セットで使う
- IKE と IPsec: 鍵交換(IKE バージョン1または2)で安全な経路を確立し、IPsec ESP で通信を暗号化・認証する
- 動的ルーティング vs 静的ルーティング: 動的は BGP で経路を自動学習、静的は対向サブネットを手動定義する方式
仕様・制限・クォータ
- HA VPN の可用性目標: 冗長なトンネルを推奨構成どおりに張った場合、ゲートウェイ単位で高い可用性 SLA が提供される。Classic VPN は SLA の水準が異なる
- 暗号化方式: IKEv1/IKEv2 に対応し、IPsec による暗号化・整合性チェックを行う。鍵は**事前共有鍵(PSK)**で双方を合わせる
- ルーティング: HA VPN は BGP による動的ルーティングが前提。Classic VPN では静的ルートやポリシーベースも選べる
- 冗長性の要件: HA VPN の SLA は、片側だけでなく両インターフェースにトンネルを構成し、ピア側も冗長にすることで満たされる
- スループット: トンネルあたりの帯域には上限の目安があり、必要帯域が大きい場合は複数トンネルへ分散するか、相互接続(Interconnect)を検討する
- クォータ: プロジェクト/リージョンごとにゲートウェイ数・トンネル数などの上限があり、引き上げ申請が可能
- MTU の考慮: IPsec のオーバーヘッドにより実効 MTU が小さくなるため、フラグメント化や MSS クランプの考慮が必要
内部の仕組み
Cloud VPN は、Google Cloud 側の VPN ゲートウェイと拠点側のピアゲートウェイの間に、インターネット経由で IPsec トンネルを確立します。まず IKE で双方が事前共有鍵を使って認証し合い、暗号化に使う鍵を交換します。確立後は、トンネルを流れる IP パケットが IPsec ESP で暗号化・認証され、外から中身が読めない状態で運ばれます。
- HA VPN ゲートウェイは2つのインターフェースを持ち、それぞれ別の外部 IP が割り当てられる。各インターフェースからトンネルを張ることで、片方の経路や対向装置の障害でも通信を継続できる
- 経路情報は Cloud Router の BGP で交換される。拠点側でサブネットを追加すると、その経路が BGP で広報され、VPC 側のルートテーブルに自動反映される(静的ルートの手動更新が不要)
- BGP セッションはトンネルごとに張られ、複数トンネルがある場合は ECMP(等コストマルチパス) で負荷分散やフェイルオーバーが行われる
HA VPN の高い可用性は、両インターフェースにトンネルを構成し、ピア側も冗長にして初めて成立します。 1本のトンネルだけ張って「HA VPN だから安心」と考えるのは誤りです。対向装置やトンネルの片側障害に耐えられる構成かを必ず確認しましょう。
設計パターン / ベストプラクティス
- HA VPN + Cloud Router(BGP) を標準構成とし、Classic VPN は新規では避ける
- 可用性を高めるなら、拠点側にも2台の VPN 装置を用意し、HA VPN の各インターフェースから別々の対向へトンネルを張る
- サブネットの増減に強くするため、静的ルートではなく BGP(動的ルーティング) を採用する
- 大きな帯域や安定した低遅延が要件なら、VPN ではなく Cloud Interconnect(専用線/パートナー) を検討し、VPN はバックアップ経路に回す
- 複数リージョンや複数拠点を束ねるなら、Network Connectivity Center でハブ&スポーク的に管理する構成も選択肢になる
- フラグメント化によるパフォーマンス低下を避けるため、MSS クランプなどで実効 MTU に合わせる
運用・監視
- Cloud Monitoring でトンネルの状態(確立/切断)、送受信バイト数、トンネルあたりの稼働状況を監視する
- BGP セッションの状態(確立/未確立、学習経路数)を Cloud Router 側で確認し、経路が想定どおり交換されているかをチェックする
- トンネルが切れる場合は、事前共有鍵の不一致・IKE バージョン/暗号スイートの相違・ファイアウォールでの UDP 500/4500 と ESP の遮断を疑う
- トンネル数・経路数が想定外に増減したらアラートを設定し、片側トンネル障害を早期に検知する
- 拠点側装置のメンテナンス時にも通信を維持できるよう、フェイルオーバーの実挙動を定期的に試験する
コスト
課金は「VPN トンネルの稼働時間(トンネル単位の時間課金)」と「トンネルを通過した下り(外向き)通信量」が基本です。HA VPN では冗長のためトンネル本数が増える分、トンネル課金も増える点に注意します。
| コスト要素 | 課金の考え方 | 節約のヒント |
|---|---|---|
| VPN トンネル | トンネルごとの稼働時間で課金 | 必要な冗長度に絞り過剰なトンネルを避ける |
| 下り通信量 | トンネル経由の外向き転送量に課金 | 拠点と同リージョンに寄せ転送を最小化 |
| Cloud Router | BGP 利用自体は VPN とセットで使う | 不要なトンネルやセッションを整理する |
| 大容量・常時接続 | VPN を増やすより専用線が割安な場合あり | 帯域要件が大きいなら Interconnect を比較 |
セキュリティ
- 通信は IPsec ESP で暗号化・整合性保護されるため、インターネット経由でも盗聴・改ざんに強い
- 事前共有鍵(PSK)は十分に長くランダムにし、Secret Manager 等で安全に管理する。鍵の使い回しや弱い鍵は避ける
- IKE は可能なら IKEv2 を選び、強度の高い暗号スイートで合意する
- VPC 側のファイアウォールルールで、トンネル経由で到達できる範囲を最小権限に絞る
- 拠点側でも UDP 500/4500(IKE/NAT-T)と ESP のみを許可し、不要なポートは開けない
- 監査の観点では、トンネル確立・切断や設定変更を Cloud Audit Logs で追跡する
本番のハイブリッド接続を Classic VPN の単一トンネルで運用するのは NG。 片側の障害でハイブリッド経路が全断し、オンプレ依存のシステムが止まります。HA VPN + BGP で冗長化し、可能なら専用線をバックアップに組み合わせましょう。
Well-Architected の観点
- 信頼性(Reliability): HA VPN の冗長トンネルと BGP による自動フェイルオーバーで、単一障害点を排除する。拠点側の冗長化も含めて初めて高可用となる
- セキュリティ(Security): IPsec による暗号化、強い事前共有鍵、最小権限のファイアウォール、監査ログで多層に保護する
- コスト最適化: 冗長度と帯域要件に見合ったトンネル本数に抑え、大容量・常時接続なら専用線との費用対効果を比較する
- 運用性: トンネルと BGP の状態を監視し、フェイルオーバーを定期試験して、障害時の挙動を事前に把握しておく
試験で問われるポイント
- 「拠点と VPC を暗号化して接続したい」「ハイブリッド接続を手軽に」→ Cloud VPN(IPsec)
- 「高可用なハイブリッド VPN」「SLA を満たす冗長構成」→ HA VPN + Cloud Router(BGP)
- HA VPN の SLA は両インターフェースにトンネルを張り、ピア側も冗長にして成立する点
- 「拠点サブネットの増減に自動追従」→ 静的ルートではなく BGP(動的ルーティング)
- 「大帯域・低遅延・専用のハイブリッド」→ Cloud VPN ではなく Cloud Interconnect
- AWS で同等の要件なら Site-to-Site VPN、専用線なら Direct Connect が対応する点
関連サービス・比較
VPN は手軽だが帯域・遅延がインターネット依存です。安定帯域・低遅延が必要なら専用線型の Cloud Interconnect を比較検討します。AWS では Cloud VPN が Site-to-Site VPN、Cloud Interconnect が Direct Connect に対応します。
| 観点 | Cloud VPN (GCP) | Site-to-Site VPN (AWS) |
|---|---|---|
| 位置づけ | VPC と拠点を IPsec 接続するマネージド VPN | VPC と拠点を IPsec 接続するマネージド VPN |
| 経路 | インターネット経由(暗号化トンネル) | インターネット経由(暗号化トンネル) |
| 高可用構成 | HA VPN(2インターフェース・冗長トンネル) | 1接続あたり2トンネルの冗長 |
| 動的ルーティング | Cloud Router の BGP | Virtual Private Gateway / Transit Gateway の BGP |
| 静的ルーティング | Classic VPN で対応 | 静的ルートに対応 |
| 専用線の選択肢 | Cloud Interconnect | Direct Connect |
| 暗号化方式 | IPsec(IKEv1/IKEv2) | IPsec(IKEv1/IKEv2) |
ハンズオン / CLI例
# 1. HA VPN ゲートウェイを作成(指定 VPC・リージョン)
gcloud compute vpn-gateways create ha-vpn-gw \
--network=my-vpc --region=asia-northeast1
# 2. 拠点側(ピア)ゲートウェイを登録(対向の外部 IP)
gcloud compute external-vpn-gateways create peer-gw \
--interfaces=0=203.0.113.10
# 3. Cloud Router を作成(BGP の ASN を指定)
gcloud compute routers create vpn-router \
--network=my-vpc --region=asia-northeast1 --asn=65001
# 4. VPN トンネルを作成(インターフェース0、IKEv2、事前共有鍵)
gcloud compute vpn-tunnels create tunnel-0 \
--peer-external-gateway=peer-gw \
--peer-external-gateway-interface=0 \
--region=asia-northeast1 \
--ike-version=2 \
--shared-secret=REPLACE_WITH_STRONG_PSK \
--router=vpn-router \
--vpn-gateway=ha-vpn-gw \
--interface=0
# 5. BGP セッション(Cloud Router のインターフェースとピア)を構成
gcloud compute routers add-interface vpn-router \
--interface-name=if-tunnel-0 \
--vpn-tunnel=tunnel-0 --region=asia-northeast1
gcloud compute routers add-bgp-peer vpn-router \
--peer-name=bgp-peer-0 \
--interface=if-tunnel-0 \
--peer-asn=65002 --region=asia-northeast1
Google Cloud Service
Cloud VPNを実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
ネットワーキング
比較で見る軸
クラウド: Google Cloud / カテゴリ: ネットワーキング / 難易度: intermediate
導入後に効く点
HA VPN は2本のトンネルと冗長インターフェースで高い可用性を提供する。
先に潰すリスク
サービス単体ではなく、権限、ネットワーク、監視、課金、バックアップを含めて設計する必要がある。
- クラウド
- Google Cloud
- カテゴリ
- ネットワーキング
- 難易度
- intermediate
- 関連資格
- —
- 設計柱
- reliability / security
判断チェックリスト
- 自社の用途が「ネットワーキング / reliability」に近いか確認する。
- 強みである「拠点と VPC を IPsec トンネルで暗号化接続するマネージドゲートウェイ。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「サービス単体ではなく、権限、ネットワーク、監視、課金、バックアップを含めて設計する必要がある。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。