5Gコアとネットワークスライシング
1つの物理網から低遅延・高帯域・大量接続という相反する要求を同時に満たせる理由が分かる。SBA・CUPS・スライスのQoS保証まで内部構造で理解できる。
- 1.5GコアはSBA(サービスベースアーキテクチャ)で構成され、各NF(ネットワーク機能)がHTTP/2ベースのAPIで疎結合に連携し、個別にスケールできる。
- 2.CUPSはSMFとUPFを分離し、経路計算はコントロールプレーンに集中させたまま、パケット転送はユーザプレーンで低遅延に処理する。
- 3.ネットワークスライスはS-NSSAIで識別される論理網で、NF・帯域・優先度を専有割当しつつ共通基盤上でQoSを分離保証する。
5Gコアがなぜ作り直されたか
4G(EPC)のコアは、MMEやSGW/PGWといった専用機能ブロックが固定的に連なる構成でした。機能追加のたびに各ノードへ改修が波及し、トラフィックの増減に合わせて特定機能だけをスケールさせることも困難でした。5Gコア(5GC)は、この構造を通信キャリア網の内部にまでSDN的な発想を持ち込むことで刷新しています。コントロールプレーンの機能を細粒度のサービス群に分解し、汎用の仮想化基盤の上でソフトウェアとして展開する——これが5GCの設計思想です。
サービスベースアーキテクチャ(SBA)
5GCの中核は**SBA(Service-Based Architecture)です。従来のように機能ブロックを点対点のインターフェースで固定的につなぐのではなく、各機能を独立したNF(Network Function)**として実装し、共通のAPI経由で疎結合に呼び出し合います。代表的なNFは次のとおりです。
| NF | 略称 | 役割 |
|---|---|---|
| Access and Mobility Management Function | AMF | 端末の登録・モビリティ管理、NASシグナリング終端 |
| Session Management Function | SMF | PDUセッションの生成・IPアドレス割当・UPF制御 |
| User Plane Function | UPF | パケット転送・QoS適用・課金カウント(データプレーン) |
| Policy Control Function | PCF | QoS・課金ポリシーの決定 |
| Network Slice Selection Function | NSSF | 端末の要求に応じたスライスの選択 |
| Network Repository Function | NRF | NFの登録・発見(サービスディスカバリ) |
NF同士は**SBI(Service-Based Interface)**と呼ばれる共通APIで通信します。これはHTTP/2上にJSONペイロードを載せたRESTライクな設計で、各NFはNFサービスをNRFへ登録し、他のNFはNRFに問い合わせて必要なサービスを発見します。マイクロサービス的なサービスディスカバリの仕組みそのものであり、通信の実体はHTTP/2フレームなので、輻輳制御やヘッダ圧縮といった基盤技術は一般的なHTTPの進化と地続きです。
4GのEPCでは、MMEとSGW間、SGWとPGW間といった具合にノード間インターフェースが個別に規定され、新しいNFを増やすたびにこれらの改修が波及しました。SBAでは全NFが同じSBIに接続するため、新規NFはNRFに登録するだけで既存NFから発見・利用可能になります。疎結合ゆえに個々のNFを独立してスケールアウト・更新できる点が最大の利点です。
NF間の呼び出しは、あるNFが必要とするサービスを要求する側と提供する側に分かれ、提供側(NF Service Producer)が要求側(NF Service Consumer)へレスポンスを返す構造です。この認証には相互に身元を確認する仕組みが要り、実運用ではNF間通信をmTLSで相互認証し、トークンベースの認可(OAuth2.0)と組み合わせるのが標準的です。
CUPS:コントロールプレーンとユーザプレーンの分離
5GCの転送を担うNFであるSMFとUPFの関係は、**CUPS(Control and User Plane Separation)**という原則で規定されています。CUPSはもともと4G EPCのSGW/PGWにも導入された考え方で、5GCではSMFとUPFという形でアーキテクチャの前提そのものに組み込まれています。
- SMF(コントロールプレーン)はPDUセッションの確立・変更・解放を判断し、UPFに対してどのパケットをどう転送するかのルール(PFCPのPDR/FAR等)を配布します。
- UPF(ユーザプレーン)は実際のパケットをSMFから受け取ったルールどおりに転送するだけで、経路や課金ポリシーを自分では判断しません。
両者はN4インターフェース(PFCP: Packet Forwarding Control Protocol)で結ばれます。SMFがUPFへ配るルールは、PDR(Packet Detection Rule、どのパケットか)、FAR(Forwarding Action Rule、どう転送するか)、QER(QoS Enforcement Rule)、URR(Usage Reporting Rule)の組で表現され、これはSDNのフローテーブルのmatch/actionと同じ発想です。
CUPSの構造(N4=PFCP):
[SMF] ──N4(PFCP: PDR/FAR/QER/URR)──▶ [UPF]
コントロールプレーン ユーザプレーン
セッション制御・ポリシー判断 パケット転送・QoS適用・課金計測
UE ──PDUセッション─▶ [UPF] ──N6──▶ データネットワーク
(SMFの指示どおり転送するのみ)
CUPSが分離をもたらす最大の利点は、UPFを端末に地理的・論理的に近い場所へ自由に配置できることです。コントロールプレーンのシグナリングは中央のSMFに集約したまま、実データの転送だけをエッジ側のUPFで完結させれば、往復の伝搬遅延を大きく削減できます。これはモバイルエッジコンピューティング(MEC)が低遅延を実現する土台であり、SMFは複数のUPFを状況に応じて選択・切替できます。
CUPS以前のPGWは制御とパケット転送を1つの筐体で担っていたため、UPFに相当する機能を分散配置できず、常に中央のゲートウェイを経由するぶん遅延が積み上がりました。CUPSによりデータパスのみを分散させられるようになった一方、SMFとUPF間のPFCPセッション管理や、UPF選択のロジックが新たな設計・運用の要点になります。
ネットワークスライシング:論理分割とQoS保証
ネットワークスライスは、同一の物理インフラの上に、用途ごとに独立したふるまいをする論理的な網を複数重ねる仕組みです。代表的な想定用途は次の3系統に整理されます。
| スライス種別 | 重視する特性 | 想定用途 |
|---|---|---|
| eMBB(enhanced Mobile Broadband) | 高帯域 | 動画配信・大容量データ通信 |
| URLLC(Ultra-Reliable Low-Latency) | 超低遅延・高信頼 | 遠隔制御・自動運転・産業オートメーション |
| mMTC(massive Machine-Type Comm.) | 大量同時接続 | IoTセンサー群 |
各スライスは**S-NSSAI(Single Network Slice Selection Assistance Information)**という識別子で区別されます。S-NSSAIはSST(Slice/Service Type、eMBB/URLLC/mMTC等の種別)とオプションのSD(Slice Differentiator、同一SST内でテナントなどをさらに区別する値)の組で構成されます。端末が登録要求時に希望するS-NSSAIの集合(NSSAI)を提示すると、NSSFが加入者情報やポリシーと突き合わせて実際に割り当てるスライスを選定し、そのスライス専用(または共用)のAMF/SMF/UPFの組へルーティングします。
スライスごとの分離は、単なるVLANのようなタグ付けにとどまりません。各スライスは専用のNFインスタンス(あるいは共用NFの中でスライスごとに分けられたリソースプール)を持てるため、あるスライスの過負荷が別スライスのAMF処理やUPF転送性能に波及しないリソース面の隔離を実現できます。物理網をまたいだ論理分離という点では、データセンター内でVXLANが1つの物理ファブリック上に複数の論理L2網を重ねるのと同じ抽象化の発想です。
QoSの保証は、5QI(5G QoS Identifier)という標準化されたQoSクラス識別子を軸に行われます。5QIには許容遅延・許容パケット損失率・優先度などが対応づけられており、QERを通じてUPFがこれをスケジューリング・帯域制御として実装します。スライス単位でのQoS保証は、あるスライスに割り当てたリソース(無線リソース、UPFの処理能力、トランスポート網の帯域)を他スライスから隔離しつつ、QoSの優先制御・帯域制御の仕組みをスライス内のフローにも適用する、という二層構造で実現されます。
NFはVM(仮想マシン)またはコンテナとしてNFVI(Network Functions Virtualisation Infrastructure)上に展開されるのが通例です。スライスごとに必要なNFインスタンス数・配置場所・リソース量が異なるため、オーケストレータ(MANO等)がスライスのテンプレート(NST: Network Slice Template)に基づき、NFVI上へNFを自動配置・スケールします。スライスの起動・変更が短時間で行えるのは、この仮想化基盤による宣言的なリソース制御が前提にあるためです。
(1)SBAはNFをHTTP/2ベースのSBIで疎結合につなぎ、NRFで発見する。(2)CUPSはSMF(制御)とUPF(転送)をN4/PFCPで分離し、UPFを端末近くへ分散配置して遅延を削減する。(3)スライスはS-NSSAI(SST+SD)で識別され、NSSFが選定する。(4)スライスの分離はNFリソースの隔離とQERによるQoS適用の二層で成り立つ。(5)NFはNFVI上のVM/コンテナとして仮想化基盤に展開される。
まとめ
5Gコアは、4Gまでの固定的な機能ブロック構成をSBAへ刷新し、NF同士をHTTP/2ベースのSBIとNRFによる発見機構で疎結合につなぐことで、個々の機能を独立にスケール・更新できるようにしました。CUPSはSMFとUPFをPFCPで分離し、コントロールプレーンを中央に集約したままユーザプレーンだけを端末近くへ分散配置することで低遅延を実現します。ネットワークスライシングはS-NSSAIで識別される論理網を同一物理基盤上に重ね、NFリソースの隔離と5QI/QERによるQoS適用の二層構造で、eMBB・URLLC・mMTCという相反する要求を1つの網で同時に満たします。これらはいずれもNFVI上の仮想化基盤があって初めて成立する設計であり、5Gコアはネットワーク機能そのものをソフトウェアとして扱うという発想の到達点だと言えます。
ネットワーク Article
5Gコアとネットワークスライシングを実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
5G
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: ネットワーク / タグ数: 6
導入後に効く点
CUPSはSMFとUPFを分離し、経路計算はコントロールプレーンに集中させたまま、パケット転送はユーザプレーンで低遅延に処理する。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- ネットワーク
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「5G / ネットワークスライシング」に近いか確認する。
- 強みである「5GコアはSBA(サービスベースアーキテクチャ)で構成され、各NF(ネットワーク機能)がHTTP/2ベースのAPIで疎結合に連携し、個別にスケールできる。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。