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ヒートシンクと冷却の原理:伝導・対流・放射と熱伝達

発熱した素子をなぜそのヒートシンクで冷やせるのかを、伝導・対流・放射の三形態から原理で説明します。空冷の限界と液冷への切り替え点を、勘ではなく熱伝達の式で判断できるようになります。

応用冷却ヒートシンク熱伝達データセンター液冷TIM最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.熱の移動は伝導(フーリエ則、固体内をΔTと熱伝導率kで流れる)・対流(ニュートン冷却則、ΔTと熱伝達率hで流体へ逃がす)・放射(T4に比例、低ΔTでは寄与小)の三形態に分かれ、冷却経路は各段を直列につないだ熱抵抗で表せる。
  • 2.ヒートシンクは表面積を稼ぐフィン構造だが、フィンが長いほど先端の温度が下がり効くのはフィン効率ηfの分だけ。TIM(熱界面材)は界面の空気を排除して接触熱抵抗を下げる役割で、ここがボトルネックになりやすい。
  • 3.空冷は対流のhが空気では小さく(自然対流で数〜十数、強制空冷で数十〜数百W/m2K)熱流束に上限がある。高密度ラックでは液冷(水は空気の数千倍のh、冷却液直接接触やコールドプレート)へ切り替える。

冷却とは「発熱と同じだけ熱を周囲へ運び出す」収支の問題

素子が P ワットを発熱しているとき、温度はその熱を周囲へ運び出せる速度で決まります。発熱と放熱が釣り合った点が定常温度です。放熱が追いつかなければ温度は上がり続け、最終的に /power/power-thermal-design/ で扱うジャンクション温度の定格を超えて破壊します。冷却の設計とは「発生した P を、許容温度差の範囲内で周囲(空気や冷却液)まで運び切る経路を作る」ことに尽きます。

熱を運ぶ物理は 伝導・対流・放射 の三つしかありません。ヒートシンクも液冷も、この三形態の組み合わせを最適化しているだけです。まず各形態の原理を、冷却経路を貫く順番(チップ内部 → 界面 → ヒートシンク → 流体)に沿って見ていきます。

伝導 ── フーリエの法則:固体内をΔTで流れる

固体内部や接触した固体間で、高温側から低温側へ熱が流れるのが 熱伝導 です。支配するのは フーリエの法則 で、熱流は温度勾配に比例します。

フーリエの法則(一次元・平板):
  Q = k ・ A ・ ΔT / L

    Q   : 熱流(W)
    k   : 熱伝導率(W/m・K、材料固有)
    A   : 断面積(m2)
    L   : 熱が流れる距離(厚み, m)
    ΔT  : 両端の温度差(K)

これを熱抵抗の形に書き直すと Rθ = L / (k・A) となり、ΔT = Q・Rθ という /power/power-thermal-design/ の熱抵抗ネットワークそのものになります。つまり伝導の良し悪しは「k が高い材料を、薄く(L 小)、広い断面(A 大)で使う」ことで決まります。

材料の k の差は決定的です。代表値(W/m・K)を比べると、なぜ放熱器が銅やアルミで作られるかが分かります。

材料熱伝導率 k (W/m・K)冷却での役割
約400最高クラス。重く高価だがベースプレートやヒートパイプに
アルミ約200軽く安価。フィン本体の主流
サーマルグリス(TIM)1〜10程度界面充填材。固体より桁違いに低い
空気約0.026ほぼ断熱。界面に挟まると致命的

注目すべきは空気の k が桁外れに低い点です。界面のわずかな空気層が、銅のブロックより大きな熱抵抗を作ります。これが次のTIMの話につながります。

界面とTIM ── 接触熱抵抗が経路を支配する

二つの固体(チップのケースとヒートシンク)を密着させても、微視的には凹凸が触れ合うだけで、谷間には空気が残ります。空気の k は約0.026しかないため、この界面が経路全体のボトルネックになります。

TIM(Thermal Interface Material、熱界面材) はこの隙間を埋める材料です。グリス・熱伝導シート・相変化材・液体金属などがあり、いずれも「空気よりはるかに高い k の物質で空隙を置き換える」のが目的です。

TIMは『薄く均一に』──厚塗りは逆効果

TIM自身の k(1〜10程度)は金属より2桁低いため、TIM層は薄いほど良いです(Rθ = L/(k・A)L を最小化)。厚く塗ると、せっかく界面の空気を排除しても今度はTIM層そのものが熱抵抗になります。TIMの役割はあくまで「空気の排除」であり、TIMを厚い断熱層にしてはいけません。接触圧で薄く広げ、空隙だけを埋めるのが正解です。

液体金属系TIMは k が数十W/m・Kと高く、高発熱CPU/GPUで使われますが、アルミを腐食させ電気を通すため取り扱いに注意が要ります。

対流 ── ニュートンの冷却則:固体表面から流体へ

ヒートシンクの表面まで伝導で運ばれた熱は、最後に空気や冷却液という 流体 へ渡されます。これが 対流 で、ニュートンの冷却則 が支配します。

ニュートンの冷却則:
  Q = h ・ A ・ ΔT

    h   : 熱伝達率(W/m2・K、流体と流れ方で大きく変わる)
    A   : 表面積(m2)
    ΔT  : 表面温度 − 流体温度(K)

ここで効くのが 熱伝達率 h表面積 A です。h は流体の種類と流速(自然対流か強制対流か)で桁が変わります。

冷却方式代表的な h (W/m2・K)特徴
空気・自然対流2〜25ファンなし。h が小さく熱流束に厳しい上限
空気・強制対流25〜250ファンで流速を上げ h を稼ぐ。空冷の主戦場
水・強制対流数百〜数万空気の数百〜数千倍。液冷が圧倒的に有利な理由
相変化(沸騰など)数千〜数万超蒸発潜熱を使う。極めて大きい h

空気の h が小さいことが、空冷の本質的な限界です。Q = h・A・ΔTh が小さいなら、同じ Q を逃がすには A(表面積)か ΔT(温度差)を大きくするしかありません。ΔT は素子の許容温度で頭打ちなので、残るのは A を増やす道──これが フィン の存在理由です。

ヒートシンクとフィン効率 ── 表面積を稼ぐが先端ほど効かない

ヒートシンクは薄い板(フィン)を多数並べ、対流に使える表面積 A を稼ぐ構造です。フィンを長くすれば A は増えますが、ここに フィン効率 という落とし穴があります。

熱はフィンの根元から先端へ伝導で流れますが、その途中で対流により表面から熱が逃げていきます。すると先端へ行くほどフィン自身の温度が下がり、先端付近では ΔT(フィン表面 − 空気)が小さくなって対流が弱まります。つまり フィン全体が根元と同じ温度で働くわけではない

フィン効率 ηf の考え方:
  ηf = 実際にフィンが逃がす熱 / フィン全体が根元温度だった場合の理想放熱

  ηf が下がる要因:
    ・フィンが長い / 薄い(先端まで熱が届かず温度低下)
    ・材料の k が低い(根元→先端の伝導が悪い)
    ・h が大きい(途中で熱が逃げ先端まで届かない)

  目安: 短く厚く k の高いフィンほど ηf は1に近い
フィンを長くしても放熱は比例して増えない

フィン長を2倍にしても、先端側は温度が下がって効きが悪いため放熱は2倍にはなりません。ある長さを超えると、増えた表面積のほとんどが「ぬるい先端」になり、重量とコストだけ増えて放熱はほぼ頭打ちになります。実用ヒートシンクは ηf が0.7〜0.9程度に収まる長さに設計され、それ以上は枚数を増やすか、ヒートパイプで根元を等温化する方が効果的です。

ヒートパイプは内部の作動液の蒸発・凝縮(相変化)でフィン根元まで熱を等温に近く運び、実効的に k を桁違いに引き上げる部品です。これも「先端まで高温を届けて ΔT を保つ」ための工夫です。

放射 ── T4に比例、低温差では脇役

三形態の最後が 放射(ふく射) です。物体は表面温度に応じて電磁波として熱を放出し、その量は 絶対温度の4乗 に比例します(ステファン・ボルツマンの法則)。

放射による放熱:
  Q = ε ・ σ ・ A ・ (Ts^4 − Tsurr^4)

    ε    : 放射率(0〜1、黒い粗面で大きい)
    σ    : ステファン・ボルツマン定数
    Ts   : 表面の絶対温度(K)
    Tsurr: 周囲の絶対温度(K)

T の4乗で効くため、高温(数百度以上)では支配的になりますが、電子機器の数十度〜100度程度・周囲との温度差が小さい領域では放射の寄与は対流に比べ小さく、設計では脇役です。ヒートシンクを黒アルマイト処理するのは ε を上げて放射を稼ぐ意味もありますが、強制空冷では効果は限定的です。一方、ファンが使えない密閉・無風環境(ファンレス機器、宇宙機など)では対流が弱く、放射が相対的に重要になります。

空冷vs液冷 ── データセンターでの切り替え点

冷却経路全体は「チップ → TIM → ヒートシンク(伝導)→ 流体(対流)」という直列の熱抵抗で、最も大きい段が全体を支配します。空気の h が小さいため、空冷では最後の対流段がボトルネックになりやすく、ラックあたりの発熱密度が上がるとここで頭打ちになります。

観点空冷(ファン+ヒートシンク)液冷(コールドプレート/液浸)
主な対流媒体空気(h: 数十〜数百)水・冷却液(h: 数百〜数万)
除熱できる熱密度低〜中(ラック十数kWが目安)高(ラック数十〜100kW級も)
経路TIM→ヒートシンク→空気を直接対流TIM→コールドプレート→液→熱交換器、または液浸で直接
弱点・コスト高密度で限界・騒音・大量送風電力配管/漏液リスク・初期コスト・運用の複雑さ

切り替えの原理はシンプルです。Q = h・A・ΔT で、空気の小さい h では A(巨大ヒートシンク)と送風量を増やしても限界がある。水は h が空気の数百〜数千倍あるため、同じ温度差で桁違いの熱を運べます。AIアクセラレータのように1チップで数百W〜1kW級を発熱し、ラックで数十kWを超える現代のデータセンターでは、空冷の対流段が原理的に追いつかず、コールドプレート液冷(チップに水路ブロックを密着)や 液浸冷却(基板ごと冷却液に沈める)へ移行します。ラック・施設レベルの給電と熱処理の全体像は /power/datacenter-power-architecture/ を参照してください。

液冷でもTIMと界面は逃げられない

液冷に変えても、チップからコールドプレートへ熱を渡す最初の段は依然として 伝導とTIM です。h を液で大きくしても、界面の接触熱抵抗が支配的なら全体は改善しません。冷却方式を問わず「最も大きい熱抵抗の段」を見つけて潰すのが鉄則で、高発熱チップでは液体金属TIMや、チップ直下に微細流路を彫る方式まで踏み込みます。

まとめ

  • 冷却は「発熱 P と等しい熱を許容ΔT内で周囲へ運ぶ」収支問題で、伝導・対流・放射 の三形態の組み合わせ。
  • 伝導は フーリエ則 Q=k・A・ΔT/LRθ=L/(k・A) で熱抵抗化できる。k の高い銅・アルミを薄く広く使う。空気の k は桁違いに低く、界面に挟まると致命的。
  • TIM はその界面の空気を排除して接触熱抵抗を下げる材で、薄く均一が原則。厚塗りは逆効果。
  • 対流は ニュートン冷却則 Q=h・A・ΔTh は空気で小、水で桁違いに大。空気の小さい h を補うため フィンA を稼ぐが、フィン効率 ηf により長くしても比例して効かない。
  • 放射は T4 比例で低温差では脇役、無風環境で相対的に効く。
  • 高密度ラックでは空気の対流段が原理的に限界に達し、h の大きい 液冷(コールドプレート・液浸)へ切り替える。素子側の温度算定は /power/power-thermal-design/ を参照。

電源 Article

ヒートシンクと冷却の原理:伝導・対流・放射と熱伝達を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

冷却

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6

導入後に効く点

ヒートシンクは表面積を稼ぐフィン構造だが、フィンが長いほど先端の温度が下がり効くのはフィン効率ηfの分だけ。TIM(熱界面材)は界面の空気を排除して接触熱抵抗を下げる役割で、ここがボトルネックになりやすい。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「冷却 / ヒートシンク」に近いか確認する。
  • 強みである「熱の移動は伝導(フーリエ則、固体内をΔTと熱伝導率kで流れる)・対流(ニュートン冷却則、ΔTと熱伝達率hで流体へ逃がす)・放射(T4に比例、低ΔTでは寄与小)の三形態に分かれ、冷却経路は各段を直列につないだ熱抵抗で表せる。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

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