電源の熱設計:損失計算・熱抵抗モデル・ジャンクション温度
発熱の見積もりから熱抵抗ネットワーク、ジャンクション温度の算定までを一本の手順でつかめます。素子が焼けるか否かを設計段階で数値で判断できるようになります。
- 1.発熱源は導通損(I二乗・Rで効く定常損)とスイッチング損(電圧と電流が重なる過渡損で周波数に比例)に分けて見積もる。
- 2.熱の流れはRθ(jc/cs/sa)を直列・並列につないだ熱抵抗ネットワークとして電気回路アナロジー(温度差=電圧、電力=電流、Rθ=抵抗)で解く。
- 3.Tj = Ta + P・(Rθjc + Rθcs + Rθsa) で求め、定格Tjmaxに対してディレーティングし、過渡はZθ(過渡熱インピーダンス)で評価する。
熱設計は「素子が焼けるか」を事前に数値で出す作業
電源回路の信頼性は、最終的に パワー半導体のジャンクション温度 Tj を定格内に収められるか で決まります。どれだけ効率の良いトポロジを選んでも、発生した熱を逃がしきれなければ素子は熱暴走し破壊します。熱設計とは「素子で何ワット発生し、それが何度の温度上昇を生むか」を 設計段階で数値として出し、放熱器やデバイス選定に落とし込む作業です。
手順は3段に分かれます。(1) 発熱源(損失)を見積もる、(2) 熱の逃げ道を熱抵抗ネットワークとしてモデル化する、(3) そのネットワークに損失を流し込んで Tj を求める。回路の電力の出入り自体は /power/circuit-fundamentals/ の電圧・電流・電力の関係が前提です。
発熱源の見積もり ── 導通損とスイッチング損
スイッチング素子(MOSFET や IGBT)の損失は、大きく 導通損 と スイッチング損 に分かれます。両者は性質が違うため別々に計算します。
| 損失の種類 | 発生メカニズム | 支配する要因 |
|---|---|---|
| 導通損 | オン状態で電流が抵抗を流れる定常損失 | オン抵抗 Rds(on)・通電電流の実効値・デューティ |
| スイッチング損 | オン↔オフ遷移中に電圧と電流が同時に存在する過渡損失 | 遷移時間・スイッチング周波数 fsw・電圧電流の積 |
| 駆動・その他 | ゲート充放電損や逆回復損など | ゲート電荷 Qg・ボディダイオード特性 |
導通損は MOSFET なら次のように書けます。電流の実効値で効くため、リプルの大きい電流では実効値計算が重要です。
導通損(MOSFET):
Pcond = Irms^2 ・ Rds(on) ・ D
Irms : 導通期間中の電流の実効値(オン区間で測ったRMS)
Rds(on): オン抵抗(温度上昇で増えるため高温時の値を使う)
D : デューティ比(その素子が導通している時間割合)
※ Irms をスイッチング周期全体で取ったRMSにすると D は不要。
Dを掛けるのは「オン区間のRMS」を周期で平均化するため。
IGBT はオン状態が飽和電圧 Vce(sat) でほぼ一定なので Pcond = Iavg ・ Vce(sat) ・ D(Iavg はオン区間の平均電流)のように平均電流と電圧降下の積で見るのが実務的です。
スイッチング損は遷移ごとに発生し、回数(周波数)に比例して増えます。これが高周波化の代償です。
スイッチング損:
Psw = (1/2) ・ Vds ・ Id ・ (ton + toff) ・ fsw
Vds, Id : 遷移時にかかる電圧・流れる電流
ton, toff : オン遷移・オフ遷移の所要時間
fsw : スイッチング周波数
MOSFET のオン抵抗は温度が上がると増加します(典型的に Tj=125度で常温の約1.5~2倍)。導通損が温度を上げ、その温度上昇がさらに Rds(on) を上げて損失を増やす——という正帰還になります。熱計算では常温値ではなく 想定する高温時の Rds(on) を使わないと、損失を過小評価して焼損します。
なぜ周波数を上げたくなるかというと、SMPS では受動部品(インダクタ・コンデンサ)を小型化できるからです。その動機と全体像は /power/smps-principles/ を参照してください。高周波化は小型化と引き換えにスイッチング損を増やす、というトレードオフがここに現れます。
熱抵抗ネットワーク ── 電気回路アナロジーで熱を解く
損失 P が分かったら、それが何度の温度上昇を生むかを求めます。ここで使うのが 熱抵抗の電気回路アナロジー です。熱の流れを電流、温度差を電圧と読み替えると、オームの法則とまったく同じ形で扱えます。
| 電気回路 | 熱回路 | 単位 |
|---|---|---|
| 電流 I | 熱流(消費電力)P | A ↔ W |
| 電圧 V | 温度差 ΔT | V ↔ ℃ |
| 抵抗 R | 熱抵抗 Rθ | Ω ↔ ℃/W |
| V = I・R | ΔT = P・Rθ | — |
熱抵抗 Rθ は「1W 流したとき何度の温度差が生じるか」を表す ℃/W の量です。ジャンクションから周囲空気までの経路は、複数の界面を 直列 に通るため、各区間の Rθ を足し合わせます。
直列の熱抵抗(チップ → 周囲空気):
ジャンクション
│ Rθjc : ジャンクション−ケース間(素子内部、データシート値)
ケース
│ Rθcs : ケース−ヒートシンク間(熱伝導材 TIM/グリスで決まる)
ヒートシンク
│ Rθsa : ヒートシンク−周囲空気間(放熱器の性能、風速で変わる)
周囲空気(Ta)
合成: Rθja = Rθjc + Rθcs + Rθsa
この直列モデルが熱設計の骨格です。電気回路と同じく、複数素子で放熱器を共有する場合は各素子の Rθjc + Rθcs が 並列 に Rθsa へ合流する、といった合成も同じ規則で計算できます(このあたりは交流の合成インピーダンスを扱う /power/ac-impedance-phasor/ と数学的に同型の操作です)。
ケースとヒートシンクの間には微視的な凹凸があり、空気が挟まると断熱層になります。サーマルグリスや熱伝導シート(TIM)で埋めますが、塗りすぎ・塗りムラ・絶縁シート挿入があると Rθcs が Rθjc を上回ることも珍しくありません。「良い放熱器を付けたのに冷えない」原因の多くはこの界面です。Rθcs は接触圧・TIM の厚みと熱伝導率・接触面積で決まります。
ジャンクション温度 Tj の算定とディレーティング
ネットワークができたら、損失 P を流し込んで Tj を求めます。周囲温度 Ta を起点(電気回路でいうグランド電位)に、各熱抵抗での温度上昇を積み上げます。
ジャンクション温度:
Tj = Ta + P ・ (Rθjc + Rθcs + Rθsa)
= Ta + P ・ Rθja
数値例:
P=20W, Ta=40℃,
Rθjc=0.5, Rθcs=0.3, Rθsa=1.2 [℃/W]
Tj = 40 + 20 ・ (0.5 + 0.3 + 1.2)
= 40 + 20 ・ 2.0
= 80℃
得られた Tj をデバイスの絶対定格 Tjmax(一般に 150 ~ 175℃)と比べます。ただし定格ギリギリで使ってはいけません。寿命(特にボンディングや半田の熱疲労)は温度に対し指数的に劣化するため、ディレーティング して余裕を持たせます。実務では Tjmax の 80% 程度、あるいは Tj ≦ 125℃ を目安に置くことが多いです。
設計では Tj を未知数にするのではなく、許容 Tj を先に決めて 必要な Rθsa を逆算 します。Rθsa ≦ (Tj許容 − Ta) / P − Rθjc − Rθcs を満たす放熱器を選ぶ、という手順です。例の数値で Tj許容=125℃なら、Rθsa ≦ (125−40)/20 − 0.5 − 0.3 = 3.45℃/W となり、要求はかなり緩い——強制空冷でなく自然空冷の小型ヒートシンクで足りる、と判断できます。
過渡の熱 ── パルス負荷では Zθ で評価する
ここまでは 定常状態(連続して P を流し続けたときの平衡温度)の話でした。しかし電源では短いパルス的な大電流(突入電流、間欠負荷、短絡保護動作など)が頻繁にあります。短時間なら素子やケースの 熱容量 が熱を一時的に蓄え、定常の Rθ で計算するより温度上昇は小さくなります。
これを表すのが 過渡熱インピーダンス Zθ(t) です。Rθ に熱容量(電気回路でいうコンデンサ)を並列に足した RC ラダー(フォスター/カウアーモデル)で素子内部をモデル化し、パルス幅に応じた実効的な熱抵抗を読みます。
過渡の温度上昇:
ΔTj(t) = P ・ Zθ(t)
Zθ(t) の性質:
t → 0 : Zθ ≈ 0 (熱容量が吸収、まだ温度は上がらない)
t → 十分長 : Zθ → Rθ (定常熱抵抗に漸近)
単発パルスより、デューティのある繰返しパルスは
平均損失ぶんのベース上昇にピークが乗る形になる。
連続定格に余裕があっても、短時間に大電流が流れるとジャンクションだけが局所的に跳ね上がり、ケースが温まる前に破壊することがあります(SOA 逸脱)。突入や保護動作のような過渡は、平均電力ではなく そのパルス幅に対応する Zθ(t) で瞬時の Tj を確認しなければなりません。デバイスのデータシートには Zθ-時間特性のグラフが必ず載っています。
まとめ
- 熱設計は 損失見積もり → 熱抵抗ネットワーク → Tj 算定 の3段。最終目標は Tj を Tjmax 以下(ディレーティングして 125℃ 目安)に収めること。
- 発熱源は 導通損(Irms二乗・Rds(on)、定常) と スイッチング損(電圧電流の重なり、fsw に比例) に分けて計算する。Rds(on) は高温値を使う。
- 熱の流れは 温度差=電圧・電力=電流・Rθ=抵抗 のアナロジーで解け、
Rθja = Rθjc + Rθcs + Rθsaの直列合成が骨格。界面の Rθcs を侮らない。 Tj = Ta + P・Rθjaで求め、放熱器は 必要 Rθsa を逆算 して選ぶ。- パルス・過渡負荷は定常 Rθ ではなく 過渡熱インピーダンス Zθ(t) で瞬時温度を評価する。電源全体の構成は /power/smps-principles/、基礎量は /power/circuit-fundamentals/ を参照。
電源 Article
電源の熱設計:損失計算・熱抵抗モデル・ジャンクション温度を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
熱設計
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 5
導入後に効く点
熱の流れはRθ(jc/cs/sa)を直列・並列につないだ熱抵抗ネットワークとして電気回路アナロジー(温度差=電圧、電力=電流、Rθ=抵抗)で解く。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 電源
- タグ数
- 5
判断チェックリスト
- 自社の用途が「熱設計 / 電源」に近いか確認する。
- 強みである「発熱源は導通損(I二乗・Rで効く定常損)とスイッチング損(電圧と電流が重なる過渡損で周波数に比例)に分けて見積もる。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。