PWMとフィードバック制御:誤差増幅器・補償・安定性
電源の出力電圧が負荷変動でもびくともしない理由を、誤差増幅器からループ利得・位相余裕まで一気通貫で理解できます。発振せず速く整定する補償設計の勘所が掴めます。
- 1.SMPSは出力を基準電圧と比べ、その誤差を増幅してPWMのデューティ比に反映する閉ループで電圧を一定に保つ。誤差ゼロを目指すから出力が基準に張り付く。
- 2.電圧モードは出力電圧だけを、電流モードはインダクタ電流も併せて監視する。電流モードは電流の内側ループでLCの二次遅れを一次化し、安定化と過電流保護を同時に得る。
- 3.安定性はループ利得が1(0dB)になる周波数での位相余裕で決まる。45〜60度を確保するよう補償器の極・零点を配置するのが設計の核心。
出力電圧を「測って・比べて・直す」閉ループ
/power/smps-principles/ で見たとおり、降圧コンバータの出力は定常状態では Vout = D × Vin で決まります。しかし現実には入力電圧も負荷電流も刻々と変わります。負荷が急に増えれば出力は一瞬下がり、入力が上振れすれば出力は上がる。これを放置せず出力を一定に保つのが フィードバック制御(閉ループ制御) です。
仕組みは「測る・比べる・直す」の三段に尽きます。出力電圧を分圧して測り、基準電圧(リファレンス)と比べて差(誤差)を取り、その誤差を打ち消す向きにデューティ比 D を動かす。出力が下がれば D を上げ、上がれば D を下げる——この負帰還が連続して働くことで、入力や負荷がどう動こうと出力は基準に張り付きます。
降圧コンバータの電圧制御ループ(信号の流れ)
Vref ──→(誤差増幅器)──→ Vc ──→(PWM比較器)──→ D ──→ パワー段 ──→ Vout
▲ 反転入力 │
│ │
└────────── 分圧 (R1,R2) ←──── フィードバック ──────┘
誤差電圧 Ve = Vref − (Vout × R2/(R1+R2))
ループは Ve → 0、すなわち Vout = Vref × (R1+R2)/R2 へ収束する
誤差増幅器 ── 誤差をデューティ比の指令に変える
ループの心臓が 誤差増幅器(エラーアンプ、EA) です。出力の分圧電圧を反転入力に、基準電圧を非反転入力に受け、その差を高い利得で増幅して制御電圧 Vc を出します。ここで単なる比例増幅ではなく、積分 を持たせるのが要点です。
純粋な比例だけだと、誤差がゼロになると出力もゼロになり、定常状態で必ず有限の誤差(定常偏差)が残ります。積分項を加えると、誤差が少しでも残る限り Vc が動き続け、最終的に誤差を厳密にゼロへ追い込みます。これが「出力が基準にぴたりと一致する」直流精度の源です。実装上は EA の周りに抵抗とコンデンサで積分器(および後述の補償用の極・零点)を組みます。
積分器は周波数が低いほど利得が大きく、直流(0Hz)では理想的に利得無限大になります。ループ利得が無限大なら、出力を基準に保つのに必要な誤差は限りなくゼロ。だから「精度が欲しければ低域の利得を稼ぐ」が鉄則です。一方で全周波数で利得が高いと発振するので、高域では利得を落とす——この低域高利得・高域低利得の形を作るのが補償設計です。
PWM比較 ── 連続値Vcを離散的なオン時間へ
誤差増幅器が出した制御電圧 Vc は連続的なアナログ値ですが、スイッチに渡せるのはオン/オフの二値です。この橋渡しが PWM比較器 です。一定周波数の 鋸歯状波(ランプ) と Vc を比べ、ランプが Vc を下回る間オン、上回るとオフにします。Vc が高いほどオン時間が長く、デューティ比 D が大きくなります。
PWM変調(電圧モードの場合)
ランプ電圧 ─╱│─╱│─╱│ 一定周期 Tsw で鋸歯状に上昇
Vc ──────────────── 誤差増幅器の出力(ゆっくり変化)
ランプ < Vc の間 : スイッチON
ランプ ≥ Vc の間 : スイッチOFF
→ D = Vc / Vramp_peak(Vc が上がれば D も比例して上がる)
ここで重要なのは、Vc から D への変換利得(変調器利得 ≈ 1/Vramp_peak)と、D から Vout へのパワー段の利得が、すべて一つのループの利得に積み上がる点です。安定性を語るには、誤差増幅器・変調器・パワー段(LCフィルタを含む)を一巡した ループ利得 を周波数ごとに評価する必要があります。
電圧モード対電流モード ── 何を監視するか
制御方式は「ループで何を測るか」で大きく二つに分かれます。
| 観点 | 電圧モード制御 | 電流モード制御 |
|---|---|---|
| 監視量 | 出力電圧のみ | 出力電圧 + インダクタ電流 |
| ループ構成 | 単一ループ | 電流の内側ループ + 電圧の外側ループ |
| LCの二次遅れ | そのまま残り補償が難しい | 内側ループが一次系に縮約し補償が容易 |
| 過電流保護 | 別途回路が必要 | 電流を常時見ているので本質的に容易 |
| 入力電圧変動 | 応答が遅れがち | サイクル単位で即補正(電流が即追従) |
| 弱点 | LC補償が難しく入力変動に弱い | D が 0.5 超で発振(要スロープ補償) |
電圧モード は出力電圧だけを見て D を決める素直な方式です。ただしパワー段の LC フィルタが二次系(2つの極を持ち、共振点で位相が一気に180度遅れる)を成すため、これを安定化する補償器の設計が難しくなります。
電流モード は出力電圧の外側ループに加え、インダクタ電流をサイクルごとに監視する内側ループ を持ちます。PWM比較器のランプの代わりに、実際のインダクタ電流の立ち上がり波形を Vc と比較し、電流が Vc 相当値に達した瞬間にスイッチをオフします。こうすると入力電圧が変動しても電流の傾きが即座に変わって追従するため、外乱に強くなります。さらに内側ループの効果で、パワー段が二次系から実質一次系に見え、外側の電圧ループの補償が格段に楽になります。電流を常時測っているので過電流保護も自然に組み込めます。
ピーク電流モードでは、デューティ比が 0.5 を超えると、ある周期で生じた電流誤差が次周期で拡大し、1周期おきに波形が大小を繰り返す サブハーモニック発振 が起きます。対策は、検出電流に人工的な傾き(スロープ)を加算する スロープ補償 です。理論上はインダクタ電流下降傾きの半分以上を足せば全 D 域で安定化します。電流モードを使うなら D が 0.5 を超える設計では必須と覚えてください。
安定性 ── ループ利得・位相余裕・補償
閉ループが発振せず素早く整定するかは、一巡したループ利得 T(s) の 周波数特性 で判定します。鍵となる指標が二つあります。
安定性の二大指標
クロスオーバ周波数 fc : ループ利得の大きさが 1(= 0dB)になる周波数
ここでの応答の速さがほぼ決まる(fc が高いほど速い)
位相余裕 PM : fc における位相遅れと −180度の差
PM = 180度 − (fc での全位相遅れ)
発振の条件 : 利得 1 のまま位相が −180度(負帰還が正帰還に反転)
→ PM が 0 に近いほど危険。実用上 45〜60度を確保するのが定石
なぜ −180度が危険なのか。負帰還は本来、誤差を打ち消す向きに働きます。ところが各段の遅れが積み重なって位相が180度遅れると、打ち消すはずの信号が逆位相になり、負帰還が正帰還に反転 します。そこで利得が1以上あれば、外乱が一巡するたびに増幅され続けて発振します。だから「利得が1に落ちる周波数 fc では、位相遅れを180度よりしっかり手前に留めておく」ことが安定の必要条件で、その余裕が 位相余裕 です。
位相余裕が小さいと、発振こそしなくても負荷急変時に出力が大きく行き過ぎてから戻る(リンギング、オーバーシュート)応答になります。逆に大きく取りすぎると応答が鈍くなる。45〜60度が速さと安定のバランス点とされます。
補償の実体は、誤差増幅器の周りに RC を組んで 零点(位相を進める) と 極(利得を落とす) を狙った周波数に配置することです。代表が Type II / Type III 補償。LC共振で生じる急な位相遅れの手前に零点を置いて位相を持ち上げ(位相余裕を稼ぎ)、高域には極を置いてスイッチングリプルやノイズを利得で抑え込みます。低域は積分で利得無限大に、中域は −20dB/dec で素直に下げ、fc で 0dB を切る——この利得の形を作るのが補償設計の全体像です。
まとめ
- フィードバック制御は出力を 測る・基準と比べる・誤差を打ち消すように D を直す 負帰還で、入力や負荷が変動しても出力を基準に張り付かせる。
- 誤差増幅器 は誤差を増幅し制御電圧 Vc を作る。積分項により直流で利得無限大となり、定常偏差をゼロに追い込むのが直流精度の源。
- PWM比較器 はランプと Vc を比べて連続値を離散的なオン時間に変換する。誤差増幅器・変調器・パワー段の利得が一巡して ループ利得 になる。
- 電圧モード は出力電圧のみ、電流モード はインダクタ電流も監視。電流モードは内側ループで LC の二次遅れを一次化し、外乱応答と過電流保護に優れるが D が 0.5 超でスロープ補償が要る。
- 安定性は クロスオーバ周波数での位相余裕 で決まり、45〜60度を目標に補償器の極・零点を配置する。利得1で位相が −180度に達すると負帰還が正帰還へ反転して発振する。
- 前提は /power/smps-principles/、パワー段のトポロジーは /power/dcdc-topology-map/、電圧・電流・電力の基礎は /power/circuit-fundamentals/ を参照。
電源 Article
PWMとフィードバック制御:誤差増幅器・補償・安定性を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
フィードバック制御
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6
導入後に効く点
電圧モードは出力電圧だけを、電流モードはインダクタ電流も併せて監視する。電流モードは電流の内側ループでLCの二次遅れを一次化し、安定化と過電流保護を同時に得る。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 電源
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「フィードバック制御 / PWM」に近いか確認する。
- 強みである「SMPSは出力を基準電圧と比べ、その誤差を増幅してPWMのデューティ比に反映する閉ループで電圧を一定に保つ。誤差ゼロを目指すから出力が基準に張り付く。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。