電圧モード制御と電流モード制御:補償設計の分岐点
二次系のLC補償に悩む電圧モードと、内側電流ループで一次系化する電流モードの違いが腑に落ちます。傾斜補償がデューティ50%超で必須になる理由まで、補償設計の選択基準が掴めます。
- 1.電圧モードはLCの二次極をそのまま背負うため、共振点での180度位相反転を補う三段補償(Type III)が要る。電流モードは内側電流ループがインダクタを電流源化し、制御から見たパワー段が一次系に縮約する。
- 2.ピーク電流モードはインダクタ電流の傾きが入力電圧に即追従するため、ライン外乱を本質的にフィードフォワードする。電圧モードはこの補正がループ帯域に律速され応答が遅れる。
- 3.ピーク電流モードはデューティ50%超でサブハーモニック発振を起こす。検出電流に下降傾きの半分以上の人工傾斜を足す傾斜補償で全デューティ域を安定化できる。
「何をフィードするか」が補償の難易度を決める
/power/pwm-feedback-control/ で見たとおり、SMPSは出力を基準と比べ、誤差を打ち消す向きにデューティ比 D を動かす負帰還で電圧を一定に保ちます。このとき 誤差増幅器の出力(制御電圧 Vc)を D へ変換する変調器 をどう構成するかで、制御方式は大きく二系統に分かれます。出力電圧だけを見てランプと比較する 電圧モード と、インダクタ電流もサイクルごとに見る 電流モード です。違いは「何を測るか」に留まらず、補償器に要求される極・零点の数、ライン外乱への応答速度、そして傾斜補償の要否までを左右します。本稿はその分岐点を、制御から見たパワー段の伝達特性に踏み込んで解説します。
電圧モード:LC二次極をそのまま背負う
電圧モードでは、誤差増幅器が出した Vc を一定周波数の鋸歯状ランプと比較し、D = Vc / Vramp_peak で D を決めます。問題は 制御から出力までのパワー段が、LCフィルタによる二次系 になることです。降圧段なら共振周波数 fLC = 1/(2π√(LC)) で2つの極が重なり、その近傍で利得が -40dB/dec で落ち、位相が一気に180度近く遅れます。
電圧モードのパワー段(制御Vc → Vout)の伝達特性
低域 : 平坦(変調器利得 × Vin/Vramp_peak)
fLC = 1/(2π√LC): 二重極。-40dB/dec へ折れ、位相が ≈180度 遅れる
fESR = 1/(2πC·ESR): コンデンサESRの零点。+20dB/dec 戻し位相も回復
・二重極の急な位相遅れを補わないと、fc 付近で位相余裕が消える
・Vin が直接 低域利得に乗る → 入力変動でループ利得が動く
二重極の位相遅れを取り戻すには、誤差増幅器側で 2つの零点で位相を進める 必要があり、これが三段補償(Type III)です。低域は積分で利得無限大(直流精度)、fLC の手前に零点ペアを置いて位相を持ち上げ、高域には極を置いてスイッチングリプルを抑える——部品点数も調整も多くなります。さらに低域利得に Vin がそのまま乗るため、入力電圧が変わるとループ利得(ひいてはクロスオーバ周波数)が動いてしまいます。
電圧モードの入力変動への弱さは、ランプの傾きを Vin に比例させる フィードフォワード で大きく改善できます。ランプ振幅を Vin に比例させると変調器利得 1/Vramp_peak が 1/Vin に比例し、パワー段の Vin 倍と相殺して低域利得が Vin に依らなくなります。これにより入力前向き補償が成立し、入力ステップへの応答が劇的に速くなります。ただし出力LCの二次極問題は残るため、補償の難しさそのものは消えません。
電流モード:内側ループがパワー段を一次系へ縮約する
電流モードは、電圧の外側ループに加えて インダクタ電流をサイクル単位で監視する内側ループ を持ちます。代表のピーク電流モードでは、ランプの代わりに実際のインダクタ電流の立ち上がり波形を Vc と比べ、電流が Vc 相当値に達した瞬間にスイッチをオフします。つまり Vc は「次にオフする電流ピーク」を指令しているに等しく、インダクタが電流源のように振る舞う ようになります。
電流源化の帰結は決定的です。インダクタが電流源として固定されると、出力から見た回路は「電流源 + 出力コンデンサ + 負荷」になり、LC共振が解けて 極が一つ(出力コンデンサと負荷抵抗による fp ≈ 1/(2πRC))だけの一次系 に縮約します。180度の位相反転が消えるので、外側の電圧ループは零点1つの二段補償(Type II)で十分になり、補償が格段に楽になります。
電流モードで制御から見たパワー段(外側ループ)
内側電流ループがインダクタを電流源化
→ LCの二重極が消える
→ 主要極は 出力コンデンサ+負荷の一次極 fp ≈ 1/(2πRC) のみ
→ 位相遅れは最大でも ≈90度。Type II 補償で位相余裕を確保しやすい
※ スイッチング周波数の半分付近に「サンプリング由来の二重極」が現れる。
高帯域設計ではこれが位相余裕を食うため、fc は fsw の 1/5〜1/10 に抑える。
電流モードが入力変動に強いのは、インダクタ電流の立ち上がり傾き (Vin − Vout)/L が Vin に直接依存するためです。入力が上振れすれば電流の傾きが急になり、同じピーク指令により早く到達してオフ時間が前倒しされる——ループの帯域を待たず、そのサイクル内で デューティが補正されます。電圧モードがランプ整形で後付けする入力前向き補償を、電流モードは内側ループの物理として本質的に備えているわけです。電流を常時測っているので過電流保護もサイクル単位で自然に入ります。
二方式の比較 ── 何を得て何を払うか
| 観点 | 電圧モード | ピーク電流モード |
|---|---|---|
| 制御から見たパワー段 | LCによる二次系(二重極) | 内側ループで一次系へ縮約 |
| 要する補償器 | 三段補償 Type III(零点2つ) | 二段補償 Type II(零点1つ) |
| 入力変動への応答 | ループ帯域に律速(ランプ整形で改善可) | サイクル単位で本質的に追従 |
| 過電流保護 | 別回路が必要 | サイクル単位で自然に内蔵 |
| ノイズ耐性 | ランプが大きく耐性が高い | 電流検出が小信号でノイズに弱い |
| 弱点 | 二次極の補償が難しい | デューティ50%超で発振(傾斜補償が必須) |
電圧モードが残る理由もあります。比較対象が大振幅のランプなので ノイズに強く、デューティ比の自由度が大きく、電流検出回路が不要です。一方、電流モードは検出電流が小信号でノイズに弱く、検出抵抗の損失やリーディングエッジのスパイクへの対策(ブランキング)が要ります。「LCの二次極をどう扱うか」と「入力変動への即応性」を取るなら電流モード、「ノイズ耐性と検出回路の単純さ」を取るなら電圧モード、という分岐になります。
デューティ50%超の壁 ── 傾斜補償の必然性
ピーク電流モード最大の落とし穴が、デューティ比が50%を超えるとサブハーモニック発振を起こす ことです。原理は電流波形の摂動が周期をまたいで増幅するかどうかで決まります。ある周期でインダクタ電流ピークに微小なずれ ΔI0 が生じたとき、次周期のずれ ΔI1 が ΔI1 = −(m2/m1)·ΔI0(m1=立ち上がり傾き、m2=立ち下がり傾き)で伝わります。
摂動の周期間ゲイン(無補償のピーク電流モード)
ΔI(n+1) / ΔI(n) = −(m2 / m1)
CCM・降圧では m1 = (Vin−Vout)/L, m2 = Vout/L
→ m2/m1 = Vout/(Vin−Vout) = D/(1−D)
D が 0.5 未満 : |m2/m1| が 1 未満 → 摂動は周期ごとに減衰(安定)
D が 0.5 超 : |m2/m1| が 1 超 → 摂動が周期ごとに拡大(発振)
D = 0.5 : 利得ちょうど1 → 1周期おきに大小を繰り返す境界
D が 50%を超えると m2/m1 が1を超え、ずれが毎周期増幅されてオンオフ幅が大小に振動する サブハーモニック発振(fsw の半分で振動) が起きます。対策が 傾斜補償(スロープ補償) で、検出電流に傾き ma の人工ランプを足してから Vc と比較します。すると周期間ゲインが −(m2−ma)/(m1+ma) となり、ma ≥ m2/2(下降傾きの半分以上)を満たせば全デューティ域で |ゲイン| ≤ 1 を保てます。
傾斜補償は ma ≥ m2/2 で十分です。ma = m2(下降傾きと同量)まで足すと、入力ステップへの過渡応答が一拍で整定する「デッドビート」になりますが、それ以上足すと電流ループの特性が薄れて 電圧モードに近づき、せっかくの一次系化やライン・フィードフォワードの利点が損なわれます。傾斜は発振を止める最小限に留めるのが定石です。なお発振の根は周期間の摂動伝達にあるため、外側電圧ループの帯域を下げても解消しません。傾斜補償でしか直りません。
ピーク電流モードがピーク値で制御するのに対し、平均電流モード は電流検出信号を電流誤差増幅器で平均化し、その平均をプログラム値に追従させます。利点は、検出ノイズに強く、ピーク制御で生じるピーク値と平均値のズレ(リプルの半分の誤差)が出ないこと。原理的には傾斜補償の制約も緩み、力率改善(PFC)のように入力電流波形そのものを正弦波へ整形したい用途で標準的に使われます。詳しくは /power/pfc-principles/ を参照。
まとめ
- 電圧モード は出力LCの二次極(共振点で約180度の位相反転)をそのまま背負うため、零点2つの三段補償(Type III)を要し、入力変動にも弱い。ランプを Vin に比例させるライン・フィードフォワードで入力応答は改善できる。
- 電流モード は内側電流ループでインダクタを電流源化し、制御から見たパワー段を 一次系へ縮約 する。Type II 補償で済み、電流の傾きが入力に即追従することで本質的なライン・フィードフォワードと過電流保護を得る。
- ピーク電流モードはデューティ50%超で周期間ゲイン
m2/m1 = D/(1−D)が1を超え サブハーモニック発振 する。ma ≥ m2/2の 傾斜補償 で全デューティ域を安定化できる。効かせすぎると電圧モード化して利点が薄れる。 - 方式選択は「二次極の扱い・入力即応性 → 電流モード」「ノイズ耐性・検出回路の単純さ → 電圧モード」が分岐点。平均電流モードはPFC等で第三の解になる。
- 前提は /power/pwm-feedback-control/、パワー段の数理は /power/buck-converter-analysis/、トポロジー全体像は /power/dcdc-topology-map/ を参照。
電源 Article
電圧モード制御と電流モード制御:補償設計の分岐点を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
電流モード制御
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6
導入後に効く点
ピーク電流モードはインダクタ電流の傾きが入力電圧に即追従するため、ライン外乱を本質的にフィードフォワードする。電圧モードはこの補正がループ帯域に律速され応答が遅れる。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 電源
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「電流モード制御 / 電圧モード制御」に近いか確認する。
- 強みである「電圧モードはLCの二次極をそのまま背負うため、共振点での180度位相反転を補う三段補償(Type III)が要る。電流モードは内側電流ループがインダクタを電流源化し、制御から見たパワー段が一次系に縮約する。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。