電圧レギュレータの基礎:リニア(LDO)とスイッチングの選択
なぜLDOは熱くなりスイッチングはノイズが出るのか。効率の限界(Vout/Vin)・PSRR・負荷過渡から両者の使い分けを判断し、ノイズに効くLDO後段配置まで設計指針を掴めます。
- 1.シリーズパス型LDOは効率の上限が Vout/Vin で決まり、ドロップアウト電圧(Vin−Vout の最小許容差)を割ると安定化が破綻する。電圧差ぶんを熱で捨てるため降圧幅が大きいほど不利。
- 2.スイッチング電源は理論効率がVout/Vinに依存せず高い(90%超も可能)が、スイッチング周波数のリプル・EMIを出す。LDOは低ノイズ・低コストだが大降圧で発熱する。
- 3.実務の定番はスイッチングで大まかに降圧し、その後段にLDOを置いてリプルをPSRRで除去する2段構成。アナログ・RF・ADC基準などノイズ敏感な負荷に効く。
「電圧差を熱で捨てる」か「スイッチで作り直す」か
一定電圧を作る回路には大きく2系統あります。リニアレギュレータ(代表が低ドロップアウト型=LDO)とスイッチングレギュレータです。両者は同じ「Vin を安定な Vout に変換する」目的を持ちながら、効率・ノイズ・コストの性質が正反対で、選択を誤ると発熱や雑音で設計が破綻します。本稿は LDO の効率限界とドロップアウト電圧、PSRR・出力ノイズ・負荷過渡という実務指標、そしてスイッチングとの使い分け、最後に両者を組み合わせる定番構成までを原理から詰めます。スイッチング側の動作原理は /power/smps-principles/、降圧の数理は /power/buck-converter-analysis/ を前提とします。
リニアレギュレータの本質は 可変抵抗 です。Vin と Vout のあいだに直列に入れたトランジスタ(パストランジスタ、シリーズパス素子)を、誤差増幅器が連続的に絞り、出力が基準電圧どおりになるよう抵抗値を動的に調整します。スイッチのようにオン・オフせず、常に線形(リニア)動作領域で電圧降下を負担するのが名前の由来です。
リニア(シリーズパス型)の構造:
Vin ──[パストランジスタ:可変抵抗]── Vout ──負荷
↑ ゲート/ベース
[誤差増幅器] ← Vref と Vout の分圧を比較
パス素子の電圧降下 Vdrop = Vin − Vout を「熱」として捨てて
出力を Vref で決まる一定値に保つ。
効率の上限は Vout/Vin で決まる
リニアの効率を決めるのは単純な事実です。パストランジスタを流れる電流は、出力電流とほぼ等しい(自身の消費=静止電流 Iq を除く)。つまり入力電流 ≈ 出力電流であり、入力電力 Vin×Iout に対して出力電力は Vout×Iout。両者の比がそのまま効率になります。
リニアレギュレータの効率(Iq を無視した上限):
η = Pout / Pin = (Vout × Iout) / (Vin × Iout) = Vout / Vin
例: 5V → 3.3V なら η ≈ 66%(残り34%は熱)
12V → 3.3V なら η ≈ 28%(72%が熱!)
捨てる電力 = (Vin − Vout) × Iout
ここが核心です。リニアの効率は回路の良し悪しではなく 入出力の電圧比だけで上限が決まり、降圧幅が大きいほど急激に悪化します。12V から 3.3V を 1A 取り出すと、(12−3.3)×1 ≈ 8.7W がパストランジスタ1個で熱になります。これは小さな放熱なしには扱えない発熱で、熱設計の検討は /power/power-thermal-design/ に直結します。逆に 5V→3.3V のような 降圧幅が小さい用途ではリニアでも実用効率 が出ます。
ドロップアウト電圧 Vdo は、レギュレータが安定化を維持できる Vin−Vout の最小値です。これを割る(Vin が Vout+Vdo 未満になる)と、パストランジスタが全開でも出力を持ち上げきれず、Vout は Vin の変動にそのまま追従してしまう(安定化が破綻)。古い直列レギュレータは Vdo が2V前後と大きかったのに対し、LDO(Low Dropout)はパス素子をPMOS等にして Vdo を数十〜数百mVに抑えた ものを指します。電池駆動で Vin が Vout に肉薄しても安定化を続けられるのが利点ですが、Vdo を下げてもなお効率上限は Vout/Vin のまま変わらない点に注意。
PSRR・出力ノイズ・負荷過渡 ── リニアが選ばれる3つの理由
効率で不利なリニアがなお多用されるのは、出力品質 が圧倒的に良いからです。判断軸は次の3つです。
PSRR(電源電圧変動除去比, Power Supply Rejection Ratio) は、入力側のリプル・ノイズが出力にどれだけ漏れずに済むかをdBで表す指標です。誤差増幅器が Vin の変動を打ち消すよう連続補正するため、リニアは入力リプルを大きく減衰させます。ただし PSRR は周波数依存で、ループ利得が落ちる高周波(数百kHz以上)では悪化します。
出力ノイズ は、レギュレータ自身が発生する雑音(主に基準電圧とパス素子の熱雑音)。スイッチングが原理的にスイッチング周波数のリプルを出すのに対し、リニアはスイッチングしないため 本質的に低ノイズ です。ADC基準・PLL・RF局部発振など、電源雑音が直接性能に乗る回路でリニアが好まれる理由がこれです。
負荷過渡応答 は、負荷電流が急変したときに出力電圧がどれだけ跳ね、どれだけ速く整定するか。リニアは制御ループの帯域が広く(スイッチング周波数の制約を受けない)、過渡応答が速い傾向があります。
| 評価軸 | リニア(LDO) | スイッチング |
|---|---|---|
| 効率の上限 | Vout/Vin(大降圧で悪化) | 電圧比に非依存、90%超も可能 |
| 降圧時の発熱 | (Vin−Vout)×Iout を熱で消費 | 差ぶんは熱にならない |
| 昇圧の可否 | 不可(降圧のみ) | 昇圧・反転も可能 |
| 出力ノイズ | 低い(スイッチング成分なし) | スイッチング周波数のリプル/EMIあり |
| PSRR | 高い(特に低〜中周波) | 原理上リプルを自ら発生 |
| 負荷過渡応答 | 速い(広帯域ループ) | ループ帯域がスイッチング周波数に制約される |
| 回路規模・コスト | 小・安価(インダクタ不要) | インダクタ等で大・高価 |
注意点として、上の表の「効率」は典型値です。降圧幅が小さければリニアでも高効率になり、逆に軽負荷ではスイッチングのスイッチング損が相対的に効いて効率が落ちる領域もあります。
リニアはパス素子で電圧を「下げる」しかできず、Vout が Vin を超える昇圧は構造上不可能です。一方スイッチングはインダクタにエネルギーを蓄えて吐き出すため、昇圧(boost)や極性反転もできます。昇圧が要るなら選択肢はスイッチング一択で、降圧の数理は /power/buck-converter-analysis/、昇圧やその他トポロジーは /power/dcdc-topology-map/ を参照してください。
使い分けの基本判断 ── スイッチング後段にLDOを置く
ここまでを設計判断に落とすと、軸は 降圧幅・電流・ノイズ要求 の3つです。降圧幅が小さく低電流(数百mA以下)で低ノイズが欲しければリニア。降圧幅が大きい、または大電流で効率と発熱が問題ならスイッチング。そして両者の長所を取る定番が 2段構成 です。
ノイズ敏感な負荷向けの定番2段構成:
12V ──[スイッチング降圧]── 3.6V(効率90%超で大まかに作る)
│ ← ここにはスイッチングリプルが乗る
──[LDO]── 3.3V(PSRR でリプルを除去、低ノイズ化)
│
ADC基準 / RF / PLL など雑音敏感な負荷
この構成が効くのは、各段が自分の得意分野だけを担うからです。スイッチング段が大降圧の効率を稼ぎ(熱を作らない)、LDO 段は Vin−Vout の差を小さく取れる(3.6V→3.3V なら差0.3V)ためリニアの効率不利が最小化されつつ、PSRR でスイッチングリプルを叩き落とします。LDO のドロップアウト電圧 Vdo を割らない範囲で、前段の出力をできるだけ Vout に近づけるのが効率と除去性能の両立点です。
スイッチング段のリプルは基本波がスイッチング周波数(数百kHz〜MHz)にあります。LDO の PSRR はこの帯域では低周波より悪化しているため、「LDO を置けばリプルが消える」と過信は禁物です。スイッチング周波数を上げて LDO の有効除去帯から外す、LDO の前にLCフィルタを足す、PSRR が高周波まで保たれる高性能LDOを選ぶ、といった併用が実務的です。前段の出力リプル自体を /power/buck-converter-analysis/ の手法で下げておくことも有効。
「リニアの効率の上限は」と問われたら Vout/Vin、その根拠は「入力電流≒出力電流で、捨てる電力が (Vin−Vout)×Iout だから」。「LDO の Low Dropout とは」は 安定化を保てる Vin−Vout の最小値(ドロップアウト電圧)を小さくしたもの。「ノイズ敏感な負荷の電源は」は スイッチングで降圧しLDOで後段除去する2段 で、根拠は LDO の高PSRRと低出力ノイズ。「昇圧が要るときリニアは使えるか」は 不可(降圧のみ)。この4点を即答できるかが分かれ目です。
まとめ
- リニア(LDO)は パストランジスタを可変抵抗として Vin−Vout を熱で捨てる 方式で、効率の上限は
η = Vout/Vin。降圧幅が大きいほど発熱が増え不利。 - ドロップアウト電圧 Vdo は安定化を保てる Vin−Vout の最小値で、LDO はこれを数十〜数百mVに抑えた型。Vdo を割ると安定化が破綻する。
- リニアは PSRR が高く・出力ノイズが低く・負荷過渡が速い。スイッチングは効率が電圧比に依存せず高く昇圧もできるが、スイッチング周波数のリプル・EMIを出す。
- 実務の定番は スイッチングで大降圧 → 後段LDOでリプル除去 の2段。LDOの Vin−Vout を小さく取れば効率不利を抑えつつ低ノイズ化できる。
- スイッチングの原理は /power/smps-principles/、降圧の数理は /power/buck-converter-analysis/、トポロジー全体像は /power/dcdc-topology-map/ を参照。
電源 Article
電圧レギュレータの基礎:リニア(LDO)とスイッチングの選択を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
LDO
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6
導入後に効く点
スイッチング電源は理論効率がVout/Vinに依存せず高い(90%超も可能)が、スイッチング周波数のリプル・EMIを出す。LDOは低ノイズ・低コストだが大降圧で発熱する。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 電源
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「LDO / 電圧レギュレータ」に近いか確認する。
- 強みである「シリーズパス型LDOは効率の上限が Vout/Vin で決まり、ドロップアウト電圧(Vin−Vout の最小許容差)を割ると安定化が破綻する。電圧差ぶんを熱で捨てるため降圧幅が大きいほど不利。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。