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NAT(アドレス変換)

家庭やオフィスの“プライベートIP”を、インターネットで使える“グローバルIP”に書き換える仕組み。IPv4枯渇を乗り切る立役者で、ルータの中で毎秒動いている。

中級NATIPアドレスルータインフラ最終更新: 2026-06-04
TL;DR要点だけ先に
  • 1.NAT は プライベートIP(192.168.x.x など)と グローバルIP を相互変換し、IPv4 アドレス不足を実質的に回避する仕組み。
  • 2.家庭用ルータの実体は PAT/NAPT:ポート番号まで書き換え、1つのグローバルIP を複数端末で共有する。
  • 3.外向き発信に強い一方、外からの着信は届かない。公開したいなら ポートフォワーディング、根本解決は IPv6。

何を解決する?

IPv4 アドレスは約43億個しかなく、世界中の端末に1つずつ配るには 全然足りません(IPv4 枯渇)。そこで、

  • 各家庭・各オフィスには グローバルIP は1つ(数個)だけ 割り当てる
  • LAN の中では、誰とも衝突しない プライベートIP を自由に使う
  • インターネットに出る瞬間だけ、ルータが グローバルIP に変換 する

この“出口で住所を貼り替える”発想のおかげで、限られたグローバルIPを大量の端末で共有できます。詳しいアドレスの考え方は /network/ip-subnet/ を参照してください。

プライベートIPの範囲は決まっている

LAN内専用に予約されたアドレス帯(RFC1918)は次の3つ。インターネット上には流れません。
10.0.0.0/8172.16.0.0/12192.168.0.0/16

基本の仕組み

PC(192.168.0.10)が、あるWebサーバ(93.184.216.34)へアクセスする場面を追います。グローバルIPはルータが持つ 203.0.113.1 だとします。

  1. PC が「送信元 192.168.0.10 → 宛先 93.184.216.34」のパケットを送る
  2. ルータが送信元を 自分のグローバルIP 203.0.113.1 に書き換え て外へ出す
  3. 「誰の代わりに出したか」を 変換テーブル に記録しておく
  4. サーバからの返事は 203.0.113.1 宛に戻ってくる
  5. ルータがテーブルを見て、宛先を 元の 192.168.0.10 に戻して PC へ渡す

つまり NAT の本体は、この 変換テーブル(誰の通信をどう貼り替えたかの対応表) です。

NAT の種類

ひとくちに NAT と言っても、何を・どう変換するかで呼び方が分かれます。

種類変換するもの用途・特徴
静的NAT (1:1)1つのプライベートIP ↔ 1つのグローバルIP を固定公開サーバ向け。常に同じ外側IPで見える
動的NATプールから空きグローバルIPを都度割り当てIPの数だけ同時接続可。今は出番が少ない
PAT / NAPTIP に加えて ポート番号 も書き換える家庭用ルータの主役。1つのIPを多数端末で共有

家庭用ルータがやっているのは、ほぼ常に一番下の PAT(Port Address Translation)、別名 NAPT(NAPT=NAT+ポート変換) です。「IPマスカレード」と呼ばれることもあります。

PAT:ポートで見分ける

グローバルIPが1つしかないのに、PC・スマホ・テレビが同時に通信できるのはなぜか。答えは ポート番号でも区別している から。

ルータは外へ出すとき、各通信に 異なる送信元ポート を割り当てて記録します。

内側(プライベート)外側(グローバルへ書換後)
192.168.0.10:51000203.0.113.1:40001
192.168.0.11:51000203.0.113.1:40002

戻りパケットは「203.0.113.1ポート 40001 宛」のように届くので、ポートを鍵にして元の端末・元のポートへ正確に振り分けられます。ポートの考え方は /network/tcp-udp/ にもつながります。

SNAT と DNAT は“どっちを書き換えるか”の違い

SNAT(Source NAT)送信元 を書き換える変換で、LAN→インターネットの外向き通信がこれ。DNAT(Destination NAT)宛先 を書き換える変換で、外から来たパケットを内部サーバへ向け直すポートフォワーディングがこれにあたります。家庭用ルータは送信元を隠す SNAT が既定動作です。

外からの着信:ポートフォワーディング

NAT は 内側から始めた通信 には強い一方、外から突然来る通信 はテーブルに対応が無いため捨てられます。これは副次的なファイアウォール効果でもありますが、自宅サーバを公開したいときは困ります。

そこで ポートフォワーディング(ポート開放 / DNAT) を設定し、「203.0.113.1:443 に来たら、内側の 192.168.0.20:443 へ転送する」とルータに教えます。

# Linux ルータでの例(iptables)
# 外向き:LAN(192.168.0.0/24) の送信元を出口IPへ書き換える(SNAT/マスカレード)
iptables -t nat -A POSTROUTING -s 192.168.0.0/24 -o eth0 -j MASQUERADE

# 内向き:WAN の TCP 443 着信を内部Webサーバへ転送する(DNAT)
iptables -t nat -A PREROUTING -i eth0 -p tcp --dport 443 \
  -j DNAT --to-destination 192.168.0.20:443

つまずきポイント

  • NAT 配下では P2P が難しい:両端が NAT の内側だと、互いに着信できず直接つながらない。WebRTC 等は STUN / TURNNAT越え(ホールパンチング) で回避する
  • NAT はセキュリティ機能ではない:外から入れないのは“着信を捨てている”副作用にすぎず、本来の防御は /network/proxy-lb/ も含めたファイアウォールで設計する
  • 二重NAT に注意:自前ルータの外にプロバイダ側の NAT(CGN)がもう1段あると、ポート開放しても外から届かないことがある
  • 同じポートを2台へは割れない:外側 443 を内部の複数サーバへ同時に振り分けることはできない(手前のリバースプロキシで振り分ける)
キャリアグレードNAT(CGN/CGNAT)の壁

モバイル回線や一部の固定回線では、プロバイダ自身が大規模NAT を挟み、グローバルIPを多数の契約者で共有します。この場合 自分側でポート開放しても外部公開はできず、固定グローバルIPの契約や別経路(VPN・トンネル)が必要になります。

NAT の限界と IPv6

NAT は IPv4 枯渇を 延命 した立役者ですが、本質的には「足りないIPをやりくりする回避策」です。変換テーブルの維持コスト、P2P や着信通信の難しさ、エンドツーエンドの透過性の喪失といった代償を伴います。

根本的な解決は IPv6 です。アドレス空間が桁違いに広い(約340澗個)ため、すべての端末にグローバルIPを直接配れて、原理的に NAT が不要になります。現実にはしばらく IPv4 と併用が続くため、NAT は当面なくならない仕組みでもあります。アドレス体系の全体像は /network/tcp-ip/ も合わせてどうぞ。

ハンズオン

# 自分のグローバルIP(NAT変換後に外から見える住所)を確認
curl -s https://ifconfig.me

# 自分のプライベートIP(LAN内の住所)を確認
# Linux:
ip addr show
# Windows:
ipconfig

# 経路上で住所が変わる様子(自宅ルータが最初のホップ)を追う
traceroute example.com   # Windows は tracert

ネットワーク Article

NAT(アドレス変換)を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

NAT

比較で見る軸

難易度: intermediate / カテゴリ: ネットワーク / タグ数: 4

導入後に効く点

家庭用ルータの実体は PAT/NAPT:ポート番号まで書き換え、1つのグローバルIP を複数端末で共有する。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
intermediate
カテゴリ
ネットワーク
タグ数
4

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「NAT / IPアドレス」に近いか確認する。
  • 強みである「NAT は プライベートIP(192.168.x.x など)と グローバルIP を相互変換し、IPv4 アドレス不足を実質的に回避する仕組み。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

NATIPアドレスルータインフラNATIPアドレスルータインフラ
参考: 公式情報