配電損失とケーブルサイジング:電圧降下・I²R・力率
電線が細すぎると電圧降下と発熱で機器が誤動作し損失が増えます。I²R損・許容電流・力率・表皮効果から断面積を理詰めで決める設計手順を、根拠とともに身につけられます。
- 1.配電損失は導体抵抗による I²R 損で、電流の2乗に効く。同じ電力なら電圧を上げ電流を下げ、力率を改善するほど損失と電圧降下が同時に減る。
- 2.電圧降下は単相2線で 2・I・(R・cosθ+X・sinθ)、三相3線で √3・I・(R・cosθ+X・sinθ)。許容電流(アンペアシティ)は温度・敷設条件で減じる。
- 3.断面積は『許容電流』『電圧降下(一般に2〜3%以内)』『短絡時の熱』の3条件すべてを満たす最大値で決める。高周波では表皮効果で実効抵抗が増える。
ケーブルの太さは「3つの条件」で決まる
電線の断面積(サイズ)は、太ければ太いほど安全ですが、銅は高価で重く敷設も難しくなります。実務のケーブルサイジングとは、安全と性能を満たす最小の断面積を理詰めで選ぶ作業です。判断軸は次の3つで、いずれも満たす最大の断面積が答えになります。
- 許容電流(アンペアシティ): 連続通電で被覆の許容温度を超えないこと。
- 電圧降下: 末端機器の電圧が規定範囲(一般に定格の2〜3%以内)に収まること。
- 短絡時の熱: 短絡電流が遮断されるまでの短時間に導体が溶損しないこと。
短距離・大電流なら(1)が、長距離なら(2)が、保護協調が厳しい系統では(3)が支配条件になります。前提となる交流のインピーダンス・フェーザ表現は /power/ac-impedance-phasor/、力率と無効電力は /power/power-factor-reactive-power/ を土台とします。
I²R 損 ── なぜ電流を下げ電圧を上げるのか
導体には抵抗 R があり、電流 I が流れると P_loss = I²・R の損失が熱として生じます。ここで効くのは電圧ではなく電流の2乗である点が配電設計の核心です。
導体抵抗(直流・温度補正なし):
R = ρ・L / A
ρ : 抵抗率(銅 約1.72e-8 Ω・m、アルミ 約2.82e-8 Ω・m、20℃)
L : こう長(往復を含む実際の導体長)
A : 導体断面積 [m²]
配電損失:
P_loss = I²・R ← 電圧ではなく電流の2乗で効く
同じ電力 P = V・I・cosθ を送るとき、電圧 V を2倍にすれば電流 I は半分で済み、損失 I²R は 1/4 になります。送電が高電圧化される根本理由であり、データセンター内給電が48Vや380V系へ向かう動機もこれです(/power/datacenter-power-architecture/)。
銅・アルミの抵抗は温度上昇で増えます。R(T) = R20・(1 + α・(T − 20))(銅は α が約0.00393/℃)。20℃で算出した抵抗も、満負荷で導体が75℃まで上がれば約2割増えます。電流が多いほど発熱し、発熱で抵抗が増え、抵抗増がさらに損失を増やす——という正帰還があるため、許容電流の評価は運転温度での抵抗で行うのが正確です。
電圧降下 ── 抵抗だけでなくリアクタンスも効く
導体には抵抗 R に加え、自己・相互インダクタンスによるリアクタンス Xがあります。電圧降下は両者と力率で決まり、配線方式で係数が変わります。
1線あたりの電圧降下フェーザ: ΔV_line = I・(R + jX)
近似式(負荷力率 cosθ、遅れを正とする):
単相2線: ΔV = 2・I・(R・cosθ + X・sinθ) ← 往復2本ぶん
三相3線: ΔV = √3・I・(R・cosθ + X・sinθ) ← 線間電圧の降下
R, X は「1線・全こう長ぶん」の抵抗・リアクタンス
R・cosθ + X・sinθ という和がポイントです。力率が低い(θ が大きい)ほど X・sinθ 項が増え、抵抗が小さくても電圧降下が膨らみます。長尺ケーブルや高力率改善前の誘導性負荷で電圧降下が問題化しやすいのはこのためです。力率を改善すれば I も sinθ も下がり、損失と電圧降下が同時に減ります。
| 配線方式 | 電圧降下の係数 | 電圧降下の式(R・cosθ+X・sinθ を D とする) |
|---|---|---|
| 単相2線(往復) | 2 | ΔV = 2・I・D |
| 三相3線(線間) | √3 | ΔV = √3・I・D |
| 単相3線(中性線基準) | 1(電圧線片側) | ΔV ≈ I・D(平衡時、中性線電流ほぼ0) |
電圧降下率は ΔV / V_受電端 × 100 [%] で評価し、幹線+分岐の合計で一般に2〜3%以内に抑えます。低圧・短距離(こう長が数十m以内、太い導体)では X が R に比べ十分小さく、ΔV ≈ k・I・R・cosθ(k は2 または √3)と抵抗分だけの簡略式が使えます。逆に大断面・長距離になると X が無視できず、リアクタンス項を省くと過小評価になる点が頻出の落とし穴です。
許容電流(アンペアシティ)── 温度と敷設条件で減る
許容電流は導体が被覆の許容温度を超えない最大の連続電流です。基準は「導体が発する熱(I²R)」と「周囲へ逃げる熱」の釣り合いで決まり、放熱を妨げる条件ほど許容値は下がります。
許容電流の補正:
I_許容 = I_基準 × 周囲温度補正係数 × 多条数補正係数(集合減じ)
- 周囲温度が高い → 温度差が縮み放熱が鈍る → 減じる
- 複数ケーブルを束ねる/管路に密集 → 相互加熱 → 減じる
- 管路・暗渠・直埋設など敷設方法 → 放熱経路で基準値が変わる
カタログの許容電流は特定条件(例: 気中・単独・周囲30℃)での値です。実際の敷設では複数の補正係数を掛けて減じた値で判定します。束ねた配線や高温環境では、表の数値の半分近くまで落ちることも珍しくありません。
許容電流は連続通電(熱平衡)の話です。短絡時は遮断までの数十ms〜数百msに膨大な電流が流れ、断熱的に導体温度が跳ね上がります。この短時間許容は I²・t ≤ k²・A²(断熱式、k は導体・絶縁体で決まる定数、A は断面積)で評価します。短絡電流が大きい受電点近くでは、許容電流を満たしていても短絡耐量が断面積を律速することがあります。保護機器の遮断特性との協調は /power/grounding-protection/ と併せて検討します。
表皮効果と近接効果 ── 太くても抵抗が下がりきらない
交流では電流が導体表面付近に偏る表皮効果により、実効的な断面積が減り抵抗が直流より増えます。電流が流れる深さの目安が表皮深さ δ です。
表皮深さ: δ = √(ρ / (π・f・μ))
f が高い・μ が大きいほど δ は浅くなる
銅・50Hz で δ ≈ 9.4mm、銅・60Hz で δ ≈ 8.5mm
→ 半径が δ を大きく超える太い導体ほど、中心部に電流が流れず
交流実効抵抗 R_ac が直流抵抗 R_dc より顕著に大きくなる
商用周波(50/60Hz)では δ が約9mmあるため、細〜中断面の導体ではほぼ無視できますが、大電流用の太い単線や大断面導体では効きます。さらに、隣接導体の磁界で電流分布が偏る近接効果が重なり、束線・多条敷設で R_ac はいっそう増えます。これが、大電流ケーブルで1本の太い単線より複数の細い素線を撚った構造(さらには分割導体)が選ばれる理由です。表皮・近接効果の物理は /power/skin-proximity-effect/ で詳説しています。
| 要素 | 損失・電圧降下への効き方 | 対策の方向 |
|---|---|---|
| I²R 損 | 電流の2乗で効く | 電圧を上げ電流を下げる/断面積を増やす |
| 力率 cosθ | 低いと同電力で電流増・X・sinθ 項増 | 進相コンデンサ等で力率改善 |
| 温度上昇 | 抵抗増(正帰還)・許容電流減 | 放熱・余裕断面・周囲温度補正 |
| 表皮/近接効果 | 高周波・太線で R_ac 増 | 撚線・分割導体・適切な素線径 |
サイジングの全体手順
ここまでを設計フローにまとめます。3条件のうち最も厳しいものが断面積を決めます。
1. 負荷電流 I を求める
単相: I = P / (V・cosθ)
三相: I = P / (√3・VL・cosθ)
2. 許容電流で仮選定
I_許容(補正後) ≥ I を満たす最小断面積を表から選ぶ
補正 = 周囲温度係数 × 多条数係数
3. 電圧降下を検証
ΔV = k・I・(R・cosθ + X・sinθ) (k: 単相2、三相√3)
ΔV / V ≤ 許容降下率(一般に2〜3%)
満たさなければ断面積を1段上げて再計算
4. 短絡耐量を検証
I²・t ≤ k²・A² を満たすか
満たさなければさらに太くする
5. 交流補正(必要時)
太線・高調波が多い系では R_ac(表皮・近接)で2,3を再評価
こう長が長い回路では、許容電流に余裕があっても電圧降下が先に上限へ達し、ΔV 条件で断面積が決まります(モーター始動時の電圧降下にも注意)。逆に盤内や短い幹線では電圧降下が小さく、許容電流(と短絡耐量)が支配的です。どちらが効くかを先に見積もると、無駄なく断面積を絞り込めます。アルミ導体は同じ許容電流に銅より太い断面が要りますが、軽量・安価なので大断面・長距離で採用されます。
まとめ
- 配電損失は導体抵抗による I²R 損で、電流の2乗に効く。同じ電力なら電圧を上げ電流を下げ、力率を改善するほど損失と電圧降下が同時に減る。
- 電圧降下は 単相2線で
2・I・(R・cosθ+X・sinθ)、三相3線で√3・I・(R・cosθ+X・sinθ)。力率が低いとX・sinθ項が膨らむ。一般に2〜3%以内に抑える。 - 許容電流(アンペアシティ)は 周囲温度・多条数・敷設方法で減じる。連続定常の評価であり、短絡時は
I²t ≤ k²A²の断熱式で別途検証する。 - 高周波・太線では 表皮効果・近接効果で交流実効抵抗が増えるため、撚線・分割導体で実効断面を確保する。
- 断面積は 許容電流・電圧降下・短絡耐量の3条件をすべて満たす最大値で決める。前提は /power/ac-impedance-phasor/、力率は /power/power-factor-reactive-power/、保護協調は /power/grounding-protection/ を参照。
電源 Article
配電損失とケーブルサイジング:電圧降下・I²R・力率を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
配電
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6
導入後に効く点
電圧降下は単相2線で 2・I・(R・cosθ+X・sinθ)、三相3線で √3・I・(R・cosθ+X・sinθ)。許容電流(アンペアシティ)は温度・敷設条件で減じる。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 電源
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「配電 / ケーブル」に近いか確認する。
- 強みである「配電損失は導体抵抗による I²R 損で、電流の2乗に効く。同じ電力なら電圧を上げ電流を下げ、力率を改善するほど損失と電圧降下が同時に減る。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。