MEMSとセンサデバイスの製造原理
スマホの加速度計やマイクが「動く部品」を半導体プロセスで作れる理由が原理から分かります。犠牲層エッチで可動構造を浮かせる仕組み、スティクション対策、容量検出センサの動作までまとめて押さえられます。
- 1.MEMSは犠牲層を選択エッチで溶かして可動構造を基板から浮かせる。表面MEMSは薄膜の積層と犠牲層除去、バルクMEMSはSi基板自体を深掘り(DRIE)して構造を彫る。
- 2.解放後の最大の敵はスティクション。表面張力で構造が基板に貼り付くため、超臨界CO2乾燥や気相HFで液体を介さず解放し、再付着は反スティクション膜やバンプで防ぐ。
- 3.加速度・圧力・マイク・ジャイロは多くが容量検出。可動質量や膜の変位をギャップ変化=静電容量変化として読み、ジャイロはコリオリ力で生じる直交方向の微小容量を拾う。
MEMSとは「動く半導体」
MEMS(Micro Electro-Mechanical Systems、微小電気機械システム)は、半導体プロセスを使って機械的に動く微小構造を作り込んだデバイスです。トランジスタが電気だけを扱うのに対し、MEMSは数µmのバネ・梁・膜・質量を基板上に作り、加速度や音圧といった物理量を電気信号に変換します。製造は前工程の成膜・リソ・エッチを土台にしますが(/semiconductor/wafer-fab-process-flow/)、決定的な違いは 可動部を基板から「浮かせる」工程が要る点です。本稿はその浮かせ方(犠牲層エッチ)、貼り付き対策(スティクション)、そして主要センサのトランスデューサ原理を掘り下げます。
犠牲層エッチング:構造を浮かせる原理
可動構造を作る核心は 犠牲層(sacrificial layer) です。発想はシンプルで、最後に消す前提の「下駄」を一度敷き、その上に本物の構造(構造層, structural layer)を作り、最後に下駄だけを選択的に溶かして構造を宙に浮かせます。
表面MEMSの犠牲層プロセス:
1. 犠牲層を成膜 ┌──────────┐ ← SiO2など(後で消す)
(例 SiO2) │ 犠牲層 │
┴──────────┴ 基板
2. 構造層を成膜・成形 ┌─梁─────┐
│ 犠牲層 │ ← まだ下に犠牲層
┴────────┴ 基板
3. 犠牲層を選択エッチ ┌─梁─────┐ ← 宙に浮いた!
(HFでSiO2溶解) (空隙)
──────── 基板
ここで効くのが選択比です。犠牲層だけが速く溶け、構造層・基板はほとんど侵されない組み合わせを選びます。代表は 構造層=ポリシリコン、犠牲層=SiO2、エッチ液=フッ酸(HF)。HFはSiO2を激しく溶かす一方、ポリSiはほぼ侵さないため、梁の下のSiO2だけが横方向に溶け進み(リリースエッチ、横方向アンダーカット)、最後に梁が完全に解放されます。
表面MEMSは基板の「上に」薄膜を積層して構造を作る方式で、犠牲層を消して浮かせます(上記)。集積回路と同じ薄膜技術で作れCMOSと混載しやすい反面、構造は薄く(数µm)質量が小さい。対してバルクMEMSはSi基板「そのもの」を深く掘り込んで厚い構造を彫る方式で、後述のDRIEで高アスペクト比の壁を立て、大きな可動質量や深い空洞を得られます。質量が大きいほど後述の検出感度を稼ぎやすいのが利点です。
バルクMEMS:DRIEとSOIで厚い構造を彫る
バルクMEMSはSi基板を貫くほど深く掘ります。これを担うのが DRIE(Deep RIE、深堀り反応性イオンエッチング)、典型的にはボッシュ(Bosch)法です。エッチ(SF6)と側壁保護膜の堆積(C4F8)を数秒ごとに交互に切り替え、保護膜で側壁を守りつつ底だけ垂直に削ることで、アスペクト比20以上の深い縦溝を立てます(原理は /semiconductor/plasma-etch-physics/ と /semiconductor/etching-deposition/)。側壁に残る微小な波打ち(スキャロップ)は交互工程の痕跡です。
厚い可動構造を綺麗に作る定番が SOI(Silicon On Insulator)ウェハの利用です。SOIは「デバイス層Si/埋め込み酸化膜(BOX)/ハンドルSi」の三層構造で、DRIEでデバイス層を貫通させ、BOX(SiO2)を犠牲層としてHFで溶かすと、厚みの揃った構造が一気に解放されます。埋め込み酸化膜がエッチストップ兼犠牲層を兼ねるため、構造の厚みを層厚で正確に決められるのが強みです。高性能ジャイロや加速度計の多くがこのSOI-MEMS(厚膜MEMS)で作られます。
スティクション:解放後の最大の敵
犠牲層をウェット(液中)で溶かすと、最後に構造を乾かす段階で深刻な問題が起きます。スティクション(stiction、貼り付き) です。
解放直後、梁と基板の隙間は液体で満たされています。乾燥でこの液体が引いていくとき、残った液滴の表面張力(メニスカスの毛管力)が梁を基板側へ強烈に引き寄せます。µmスケールでは重力よりこの毛管力が桁違いに大きく、柔らかい梁はたわんで基板に接触してしまう。いったん触れると、今度はファンデルワールス力や水素結合で恒久的に貼り付き、二度と離れません。これがリリーススティクションで、MEMS歩留まりの古典的な大敵です。
対策は「液体を介さずに解放・乾燥する」ことに尽きます。代表的な手法を挙げます。
| 対策 | 原理 | 効く相手 |
|---|---|---|
| 超臨界CO2乾燥 | 液体を超臨界状態経由で気化させ気液界面(表面張力)を消す | リリース時の毛管力スティクション |
| 気相HFエッチ | 液を使わずガスでSiO2犠牲層を除去し乾燥工程自体を無くす | リリース時のスティクション |
| 反スティクション膜(SAM) | 自己組織化単分子膜で表面を疎水化し付着エネルギーを下げる | 使用中(イン・ユース)の再付着 |
| ダンプル/バンプ | 接触面に微小突起を設け実接触面積を激減させる | 衝撃時の再付着 |
リリース時の毛管力を断つ王道が 超臨界CO2乾燥です。液体CO2を臨界点(約31℃・7.4MPa)を超える超臨界状態にすると気体と液体の区別が消え、気液界面そのものが存在しなくなるため表面張力がゼロになります。その状態から減圧して気体へ抜けば、メニスカスを一度も作らずに乾かせます。さらに液工程ごと避ける 気相HFエッチは、ガスでSiO2を除去するので乾燥工程自体が不要になり、貼り付きの機会を根本から断ちます。
使用中の再付着(イン・ユース・スティクション)には、**反スティクションコート(SAM、自己組織化単分子膜)で接触面を疎水化して付着エネルギーを下げ、加えてダンプル(微小突起)**で実接触面積を減らすのが定石です。
容量検出:変位を静電容量で読む
主要なMEMSセンサの多くが採用する読み出し原理が 容量検出(capacitive sensing) です。土台は平行平板コンデンサの式 C = ε·A / d。ギャップ d か対向面積 A が機械的に変われば容量 C が変わる——この一点を読みます。容量検出は消費電力が低く温度ドリフトに強いため、量産センサの主流です。
加速度センサ(容量検出)
加速度計は、バネで吊った 可動質量(プルーフマス) と固定電極で**くし歯(コームフィンガー)**型の可変コンデンサを構成します。加速度がかかると慣性で質量が変位し(変位は加速度に比例)、片側のギャップが縮み反対側が広がります。
固定電極 可動電極(質量) 固定電極
│ C1 │ ← 質量 → │ C2 │
加速 → │←──→│ │←─→│
ギャップ拡大 ギャップ縮小
→ C1減少, C2増加 → 差動容量(C2 - C1)で加速度を読む
ポイントは 差動検出です。固定電極を質量の両側に置き C1 と C2 の差をとると、加速度に対する感度は2倍になり、温度膨張など両側に等しく効くコモンモードのドリフトは打ち消されます。検出回路はこの微小な容量差をスイッチトキャパシタなどで電圧に変換します。
圧力センサ(ピエゾ抵抗 or 容量)
圧力センサはバルクMEMSで**薄いダイアフラム(膜)**を作り、その下に基準圧の空洞を設けます。外圧で膜がたわむ量を読みますが、変換方式は2系統あります。
- ピエゾ抵抗式:膜のたわみで生じる機械応力を、膜上に拡散した抵抗の**抵抗値変化(ピエゾ抵抗効果)**として読み、ブリッジ回路で電圧化する。感度が高く絶対圧計に多い。
- 容量式:たわんだ膜を可動電極、対向基板を固定電極としてギャップ変化=容量変化を読む。低消費電力で安定。
MEMSマイク(容量検出)
MEMSマイクは本質的に音圧で振動する超薄ダイアフラムと、固定の穴あきバックプレートで作るコンデンサです。音圧でダイアフラムが振動するとギャップが変わり、容量が音声波形どおりに変化します。一定電荷でバイアスしておくと Q = C·V より、容量変化がそのまま電圧変化として現れます。バックプレートに音響穴を空けるのは、薄い空気層がダンパとして効きすぎる(音響的減衰)のを逃がすためです。
MEMSマイクの穴あきバックプレートは飾りではありません。ダイアフラムとバックプレートの狭い隙間の空気は粘性ダンパとして働き、放置すると高域が鈍ります。穴を空けて空気を逃がすことでこのスクイーズフィルム減衰を抑えます。別に開ける微小なベント孔は、大気圧のゆっくりした変化を逃がして低域カットオフを決め、温度や標高でダイアフラムが偏らないようにする役目です。
ジャイロ:コリオリ力を容量で拾う
MEMSジャイロ(角速度センサ)は最も精緻なMEMSの一つです。原理は コリオリ力。質量を一定方向に駆動振動させておき、その状態でデバイスが回転すると、回転軸・駆動速度の双方に直交する方向にコリオリ力 Fc = 2·m·v×Ω が生じます(Ω が角速度)。この力で質量は駆動と直交する方向(検出モード)にも微小振動し始めます。
駆動振動(x方向, 一定振幅で揺らし続ける)
←──● m ──→
│
回転 Ω が加わると…
↓ コリオリ力 Fc = 2 m v Ω(y方向, 駆動と直交)
検出モード(y方向)の振動が誘起される
→ y方向のくし歯容量変化を読む → 角速度 Ω に比例
つまり駆動はx、検出はyと直交2軸に分け、検出モードのくし歯容量変化を読むと角速度が求まります。難しいのは、コリオリ振幅が極めて小さく、駆動振動の漏れ込み(クアドラチャ誤差)に埋もれやすい点です。実機は駆動・検出を互いに逆位相で振る2質量の差動構成にして、外部からの直線加速度(両質量に同相で効く)を打ち消し、回転由来の逆相成分だけを抽出します。共振を使って駆動振幅を稼ぐため、温度で共振周波数がずれない設計と長期安定性が信頼性上の要になります(経年劣化の考え方は /semiconductor/reliability-physics/)。
可動構造の解放は「犠牲層を選択エッチ(ポリSi構造層+SiO2犠牲層+HF)」が基本。表面MEMS=薄膜積層、バルクMEMS=DRIE(ボッシュ法)でSi基板を深掘り、と区別。スティクションの原因は液体乾燥時の表面張力(毛管力)で、対策は超臨界CO2乾燥・気相HF(液体を介さない解放)とSAM/バンプ(再付着防止)。加速度・圧力・マイクは容量検出(ギャップ変化)+差動が定番、ジャイロはコリオリ力で生じる直交方向振動を容量で読む、が答えの骨子。
まとめ
- MEMSは半導体プロセスで可動構造を作るデバイスで、核心は犠牲層を選択エッチして構造を基板から浮かせること(ポリSi構造層+SiO2犠牲層+HFが定番)。
- 表面MEMSは薄膜積層+犠牲層除去、バルクMEMSは**DRIE(ボッシュ法)**やSOIでSi基板を深掘りし、厚く重い構造を彫る。
- 解放後の最大の敵がスティクション。原因は液体乾燥時の**表面張力(毛管力)**で、超臨界CO2乾燥・気相HFで液体を介さず解放し、SAM膜・バンプで使用中の再付着を防ぐ。
- 加速度・圧力・マイクは容量検出(
C = εA/dのギャップ変化)が主流で、差動構成で感度を倍化しコモンモードのドリフトを打ち消す。 - ジャイロはコリオリ力(駆動方向と回転に直交する力)が誘起する検出モード振動を容量で読み、逆相2質量の差動で直線加速度を排して角速度だけを抽出する。
半導体 Article
MEMSとセンサデバイスの製造原理を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
MEMS
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 半導体 / タグ数: 6
導入後に効く点
解放後の最大の敵はスティクション。表面張力で構造が基板に貼り付くため、超臨界CO2乾燥や気相HFで液体を介さず解放し、再付着は反スティクション膜やバンプで防ぐ。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 半導体
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「MEMS / センサ」に近いか確認する。
- 強みである「MEMSは犠牲層を選択エッチで溶かして可動構造を基板から浮かせる。表面MEMSは薄膜の積層と犠牲層除去、バルクMEMSはSi基板自体を深掘り(DRIE)して構造を彫る。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。