PWM(パルス幅変調)
オンとオフの比率だけで平均電圧を自在に操り、スイッチをほぼ発熱させずにモータや電源を制御する原理を、デューティ比の式からキャリア周波数・フィルタ設計まで一気に腑に落とせます。
- 1.PWM は一定周期でオン時間の比率(デューティ比 D)だけを変え、平均出力電圧を Vavg = D·Vdd に線形制御する。スイッチは完全オンか完全オフしか取らないため理想損失ゼロで電力を絞れる。
- 2.キャリア周波数 fc はリプルとスイッチング損失のトレードオフで決める。基本波成分は DC(0 Hz)で、不要なエネルギーは fc とその整数倍に集中するため LC ローパスで平均値だけを取り出せる。
- 3.モータ制御では巻線インダクタンスが電流を平滑化し、電源では LC フィルタが電圧を平滑化する。同じ「面積で平均を作る」原理が DC-DC コンバータ・インバータ・D 級アンプまで共通する。
PWM は「時間の比率」で平均値を作る
PWM(Pulse Width Modulation, パルス幅変調)は、一定周期の矩形波でオンとオフの時間比だけを変え、負荷に届く平均的な電力を制御する手法です。アナログのように電圧そのものを連続値へ絞るのではなく、スイッチを 完全オン(0 Ω 相当)か完全オフ(∞ Ω 相当) の二値でしか動かさない点が本質です。どちらの状態でも「電圧×電流」の一方がほぼゼロになるため、スイッチ素子(MOSFET や IGBT)の発熱を理想的にはゼロに抑えたまま、大電力を効率よく制御できます。この物理が、リニアレギュレータや可変抵抗による制御を置き換えてきた根本の理由です。
基本量は周期 T、そのうちオンである時間 Ton、そしてその比であるデューティ比 D です。
D = Ton / T (0 ≤ D ≤ 1、% 表記なら 0〜100%)
fc = 1 / T (キャリア周波数=スイッチング周波数)
デューティ比と平均電圧
出力が Ton の間だけ電源電圧 Vdd、残り Toff の間は 0 V を取る理想矩形波を考えます。1周期の平均電圧は「電圧を時間で積分し周期で割る」——すなわち波形が囲む面積を周期で均した値です。
Vavg = (1/T) · ∫ v(t) dt
= (1/T) · ( Vdd·Ton + 0·Toff )
= Vdd · (Ton / T)
= D · Vdd
平均電圧はデューティ比に 完全に線形 で比例します。D = 0.25 なら電源電圧の 25%、D = 0.75 なら 75%。負荷が抵抗性で電流が電圧に追従するなら、平均電力は概ね D·Vdd²/R となり、デューティ比ひとつで連続的に出力を絞れます。制御側はこの D をデジタルに更新するだけでよく、マイコンのタイマ周辺回路が担う定番機能になっています。
マイコンやFPGAのPWM周辺回路は、周期に相当する値まで数え上げるカウンタ(キャリア)と、しきい値レジスタ(比較値)の大小比較で矩形波を作ります。カウンタ値が比較値未満の間は出力ハイ、以上でロー、といった具合です。周期カウントを N、比較値を C とすると D = C / N で、N が分解能(何段階でデューティを刻めるか)を決めます。10ビットなら 1024 段階です。
キャリア周波数:リプルと損失のトレードオフ
キャリア周波数 fc(スイッチング周波数)は、平均値そのものには影響しません。D が同じなら fc を変えても Vavg は同じです。ではなぜ fc を上げ下げするのか——理由は リプル(脈動)とスイッチング損失のせめぎ合い にあります。
負荷にインダクタ L を通して電流を流す場合、オン期間中に電流が直線的に増え、オフ期間に減る三角波状の脈動(電流リプル)が乗ります。そのピークトゥピーク振幅は近似的に次式で表せます。
ΔI ≈ (Vdd − Vout) · D / (L · fc) (オン期間のインダクタ電流増分)
fc を上げるほど1周期が短くなり、電流が増減する時間が縮むため ΔI は小さくなります。つまり 高い fc ほど平滑で、必要なインダクタやコンデンサも小さくできる。一方でスイッチは1回オン・オフするたびに、電圧と電流が同時に立つ遷移区間で必ずエネルギーを失います(スイッチング損失)。この損失は1秒あたりのスイッチ回数に比例するため、概ね fc に比例して増えます。
P_sw ≈ (1/2) · Vdd · I · (t_on_tr + t_off_tr) · fc (+ ゲート駆動損失など)
fc を上げるとフィルタは小型化できますが、スイッチング損失・ゲート駆動損失・EMI(電磁妨害)が増え、効率が落ちます。逆に下げるとリプルが増え、フィルタが大型化し、可聴域(20 kHz 未満)ではモータや磁性部品が鳴きます。実際の設計は、要求リプル・許容損失・部品サイズ・可聴ノイズの妥協点として fc を決めます。モータ駆動で 8〜20 kHz、DC-DC で数百 kHz〜数 MHz が典型なのはこのためです。
スイッチングで電力を制御できる理由
なぜ二値のスイッチングが「発熱の少ない電力制御」になるのか。スイッチ素子が消費する損失は、その瞬間の Vsw · Isw の積です。
- 完全オン:素子両端の電圧
Vswがほぼ 0(オン抵抗ぶんの微小電圧のみ)。電流は流れるが電圧がゼロに近いので損失は小さい。 - 完全オフ:電流
Iswがほぼ 0(漏れ電流のみ)。電圧はかかるが電流がゼロなので損失は小さい。 - 遷移の途中(アナログ的な中間状態):
VswとIswが同時に大きくなり、積が最大化して熱になる。
リニアレギュレータはこの 中間状態に居座って 余剰電圧を熱で捨てるため、(Vin − Vout)·I がまるごと損失になります。PWM はこの中間状態を一瞬で通り抜け、大半の時間をオンかオフの低損失状態で過ごします。だから理想スイッチなら損失ゼロで電力を絞れ、実素子でも導通損失とスイッチング損失という有限の損失に抑えられる。これが電力変換の効率がリニア方式を大きく上回る原理的な根拠です。
モータと電源への応用
同じ「面積で平均を作る」原理が、応用ごとに何を平滑化するかで顔つきを変えます。
| 用途 | PWM が制御する量 | 平滑化する要素 | 狙い |
|---|---|---|---|
| DC モータ速度制御 | 巻線への平均電圧 | 巻線インダクタンスと慣性 | 回転数をデューティ比で可変 |
| 降圧 DC-DC(バック) | スイッチノードの平均電圧 | LC ローパスフィルタ | 安定した低リプル直流出力 |
| インバータ(DC→AC) | 各瞬間の目標正弦波電圧 | 巻線インダクタンス/LCフィルタ | デューティを正弦状に変え交流を合成 |
| D 級オーディオアンプ | 音声波形に追従した平均電圧 | LC フィルタ+スピーカ | 高効率で音声信号を再生 |
DC モータでは、巻線のインダクタンスが電流の急変を嫌い、PWM の高周波成分を自然に平滑化します。負荷は本質的にローパス特性を持つため、モータには「平均電圧 D·Vdd」がかかったのとほぼ等価に振る舞い、回転数がデューティ比で制御できます。加えて回転子の機械的慣性が速度変動をさらに均します。
インバータでは一歩進んで、デューティ比を時間とともに正弦波状に変化させます(正弦波 PWM, SPWM)。各スイッチング周期の平均電圧を目標の正弦波瞬時値に一致させ続けることで、平滑後に交流波形を合成できます。三相化すれば可変電圧・可変周波数の交流が作れ、AC モータの可変速駆動(VVVF インバータ)の心臓部になります。詳細は インバータの SPWM 変調 を参照してください。
PWM 出力を単純な RC ローパスに通すと、平均電圧 D·Vdd のアナログ電圧が得られます。分解能はデューティの刻み段数(例:10ビットで 1024 段)で決まり、専用 DAC を持たない安価なマイコンでも近似的なアナログ出力を作れます。リプルを十分小さくするには、フィルタのカットオフを fc より十分低く設計するのが要点です。
フィルタリング:不要成分は fc 以上に集中する
PWM 波形をなぜフィルタで平均値だけ取り出せるのか。矩形波をフーリエ級数で分解すると、その周波数成分は 直流(平均値 D·Vdd)+キャリア周波数 fc とその整数倍の高調波 だけで構成され、fc 未満(直流と fc の間)には成分が存在しません。取り出したい平均値は 0 Hz、捨てたい脈動は fc 以上——両者は周波数軸で大きく離れています。
v(t) = D·Vdd (欲しい直流成分)
+ Σ (k=1,2,3,…) a_k · sin(2π·k·fc·t + φk) (fc, 2fc, 3fc, … の高調波)
したがって、カットオフ周波数 fcut を「直流は通し、fc は十分減衰させる」よう fcut を fc より十分低く置いた LC(または RC)ローパスフィルタを挿入すれば、脈動だけを削って平均値を残せます。この帯域分離こそが、PWM でありながら滑らかな直流・音声・正弦波を得られる仕組みの核です。
LC ローパスの遮断周波数: fcut = 1 / ( 2π · √(L·C) )
設計指針: fcut ≪ fc (高調波を十分減衰)
かつ fcut > 出力に必要な最高周波数(信号は通す)
fcut を fc に近づけすぎると fc 成分が減衰しきらず、出力に大きなリプルが残ります。逆に極端に低くすると、出力の応答が鈍り、モータの加減速やオーディオの高音が追従できません。また LC フィルタは共振点を持つため、負荷条件によっては fcut 付近でピークが立ち、発振や過渡振動の原因になります。ダンピング(抵抗や制御ループ)による減衰の確保が不可欠です。
分解能とデッドタイム:実装上の勘所
理想論だけでは動きません。実装では二つの現実が効きます。
一つは 分解能とキャリア周波数のトレードオフ。デューティの刻み段数はタイマのクロック f_clk を fc で割った値で決まります。分解能ビット ≈ log2(f_clk / fc) なので、fc を上げるほど1周期のカウント数が減り、デューティを細かく刻めなくなります。高周波かつ高分解能を両立するには、高速クロックや専用の高分解能 PWM 回路が要ります。
もう一つは デッドタイム。ハーフブリッジ(上下2つのスイッチを直列にした構成)では、上側と下側が同時にオンになると電源が短絡(貫通電流)して素子が破壊されます。これを防ぐため、一方をオフしてから他方をオンするまでにわずかな両方オフ期間(デッドタイム)を挿入します。デッドタイムは出力電圧に誤差(デッドタイム歪み)を生むため、精密なモータ制御では補償が必要です。
- 平均電圧:
Vavg = D·Vdd。デューティ比に線形。即答できること。 - キャリア周波数の役割:平均値には無関係。上げるとリプル減・フィルタ小型化だがスイッチング損失と EMI が増加。
- 低損失の理由:スイッチは完全オン(電圧ゼロ)か完全オフ(電流ゼロ)で動き、
Vsw·Iswの積が小さい。リニア方式は中間状態で発熱。 - フィルタが効く理由:スペクトルが直流と
fc以上に分離。fcut ≪ fcの LC ローパスで平均値を抽出。 - デッドタイム:ハーフブリッジの貫通電流防止に必須。歪みを生むため補償対象。
まとめ
PWM は、電圧を連続的に絞るのではなく 一定周期のオン・オフ比(デューティ比)だけを操作 して平均電力を制御する手法です。要点は、(1) 平均電圧は Vavg = D·Vdd でデューティ比に線形であること、(2) キャリア周波数はリプルとスイッチング損失のトレードオフで決め、平均値そのものには影響しないこと、(3) スイッチが完全オン・完全オフの低損失状態で動くため理想的に無損失で電力を絞れること、(4) 不要成分は fc 以上に集中するため fcut ≪ fc のローパスで平均値だけを取り出せること。この原理はモータ制御・DC-DC コンバータ・インバータ・D 級アンプに共通する電力変換の土台であり、より広い電力回路の設計は 電源・パワーエレクトロニクス の各記事、スイッチ素子や周辺回路の物理は ハードウェアコンポーネント も合わせて参照してください。
信号処理・制御 Article
PWM(パルス幅変調)を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
PWM
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 信号処理・制御 / タグ数: 5
導入後に効く点
キャリア周波数 fc はリプルとスイッチング損失のトレードオフで決める。基本波成分は DC(0 Hz)で、不要なエネルギーは fc とその整数倍に集中するため LC ローパスで平均値だけを取り出せる。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 信号処理・制御
- タグ数
- 5
判断チェックリスト
- 自社の用途が「PWM / デューティ比」に近いか確認する。
- 強みである「PWM は一定周期でオン時間の比率(デューティ比 D)だけを変え、平均出力電圧を Vavg = D·Vdd に線形制御する。スイッチは完全オンか完全オフしか取らないため理想損失ゼロで電力を絞れる。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。