インバータの原理:DC→AC変換とSPWM
直流から滑らかな正弦波交流を作る仕組みを、フルブリッジのスイッチング・SPWM・LCフィルタの三段で原理から理解できます。低次高調波を消し変調率で振幅を操る勘所がつかめます。
- 1.フルブリッジは4個のスイッチを対角でオン/オフし、直流母線電圧を正負に切り替えて交流の元波形を作る。出力は瞬時には矩形だが、平均すれば正弦波を再現できる。
- 2.SPWM(正弦波PWM)は正弦波の指令とそれより十分速い三角波を比較してパルス幅を変える。これにより低次高調波が消え、エネルギーが搬送波周波数の周辺へ移るので小さなLCフィルタで除去できる。
- 3.変調率(指令振幅÷三角波振幅)で出力基本波の振幅が決まる。1.0までが線形領域で、超えると過変調。三次高調波を重畳すると同じ母線電圧で約15%高い基本波が出せ、母線利用率が上がる。
なぜスイッチだけで直流から正弦波が作れるのか
インバータは直流(DC)から交流(AC)を作る変換器です。太陽光パネルやバッテリの直流を家庭用100Vの交流に変える装置、モータを可変速で回すドライブ、無停電電源装置の出力段——いずれも中身はインバータです。
原理の核心は「スイッチの切り替えだけで連続的な正弦波の振幅を作る」点にあります。直流電源の電圧は一定値しかありません。そこからどうやって時間とともに滑らかに上下する正弦波を生むのか。答えは、出力を非常に高速にオン/オフし、そのオン時間の比率(デューティ比)を周期内で正弦波状に変えていくこと。瞬間瞬間は矩形パルスでも、短時間で平均すれば任意の値を再現できる——これは /power/pwm-feedback-control/ で見たPWMの考え方をそのまま交流出力に拡張したものです。
フルブリッジ ── 直流母線を正負に切り替える
単相インバータの標準構成が**フルブリッジ(Hブリッジ)**です。4個のスイッチ(IGBTやMOSFET)をH字に組み、負荷を中央に置きます。
フルブリッジ(単相)の構成
+Vdc ──┬───────┬──
│ │
[S1] [S3]
│ │
負荷 ── A ───── B ──(A,B間に出力)
│ │
[S2] [S4]
│ │
0V ───┴───────┴──
対角ペアでオン/オフを切り替える
S1+S4 オン : A が +Vdc、B が 0V → 出力 = +Vdc
S2+S3 オン : A が 0V、B が +Vdc → 出力 = −Vdc
同じ脚の上下(S1とS2など)を同時オンは短絡(貫通電流)で厳禁
S1・S4の対角ペアをオンにすると負荷には +Vdc、S2・S3に切り替えると −Vdc がかかります。つまり直流母線電圧を正負に振り分けることで、交流の素となる双極性の波形を得ます。
S1とS2のように同じ脚の上下スイッチが一瞬でも同時にオンになると、母線が直結され短絡電流(貫通電流、シュートスルー)がスイッチを破壊します。実機では一方をオフにしてから他方をオンにするまで数百nsのデッドタイムを必ず挿入します。デッドタイムは安全のためですが、その間出力が不定になるぶん出力波形に歪みを生むトレードオフがあります。
矩形波をそのまま出すだけなら、対角ペアを基本波周期ごとに切り替えれば方形波の交流になります。しかしこれは基本波に加えて3次・5次・7次……と多数の低次高調波を含み、波形は正弦波からほど遠い。歪みを減らすには、1周期内でさらに細かくスイッチングし、平均値を正弦波に近づける必要があります。
SPWM ── 正弦波指令と三角波の比較
そのための変調方式が正弦波PWM(SPWM、Sinusoidal PWM)です。やることは単純で、出力させたい正弦波の指令信号と、それより十分速い**三角波(搬送波、キャリア)**を比較し、指令が搬送波より大きい区間でスイッチをオンにします。
SPWM の生成(搬送波比較方式)
指令(正弦波) :ゆっくり上下する目標波形 m(t)
搬送波(三角波) :基本波より十分高い周波数 fsw
m(t) > 三角波 の区間 : 上アーム側オン(出力 +Vdc 方向)
m(t) ≤ 三角波 の区間 : 下アーム側オン(出力 −Vdc 方向)
→ 指令が大きい山の付近ではパルス幅が広く、
谷の付近では狭くなる。パルス幅が正弦波状に変調される
指令が大きいところではパルスが太く、小さいところでは細くなる。結果として出力パルス列の局所平均が正弦波をなぞるのがSPWMの本質です。搬送波周波数 fsw を基本波の数十〜数百倍に取るほど、再現される正弦波は滑らかになります。
ここで決定的に重要なのが高調波のスペクトル整形です。SPWMでは出力の高調波が3次・5次といった低次には現れず、エネルギーが搬送波周波数 fsw とその整数倍の周辺に集中します。低次高調波が消えることが、後段フィルタの設計を劇的に楽にします。
高調波が高い周波数に追いやられると、それを除去するLCフィルタのカットオフ周波数を高く設定でき、コイルとコンデンサを小さくできます。もし方形波のように3次・5次が大きく残っていたら、基本波(50/60Hz)に近い低い周波数で切る必要があり、巨大なリアクトルが要ります。SPWMが現代インバータの標準である最大の理由が、この「高調波を遠くへ飛ばす」効果です。
変調率と過変調 ── 出力振幅をどう決めるか
出力基本波の振幅を決めるのが**変調率(変調度、ma)**です。正弦波指令の振幅を三角波の振幅で割った比で定義します。
変調率 ma = 指令正弦波の振幅 / 三角波の振幅
ma が 0〜1.0 : 線形領域。基本波の振幅 = ma × Vdc に比例
ma = 1.0 : 線形領域の上限。出力基本波ピーク = Vdc
ma が 1.0 超 : 過変調(オーバーモジュレーション)
変調率が1.0以下の線形領域では、出力基本波の振幅は変調率に正比例します。変調率を上げれば出力電圧が上がる、という素直な関係でモータの速度制御や系統への電圧合わせを行います。
変調率を1.0より大きくすると過変調に入ります。指令の山の頂上付近で三角波の山を上回りきってしまい、その区間ではパルスがつながって飽和します。これにより基本波振幅をさらに稼げますが、いったん消えていた低次高調波が戻ってきて波形が歪み始めます。変調率を上げきった極限が方形波出力で、基本波振幅は線形上限より約27%高くなりますが、高調波だらけです。過変調は「電圧を絞り出したいが歪みは増える」領域として理解します。
三次高調波重畳 ── 母線電圧を使い切る
線形領域のままで出力をもう少し稼ぐ巧妙な手法が**三次高調波重畳(third-harmonic injection)**です。基本波の指令に、基本波の約6分の1の振幅の3次高調波を意図的に足します。
三次高調波重畳の効果
指令 = sin(ωt) + (1/6)・sin(3ωt) のような波形を使う
・3次成分は指令の山と谷を平らに押し下げる(ピークが下がる)
・指令ピークが下がるぶん、基本波の振幅をその分だけ増やせる
・単相では3次が出力に残るが、三相では各相の3次が同相で
線間電圧では打ち消し合うため、線間に3次は現れない
3次高調波は基本波のピーク付近を平らに凹ませるため、合成波形のピーク値が下がります。ピークに余裕ができたぶん、基本波そのものの振幅を増やしても合成波が三角波振幅を超えずに済む。結果、線形領域を保ったまま基本波を約15%増やせ、同じ直流母線電圧からより高い交流電圧を取り出せます。これが母線利用率(DC母線電圧の利用効率)の向上です。
三相インバータでは、足し込んだ3次高調波は3相とも同位相(零相)になるため、線間電圧をとると相間で打ち消し合い、負荷に3次が現れません。歪みを増やさずに利用率だけ上げられるのです。三相の線間電圧の関係は /power/three-phase-power/ を参照してください。
出力LCフィルタとTHD
SPWMの出力はパルス列なので、そのままでは高い周波数の搬送波成分を含みます。これをLCローパスフィルタで平滑し、基本波の正弦波だけを取り出します。
出力フィルタ(LCローパス)
インバータ出力 ──[ L ]──┬──→ 負荷(正弦波)
│
[ C ]
│
GND
カットオフ fc = 1/(2π√(LC))
設計指針 : 基本波周波数 < fc < スイッチング周波数 fsw
→ 基本波は通し、fsw 周辺の高調波は減衰させる
カットオフ周波数は基本波より十分高く、搬送波周波数より十分低く設定します。前述のとおりSPWMが高調波を fsw 周辺へ追いやってくれているので、フィルタは無理なく両者を分離できます。LCフィルタの動特性(共振や減衰)の基礎は /power/rlc-transient-response/ が詳しいです。
波形の純度を測る指標が**全高調波歪み(THD、Total Harmonic Distortion)**です。基本波に対する全高調波成分の実効値の比で、正弦波に近いほど小さくなります。
THD = (全高調波成分の実効値) / (基本波の実効値) × 100%
方形波出力 : THD 約48%(高調波だらけ)
SPWM + LCフィルタ : 数%以下に低減できる
系統連系の要件 : 通常 THD 5%以下が求められる
系統連系と独立運転
インバータの運転モードは大きく二つに分かれます。
| 観点 | 系統連系(グリッドタイ) | 独立運転(スタンドアロン) |
|---|---|---|
| 電圧/周波数の基準 | 系統電圧に同期させる(PLLで追従) | インバータ自身が基準を作る |
| 制御目標 | 系統へ流す電流(電流源的に振る舞う) | 出力電圧を一定に保つ(電圧源的) |
| 位相 | 系統電圧と位相を合わせ力率を制御 | 内部基準が位相を決める |
| 停電時の挙動 | 単独運転検出で即座に解列(保護) | そのまま負荷へ給電を継続 |
| 代表用途 | 太陽光・蓄電池の売電/自家消費 | 無停電電源装置・独立電源・離島電源 |
系統連系では、インバータは商用系統という巨大な電圧源に並列接続されます。系統電圧の位相をPLL(位相同期ループ)で検出し、それに同期した電流を注入します。電圧は系統が決めるので、インバータは「いくらの電流をどの位相で流すか」を制御する電流源として振る舞い、力率や注入電力を操作します。力率の考え方は /power/power-factor-reactive-power/ を参照してください。
系統が停電したのにインバータが給電を続けると、本来無電圧であるべき配電線が充電され、復旧作業員の感電や設備損傷を招きます。これを防ぐため、系統連系インバータは停電を検知して即座に系統から切り離す**単独運転検出(アンチアイランディング)**を必ず備えます。周波数や電圧のわずかな変化を能動的に探って判定する方式が一般的です。
独立運転では、参照すべき外部電圧がありません。インバータ自身が電圧と周波数の基準を作り出し、出力電圧を一定に保つ電圧源として動きます。無停電電源装置や離島・非常用電源がこのモードです。負荷が変わっても電圧を維持する必要があるため、出力電圧フィードバックによる閉ループ制御が中心になります。
まとめ
- フルブリッジは4個のスイッチを対角でオン/オフし、直流母線電圧を正負に振り分けて交流の素波形を作る。同一脚の上下同時オンは貫通電流を招くためデッドタイムが必須。
- SPWMは正弦波指令と高速三角波を比較してパルス幅を正弦波状に変調する。低次高調波が消え、エネルギーが搬送波周波数の周辺へ移るため、小さなLCフィルタで正弦波を取り出せる。
- 変調率(指令振幅÷三角波振幅)が1.0以下の線形領域では出力基本波が変調率に比例する。1.0を超える過変調では電圧を稼げるが低次高調波が戻り歪む。
- 三次高調波重畳は指令のピークを平らに凹ませて基本波を約15%増やし、母線利用率を高める。三相では線間電圧で3次が打ち消されるため歪みを増やさない。
- LCフィルタで搬送波成分を除き、波形純度はTHDで評価する。系統連系では通常THD5%以下が要求される。
- 系統連系はPLLで系統に同期し電流源として振る舞い、停電時は単独運転検出で即解列する。独立運転はインバータ自身が電圧・周波数基準を作る電圧源として動く。
- 関連:変調の基礎は /power/pwm-feedback-control/、三相の線間関係は /power/three-phase-power/、フィルタ動特性は /power/rlc-transient-response/、力率は /power/power-factor-reactive-power/。
電源 Article
インバータの原理:DC→AC変換とSPWMを実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
インバータ
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6
導入後に効く点
SPWM(正弦波PWM)は正弦波の指令とそれより十分速い三角波を比較してパルス幅を変える。これにより低次高調波が消え、エネルギーが搬送波周波数の周辺へ移るので小さなLCフィルタで除去できる。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 電源
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「インバータ / SPWM」に近いか確認する。
- 強みである「フルブリッジは4個のスイッチを対角でオン/オフし、直流母線電圧を正負に切り替えて交流の元波形を作る。出力は瞬時には矩形だが、平均すれば正弦波を再現できる。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。