系統連系インバータと電力系統の同期:PLLと位相追従
太陽光や蓄電の系統連系で必須となる位相追従を、SRF-PLLのdq変換とPI制御から原理で理解できます。有効/無効電力の独立制御や単独運転検出、FRTといった連系要件の勘所もつかめます。
- 1.SRF-PLLは三相電圧をdq変換し、q軸電圧をゼロに追い込むPI制御で系統の位相角と周波数を推定する。推定位相を基準にすればインバータは系統に同期した電流を注入できる。
- 2.dq座標では有効電力はd軸電流、無効電力はq軸電流でほぼ独立に決まる。電圧指向制御により、力率や電圧支援を電流指令の配分だけで操作できる。
- 3.停電時に給電を続けると配電線が充電され作業員感電を招くため、単独運転検出(アンチアイランディング)で即解列する。一方で系統事故時はFRT(低電圧ライドスルー)で踏みとどまる要件もあり、両者は相反するため協調が要る。
なぜ系統連系には「位相追従」が要るのか
太陽光パネルや蓄電池の直流を交流に変えて商用電力系統へ流し込むのが系統連系インバータです。インバータ自身が電圧・周波数の基準を作る独立運転(/power/inverter-dc-ac-spwm/ で扱った無停電電源装置のモード)とは決定的に違い、系統連系では電圧と周波数を決めるのは巨大な商用系統のほうです。インバータはその系統電圧という「動く標的」に自分の出力位相をぴったり合わせ続けなければならない。
なぜ位相合わせが死活的かというと、有効電力・無効電力の向きと量がインバータ電圧と系統電圧の位相差・振幅差で決まるからです。位相がずれれば意図しない方向に大電流が流れ、保護が動作するか機器が壊れます。電流源として系統に電流を注入するには、まず系統電圧の瞬時位相角を正確に知る必要がある——これを担うのが**PLL(位相同期ループ、Phase-Locked Loop)**です。
系統連系インバータの基本構成
PV/蓄電池 ─[DC母線]─[インバータ]─[連系リアクトル L]─→ 系統
↑ │
電流指令 id*, iq* │ 系統電圧 vabc を測定
↑ ↓
電流制御器 ←──── PLL(位相角θ・周波数推定)
SRF-PLL ── dq変換でq軸電圧をゼロに追い込む
三相系統連系で標準的に使われるのが**SRF-PLL(同期座標系PLL、Synchronous Reference Frame PLL)**です。中核は座標変換にあります。
測定した三相電圧 va, vb, vc を、まずクラーク変換で静止2軸(α-β)へ、次にパーク変換で回転2軸(d-q)へ移します。回転d-q座標は、PLLが推定中の位相角 θ で回転する座標系です。
クラーク変換(三相 abc → 静止 αβ)
vα = va − (1/2)(vb + vc) をスケールしたもの
vβ = (√3/2)(vb − vc) をスケールしたもの
パーク変換(静止 αβ → 回転 dq、推定位相θで回す)
vd = vα cosθ + vβ sinθ
vq = −vα sinθ + vβ cosθ
ここがSRF-PLLの妙です。推定位相 θ が系統の真の位相に一致したとき、q軸電圧 vq がちょうどゼロになるように座標の向きを取ります(d軸を電圧ベクトルに合わせる電圧指向)。逆に言えば、vq ≠ 0 は「θ がまだ真の位相からずれている」という誤差信号そのものです。
そこで vq をPI制御器に通し、その出力を角周波数 ω の補正量とし、ω を積分して θ を作る——という閉ループを組みます。vq がゼロへ収束したとき、θ は系統位相に追従(ロック)しています。
SRF-PLL のループ
vabc ─[Clarke]─[Park(θ)]─→ vq ──→[PI]──→ Δω
│
ω0(公称角周波数)+ Δω = ω
│
[∫ dt]──→ θ ──┐
↑ │
└──────────┘(θをParkへフィードバック)
ロック時: vq → 0、θ は系統位相、ω は系統角周波数の推定値
このループの積分器手前のω(= ω0 + Δω)は、そのまま系統周波数の推定値になります。θは位相角、ωは周波数。SRF-PLLは1つのループで両方を出力するため、後段の電流制御の基準(θ)にも、単独運転検出やFRT判定で使う周波数監視(ω)にも、同じ推定量を共用できます。PI制御のゲイン設計はループ帯域と外乱(高調波やノイズ)除去のトレードオフで、帯域を上げると追従は速いが歪みに弱くなります。
不平衡や歪みのある系統では、単純なSRF-PLLは逆相成分による2倍周波数の脈動を vq に拾ってしまいます。これを抑えるためにDSC(遅延信号相殺)やDSOGI(二重二次一般化積分器)で正相成分だけを抽出してからPLLへ入れる改良型が実務では使われます。
有効/無効電力の独立制御 ── d軸とq軸の分離
PLLが位相角 θ を供給すると、電流もdq座標で扱えます。電圧指向(d軸を系統電圧に一致させ vq = 0)の下では、系統へ注入する瞬時電力がきれいに分離されます。
電圧指向(vd = 系統電圧の大きさ V、vq = 0)のとき
有効電力 P = (3/2)・vd・id ← d軸電流 id だけで決まる
無効電力 Q = −(3/2)・vd・iq ← q軸電流 iq だけで決まる
つまりd軸電流 id が有効電力、q軸電流 iq が無効電力を担い、互いにほぼ独立に操作できます。これが系統連系制御を見通しよくする最大の理由です。MPPT(最大電力点追従)で得た直流電力をすべて系統へ送るなら、その電力に見合う id* を指令し、力率1(無効電力ゼロ)運転なら iq* = 0 とします。電圧が低いときに系統を支えるため無効電力を注入するなら iq* に値を与えます。力率と無効電力そのものの概念は /power/power-factor-reactive-power/ を参照してください。
実際の電流追従は、連系リアクトル L を介した電流ループで行います。dq座標ではd軸とq軸が ωL を介して干渉する(クロスカップリング)ため、PI制御にデカップリング項を足して両軸を切り離します。
電流制御(dq、PI + デカップリング + 電圧フィードフォワード)
vd* = PI(id* − id) − ωL・iq + vd
vq* = PI(iq* − iq) + ωL・id + vq
・PI項 : 電流誤差をゼロへ
・∓ωL 項 : d-q 間のクロスカップリングを打ち消す
・vd,vq 項 : 系統電圧をフィードフォワードして外乱に強くする
得られた電圧指令 vd*, vq* を逆パーク変換で三相に戻し、SPWMや空間ベクトル変調でゲート信号にします。変調の原理は /power/inverter-dc-ac-spwm/ で扱ったとおりです。
三相の正弦波電流をそのまま追従しようとすると、PI制御では位相遅れと振幅誤差が残ります。ところが系統周波数で回るdq座標から見ると、基本波電流は**直流量(一定値)**に見えます。直流指令に対してはPI制御の積分動作が定常偏差をゼロにできる——これがdq変換して制御する実利です。系統に同期した回転座標があって初めて成り立つので、PLLの精度がそのまま電流制御の質を決めます。
アンチアイランディング ── 停電時は即解列する
系統連系で法令上も必須なのが**単独運転検出(アンチアイランディング)です。系統側が停電・解列したのにインバータが給電を続けると、本来無電圧であるはずの配電線が局所的に充電され続けます。これは復旧作業員の感電、機器の同期外れ再投入による損傷を招くため、停電を検知したら即座に系統から切り離す(解列する)**必要があります。
難しいのは、インバータの出力電力がたまたまその区域の負荷とほぼ釣り合っていると、解列後も電圧・周波数がしばらく正常範囲に見えてしまい、停電を検知しにくい点です。この「気づきにくい釣り合い点」を非検出領域(NDZ)と呼びます。
| 方式 | 原理 | 特徴 |
|---|---|---|
| 受動的検出 | 電圧・周波数・位相跳躍の逸脱を監視 | 系統に擾乱を与えないが非検出領域が広い |
| 能動的検出 | 周波数や無効電力に微小擾乱を注入し応答を見る | 非検出領域が狭いが多数台で擾乱が干渉しうる |
| 周波数シフト | 出力周波数をわずかにずらし続け系統が消えると発散 | 代表的な能動方式。単独運転で周波数が逸脱 |
| 系統側遠隔 | 系統側の遮断信号を通信で伝達 | 確実だが通信インフラが必要 |
受動的検出だけでは非検出領域が残るため、実機は能動的検出を併用します。能動方式は出力周波数や無効電力にごく小さな擾乱を加え、系統が生きていれば系統がそれを押さえ込む(応答が小さい)、系統が消えていれば擾乱が抑えられず周波数や電圧が規定範囲外へ発散する、という違いで判定します。
能動的検出の擾乱は1台なら有効でも、同じ配電線に多数のインバータがぶら下がると、各台の擾乱が打ち消し合って非検出領域が再び広がることがあります(ダイバーシティ問題)。実際の系統連系規程では、検出方式の選定に加えて整定値(電圧・周波数の許容範囲と検出時限)が細かく定められ、メーカは規格適合試験で多数台条件を含めた検証を求められます。
FRT ── 事故時はあえて踏みとどまる
ここで一見矛盾する要件が登場します。FRT(フォルトライドスルー、Fault Ride Through)、とくに**低電圧ライドスルー(LVRT)**です。再生可能エネルギーの大量導入が進むと、系統で短時間の電圧低下(系統事故やその除去動作)が起きるたびに連系インバータが一斉に解列すると、その瞬間に大量の電源が脱落し、かえって系統全体を不安定化(周波数低下・連鎖脱落)させます。
そこで近年の系統連系規程は、一定の電圧低下・継続時間の範囲なら解列せず運転を継続せよと要求します。これがFRTです。電圧が深く下がっても規定のカーブ(電圧低下の深さと許容継続時間の関係)の内側にある限り運転を維持し、さらに無効電流を注入して電圧回復を支援することまで求める規程もあります(ここで前述の iq 制御が効きます)。
LVRT(低電圧ライドスルー)の考え方
系統電圧
100% ┤━━━━━━━━━ ━━━━━━━━━
│ \ /
│ \____/ ← この谷の深さ・幅が
20% ┤ (規定カーブの内側なら運転継続)
└────────────────────────────→ 時間
事故発生 除去 回復
カーブ内側:解列禁止(踏みとどまる)+無効電流注入で電圧支援
カーブ外側(深すぎ・長すぎ):解列を許容
単独運転検出は「異常を見たら即切り離せ」、FRTは「異常(電圧低下)でも踏みとどまれ」と、方向が正反対の要求です。設計を誤ると、系統事故による正当な電圧低下をアンチアイランディングが単独運転と誤判定して解列し、FRT要件に違反します。逆にFRTを優先しすぎると本物の単独運転を見逃します。両者は電圧低下の深さ・継続時間・周波数挙動の違いで切り分け、検出時限と整定値を協調設計する必要があります。ここが系統連系インバータ制御の最も難しい勘所です。
電圧・周波数の擾乱と制御の関係
PLLの追従性能と保護の整定は、系統側の電圧品質と直結します。瞬時電圧低下(サグ)、フリッカ、高調波歪みなどの擾乱があるとPLLの位相推定が乱れ、電流制御の質も保護の誤判定確率も変わります。系統側で起きる電圧擾乱の分類と原因は /power/power-quality-disturbances/ で整理しています。インバータ側はPLLの帯域設計と前処理(正相抽出)で、これらの擾乱に対する頑健性を確保します。
まとめ
- 系統連系インバータは系統電圧という動く基準に位相を合わせ続ける必要があり、その位相角・周波数推定をSRF-PLLが担う。
- SRF-PLLはクラーク/パーク変換で三相電圧をdq座標へ移し、q軸電圧をゼロに追い込むPI制御で系統位相 θ と周波数 ω を同時推定する。
- 電圧指向のdq座標では有効電力はd軸電流 id、無効電力はq軸電流 iqでほぼ独立に決まり、力率や電圧支援を電流指令の配分だけで操作できる。dq制御は基本波を直流量として扱うためPIで定常偏差をゼロにできる。
- アンチアイランディングは停電時の感電防止のため即解列する保護で、受動・能動方式を併用して非検出領域を狭める。多数台では能動擾乱の干渉に注意。
- FRT(低電圧ライドスルー)は系統事故時にあえて運転継続し無効電流で電圧を支援する要件で、即解列を求めるアンチアイランディングと相反するため協調設計が不可欠。
- 関連:変調と独立運転の基礎は /power/inverter-dc-ac-spwm/、有効/無効電力の前提は /power/power-factor-reactive-power/、三相とdq変換の土台は /power/three-phase-power/、系統側擾乱は /power/power-quality-disturbances/。
電源 Article
系統連系インバータと電力系統の同期:PLLと位相追従を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
系統連系
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6
導入後に効く点
dq座標では有効電力はd軸電流、無効電力はq軸電流でほぼ独立に決まる。電圧指向制御により、力率や電圧支援を電流指令の配分だけで操作できる。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 電源
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「系統連系 / PLL」に近いか確認する。
- 強みである「SRF-PLLは三相電圧をdq変換し、q軸電圧をゼロに追い込むPI制御で系統の位相角と周波数を推定する。推定位相を基準にすればインバータは系統に同期した電流を注入できる。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。