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電力品質:サグ・スウェル・高調波・サージとその対策

原因不明の再起動やデータ化けの多くは電源擾乱が犯人です。サグ・高調波・サージの発生源と機器影響を、SPD・フィルタ・UPSという対策とセットで体系的に切り分けられます。

応用電力品質高調波サージUPSSPD電源擾乱最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.電力品質の擾乱は「電圧の大きさ(サグ/スウェル/瞬停)」「波形の歪み(高調波/フリッカ)」「過渡(サージ/ノイズ)」の3軸で分類でき、原因も対策も軸ごとに異なる。
  • 2.高調波は非線形負荷が基本波の整数倍電流を引くことで生じ、特に第3高調波は三相4線の中性線で加算重畳して過熱を招く。THD で定量化する。
  • 3.対策は層別防御で、過渡サージは SPD(バリスタ)でクランプ、高調波は受動/能動フィルタや PFC で抑制、サグ/瞬停は UPS の蓄電で橋渡しする。

電力品質は「理想正弦波からのずれ」をどう分類するか

理想の商用電源は、振幅も周波数も一定の純粋な正弦波です。電力品質(Power Quality)の問題とは、この理想からのあらゆる逸脱を指します。サーバーの原因不明な再起動、産業機器の誤動作、変圧器や中性線の過熱、メモリのビット化け——これらの相当数は、上流の電源擾乱が真因です。やっかいなのは、擾乱の種類ごとに発生源・機器への影響・有効な対策がまったく異なる点です。だからこそ「どの擾乱か」を切り分けることが対策の出発点になります。

擾乱は次の3軸で整理すると見通しが立ちます。電圧そのものを論じるため、交流の実効値・力率・無効電力の前提は /power/power-factor-reactive-power/ を土台とします。

分類軸代表的な擾乱本質典型的な持続時間
電圧の大きさサグ / スウェル / 瞬停・停電実効値が定格から外れる半サイクル〜数秒
波形の歪み高調波歪み / フリッカ / 直流偏り正弦波の形が崩れる(定常的)連続・定常
過渡・高周波サージ(インパルス/オシレータ) / ノイズ短時間の急峻な乱れマイクロ秒〜ミリ秒

この3軸が重要なのは、対策手段が軸ごとに一対一で対応するからです。大きさの問題には蓄電(UPS)、歪みにはフィルタ、過渡にはクランプ素子(SPD)——どれか1つで全部は守れません。

電圧の大きさの擾乱 ── サグ・スウェル・瞬停

最も頻度が高いのが、実効値(RMS)が短時間ずれる擾乱です。IEC/IEEE の用語を押さえます。

  • サグ(dip): 実効値が定格の 0.1〜0.9 倍に、半サイクル〜数秒だけ落ち込む。最も発生頻度が高い擾乱で、大型モーターの始動電流、隣接する短絡事故、落雷による系統擾乱が主因。
  • スウェル: 実効値が定格の 1.1 倍超に短時間跳ね上がる。大負荷の急遮断、力率改善コンデンサの投入、単相系の片相地絡時に健全相が持ち上がる、などで生じる。
  • 瞬停・停電(interruption): 実効値がほぼゼロになる。瞬時停電(数サイクル)から長時間停電まで。
サグの定量化(実効値の落ち込み量と継続時間で表す)

  残存電圧 = 擾乱中の実効値 / 定格実効値
    例: 定格200Vで擾乱中140V → 残存70%(= 30%のサグ)

  機器が耐えられるか = ITIC/CBEMA 曲線で判定
    縦軸: 公称電圧に対する % 、横軸: 継続時間(対数)
    曲線の内側(許容域)なら機器は動作継続、
    外側(下方=電圧不足域)なら誤動作・停止のリスク
ITIC/CBEMA曲線──「何ボルトが何ミリ秒なら耐えるか」の地図

IT 機器の電源耐性は ITIC(旧 CBEMA)曲線で規定されます。これは「電圧の逸脱量」と「継続時間」の2次元平面上に、機器が無事に動作を続けられる許容域を描いた包絡線です。短時間(1サイクル未満)なら深いサグやスウェルにも耐えますが、長く続くほど許容できる逸脱は狭まります。電源ユニット(PSU)の入力コンデンサが蓄えたエネルギーで短時間の落ち込みを「乗り切る」物理があるため、許容域は時間が短いほど広い、という形になります。

サグが軽視できないのは、完全停電よりはるかに高頻度なのに、深いサグ1発でサーバーが落ちたり PLC がリセットされたりするためです。対策の主役は後述の UPS です。

波形の歪み ── 高調波とフリッカ

電圧の大きさが正常でも、波形そのものが歪んでいれば擾乱です。歪みは定常的に続くのが特徴で、過渡擾乱とは対策が異なります。

高調波歪み

高調波は、整流器・スイッチング電源・インバータ・LED 照明などの非線形負荷が原因です。これらは電圧に比例した滑らかな電流ではなく、ピーク付近で短時間だけ大電流を引くパルス状の電流を流します。フーリエの定理により、この歪んだ電流は基本波(50/60Hz)の整数倍の周波数成分の重ね合わせに分解できます。これが高調波です。

高調波の定量化(THD: Total Harmonic Distortion)

  歪み波形 = 基本波(1次) + 2次 + 3次 + 4次 + …

  THD = √(Σ 各高調波成分の実効値の二乗) / 基本波の実効値
      = √(I2² + I3² + I5² + …) / I1

  ・THD が大きいほど波形が正弦から崩れている
  ・全波整流+平滑の単相電源は奇数次(3,5,7,…)が卓越
  ・電流THDは数十%に達することも珍しくない

高調波が引き起こす実害は多岐にわたります。第一に変圧器・導体の過熱。高調波電流は表皮効果で実効抵抗を上げ、鉄損も増やすため、同じ実効電流でも発熱が増えます。第二に、特に重要なのが三相4線の中性線過熱です。

第3高調波が中性線で加算重畳する──中性線は太く設計する

平衡三相では基本波の中性線電流は相殺してゼロになります。ところが第3高調波(およびその奇数倍=3,9,15次の零相成分)は、3相とも同相で現れるため相殺されず、中性線へ加算的に重畳します。非線形負荷が多いと中性線電流が相電流を超えることすらあり、細い中性線は過熱・焼損の危険があります。三相4線の中性線はむしろ太く設計するのが現代の定石です。この機構の詳細は /power/three-phase-power/ で扱っています。

高調波は力率も悪化させます(歪み力率)。基本波だけの変位力率に加え、高調波分のエネルギーが有効仕事をしないため総合力率が下がる——この対策が能動的に入力電流を正弦化する PFC で、IEC 61000-3-2 などの高調波規制への準拠手段でもあります。原理は /power/pfc-principles/ を参照してください。

フリッカ

フリッカは電圧実効値が周期的に小刻みに変動する現象で、アーク炉・溶接機・大型モーターの断続負荷が主因です。人間の視覚が照明のちらつきとして敏感に知覚するため(数Hz〜十数Hzが最も目立つ)、Pst/Plt という知覚ベースの指標で評価されます。本質は「電圧変動の連続版」です。

過渡擾乱 ── サージとノイズ

最後が、マイクロ秒〜ミリ秒の極短時間に現れる急峻な擾乱です。

  • インパルス性サージ: 落雷(直撃・誘導雷)や開閉サージで生じる、片極性の鋭いスパイク。数 kV に達し、立ち上がりが極めて速い。半導体を一撃で破壊しうる最も危険な擾乱。
  • オシレータ性サージ(リンギング): コンデンサ投入やケーブルの開閉で生じる、減衰振動を伴う過渡。回路の LC が共振して数百kHz〜MHz で振動する。
  • ノイズ(EMI): 高周波の連続的な擾乱。スイッチング電源自身も発生源で、コモンモード/ノーマルモードに分けて対処する。
サージの試験波形(IEC 61000-4-5 の代表値)

  雷サージ電圧波形: 1.2/50 μs
    1.2μs = 波頭長(ピークまでの立ち上がり)
    50μs  = 波尾長(ピークの半分に減衰するまで)

  雷サージ電流波形: 8/20 μs
    SPD のサージ耐量(kA)はこの 8/20 波形で規定される
サージは「速さ」が破壊力──遅い保護では間に合わない

サージの危険性は電圧の高さ以上に立ち上がりの速さ(dV/dt)にあります。ブレーカやヒューズは過電流の「大きさ」で数ミリ秒〜秒オーダーで切れる保護で、マイクロ秒オーダーのサージにはまったく追いつきません。サージにはサージ専用の、応答がナノ〜マイクロ秒級の素子(SPD)が必須です。保護の時間スケールが擾乱の時間スケールに合っていなければ、その保護は存在しないのと同じです。

対策の体系 ── 層別防御でどの擾乱に何を当てるか

擾乱が3軸に分かれる以上、対策も軸ごとに役割分担した多層防御になります。1つの装置で全擾乱を消すことはできません。

対策主に効く擾乱原理効かない相手
SPD(サージ保護)インパルス/オシレータ性サージバリスタ等で過電圧をクランプし大地へ逃がすサグ・高調波(定常擾乱)
受動フィルタ(LC)高調波・高周波ノイズ特定次数に同調 or 低域通過で阻止サグ・瞬停
能動フィルタ / PFC高調波(広帯域)逆位相電流を注入し打ち消す/電流を正弦化瞬停
UPS(無停電電源)サグ・スウェル・瞬停・停電蓄電エネルギーで電圧の穴を橋渡し微小な高周波サージ単体
AVR/定電圧装置持続的な電圧逸脱タップ切替等で実効値を補正瞬時の過渡

SPD ── 過渡サージをクランプする

SPD(Surge Protective Device)の中核は**金属酸化物バリスタ(MOV)**です。バリスタは平常電圧では高抵抗(ほぼ絶縁)ですが、しきい値電圧(クランプ電圧)を超えると抵抗が急減し、過電圧分のエネルギーを大地へ短絡的に逃がします。

SPDの保護協調(カスケード設置)

  Type 1(受電点): 直撃雷クラスの大エネルギーを粗く受け止める
       ↓ 残った過電圧
  Type 2(分電盤): 中エネルギーをクランプ、機器保護の主力
       ↓ さらに残った過電圧
  Type 3(機器直近): 残留サージを最終的に低い電圧へ抑える

  ・上流ほど大エネルギー・粗いクランプ、下流ほど低いクランプ電圧
  ・段間に配線インダクタンスがあることで切り分けが成立する
  ・MOVは過電圧を浴びるたび劣化するので寿命・状態監視が要る

フィルタと PFC ── 高調波を抑える

高調波は定常的なので、周波数領域で阻止します。受動フィルタLC を特定次数(例えば5次)に同調させてその成分を吸い込みます。**能動フィルタ(アクティブフィルタ)**は負荷の高調波電流を検出し、ちょうど逆位相の電流をリアルタイム注入して相殺する高度な方式で、広帯域に効きます。発生源側で電流を最初から正弦化する PFC は「高調波を出さない」アプローチです。

UPS ── 電圧の穴を蓄電で橋渡しする

サグ・瞬停・停電のような「電圧の大きさ」の擾乱は、フィルタでもSPDでも埋められません。失われたエネルギーを供給できるのは蓄電だけだからです。

オンライン(ダブルコンバージョン)UPSがなぜ最強か

UPS には常時商用・ラインインタラクティブ・常時インバータ(オンライン/ダブルコンバージョン)があります。オンライン方式は入力を一度すべて整流して直流にし、蓄電池を介してインバータで作り直すため、商用側のサグ・スウェル・周波数変動・歪みが出力にまったく伝わりません。さらに商用が途切れても直流側は連続するので、切替時間ゼロで瞬停を吸収します。「電圧の大きさ」と「波形の歪み」を同時に正せる唯一の方式で、データセンターのクリティカル負荷で標準になっています。給電系統全体での位置づけは /power/datacenter-power-architecture/ を参照してください。

試験・実務で問われる勘所

擾乱と対策の対応は頻出です。要点は「過渡=SPD、歪み=フィルタ/PFC、大きさ=UPS」の3対応を取り違えないこと。よくある誤りは「サージ対策にUPSを置けば安心」「高調波はブレーカで切れる」。UPSはサージ単体の専用保護ではなく(前段にSPDが要る)、ブレーカは過電流保護でマイクロ秒のサージや定常高調波には無力です。THDは電流側と電圧側を区別すること、第3高調波の零相重畳で中性線が過熱する機構も定番です。

まとめ

  • 電力品質の擾乱は 「電圧の大きさ」「波形の歪み」「過渡」の3軸で分類でき、発生源・機器影響・対策が軸ごとに異なる。切り分けが対策の起点。
  • サグは最高頻度の擾乱で、ITIC/CBEMA 曲線が「何%の逸脱が何ミリ秒まで許されるか」を規定する。深いサグ1発で機器は落ちる。
  • 高調波は非線形負荷が基本波の整数倍電流を引いて生じ、THD で定量化。特に第3高調波は三相4線の中性線で加算重畳し過熱を招くため、中性線は太く設計する。
  • サージは電圧の高さより立ち上がりの速さが破壊力で、ナノ〜マイクロ秒応答の SPD(バリスタ)でしか間に合わない。ブレーカでは無力。
  • 対策は 層別防御:過渡はSPD、歪みはフィルタ/PFC、大きさはUPS。オンラインUPSは大きさと歪みを同時に正せる。
  • 前提の力率・無効電力は /power/power-factor-reactive-power/、高調波規制とPFCは /power/pfc-principles/、中性線重畳の詳細は /power/three-phase-power/、UPSの系統設計は /power/datacenter-power-architecture/ を参照。

電源 Article

電力品質:サグ・スウェル・高調波・サージとその対策を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

電力品質

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6

導入後に効く点

高調波は非線形負荷が基本波の整数倍電流を引くことで生じ、特に第3高調波は三相4線の中性線で加算重畳して過熱を招く。THD で定量化する。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「電力品質 / 高調波」に近いか確認する。
  • 強みである「電力品質の擾乱は「電圧の大きさ(サグ/スウェル/瞬停)」「波形の歪み(高調波/フリッカ)」「過渡(サージ/ノイズ)」の3軸で分類でき、原因も対策も軸ごとに異なる。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

電力品質高調波サージUPSSPD電力品質高調波サージ
参考: 公式情報