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モータドライブとFOC:三相インバータによるベクトル制御

モータを高効率・高応答で回したい人へ。V/fスカラ制御の限界と、dq変換で磁束電流とトルク電流を切り分けるFOCの原理を、電流ループとSVPWMまで一気通貫で理解できます。

応用FOCベクトル制御モータドライブdq変換SVPWM三相インバータ最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.V/f(VVVF)スカラ制御は電圧と周波数の比を一定に保つだけの開ループ的手法で実装は簡単だが、低速トルクと過渡応答が弱い。FOC(フィールド指向制御)は瞬時電流ベクトルを制御し、直流機のようにトルクを自在に操る。
  • 2.Clarke変換で三相電流を静止2軸(α-β)へ、Park変換でロータ磁束に同期した回転2軸(d-q)へ写す。d軸が磁束電流、q軸がトルク電流に対応し、両者を独立にPI制御できる。
  • 3.電流PIループの出力dq電圧を逆Park変換し、SVPWMで三相インバータのスイッチングに落とす。実機ではデッドタイム補償と、ホールセンサ不要のセンサレス位置推定が高性能化の鍵になる。

なぜスカラ制御では足りないのか

可変速モータドライブの目的は、交流モータのトルクと速度を自在に操ることです。直流機なら界磁電流と電機子電流が機械的に直交しており、電機子電流を加減するだけでトルクが線形に変わりました。ところが交流機(誘導機・永久磁石同期機)では、固定子に流す三相電流が時間とともに回転しており、トルクを生む成分と磁束を作る成分が同じ電流の中に混ざっています。これを解きほぐして直流機のように扱えるようにするのが、本稿の主題である**FOC(フィールド指向制御、ベクトル制御)**です。

その手前にある古典的手法がV/f制御(VVVF、可変電圧可変周波数)、いわゆるスカラ制御です。三相インバータの基礎(SPWMによるDC→AC変換)は /power/inverter-dc-ac-spwm/ で扱った通りですが、そこに「速度を変える」要件が加わると制御の作り込みが必要になります。

V/f スカラ制御 ── 比を保つだけの素朴な速度制御

誘導機の固定子鎖交磁束はおよそ「印加電圧 ÷ 周波数」に比例します。磁束を定格に保ったまま回転速度(= 電源周波数)を変えるには、電圧と周波数を同じ割合で増減させればよい——これがV/f一定制御の核心です。

V/f 一定制御の考え方

  固定子磁束 Φ ≈ V / f (おおよそ)

  ・周波数 f を上げる → 速度が上がる
  ・同時に電圧 V も比例して上げる → 磁束 Φ を一定に保つ
  ・V/f 比を一定にすることで磁気飽和も弱め界磁も避ける

  低速域の補正(電圧ブースト)
    f が小さいと固定子抵抗の電圧降下が無視できず
    Φ が不足する → 低周波で電圧を底上げ(トルクブースト)

V/f制御の長所は単純さです。ロータ位置も電流の瞬時値も知らずに、電圧振幅と周波数の指令を作るだけで回せます。ファン・ポンプのように速度精度や過渡応答を求めない用途では今も主流です。

V/f は『磁束の大きさ』しか管理しない

V/fが制御しているのは磁束の大きさだけで、磁束ベクトルの位相も、トルクを生む電流成分も陽には管理していません。だから定常では回りますが、急な負荷変動や指令変化に対する応答は緩慢で、ゼロ速度付近では固定子抵抗降下の影響でトルクが痩せます。位置と電流の瞬時情報を使わない「開ループ的」な性格が、性能の上限を決めています。

V/fの弱点は、磁束の位相とトルク電流を直接握っていないことに尽きます。低速トルク、停止時の保持トルク、高速な加減速——これらを正確に出すには、電流ベクトルそのものを瞬時に制御する枠組みが要ります。それがFOCです。

FOC の発想 ── 回転座標で交流を直流に変える

FOCの根本アイデアは座標変換です。固定子から見ると三相電流は刻々と回る交流ですが、ロータ磁束と一緒に回る座標系に乗り移れば、その座標から見た電流は定常状態で直流になります。直流になれば、PI制御器で誤差ゼロに追い込めますし、トルク成分と磁束成分を別々のレバーとして扱えます。変換は二段構えです。

FOC の座標変換 二段構え

  三相 (a,b,c) ──Clarke変換──> 静止2軸 (α,β) ──Park変換──> 回転2軸 (d,q)
                 (3相→2相)                    (静止→ロータ同期回転)

  ・Clarke : 120度ずれた3相を直交する静止αβ平面へ写す(次元削減)
  ・Park   : ロータ磁束角 θ で回転させ、磁束に同期したdq軸へ移す
  ・dq軸では d=磁束方向, q=トルク方向 に電流が分離される

Clarke変換 ── 三相を直交2軸へ

三相電流 ia, ib, ic は互いに120度ずれていますが、平衡三相なら ia + ib + ic = 0 なので独立な情報は2つです。Clarke変換はこれを直交する静止2軸(α軸・β軸)に写します。

Clarke変換(振幅不変形の一例)

  iα = ia
  iβ = (ia + 2・ib) / √3      (ic = −ia − ib を利用)

  → 回転する三相電流ベクトルを、静止したαβ平面上の
    2成分(iα, iβ)として表現する

これは座標の張り替えにすぎず、αβ平面上では電流ベクトルがまだ電気角速度で回っています。次のPark変換でこの回転を打ち消します。

Park変換 ── ロータに同期して回転を止める

Park変換は、ロータ磁束の角度 θ ぶんだけ座標を回転させ、磁束と一緒に回るd-q軸へ移します。回転を回転で相殺するので、磁束に同期した電流成分は定常で直流になります。

Park変換(回転角 θ = ロータ磁束角)

  id =  iα・cosθ + iβ・sinθ
  iq = −iα・sinθ + iβ・cosθ

  d軸(直軸, direct)  : ロータ磁束と同じ向き → 磁束(界磁)電流
  q軸(横軸, quadrature): 磁束に直交 → トルク電流

ここが核心です。d軸電流 id が磁束を、q軸電流 iq がトルクを支配するよう座標が選ばれています。永久磁石同期機(PMSM)の発生トルクは、表面磁石型なら近似的に

T ≈ Kt ・ iq          (Kt はトルク定数)

と、iq に比例します。これは直流機の「トルク ∝ 電機子電流」と同じ構図で、交流機を直流機のように扱えるようになったことを意味します。磁束を増減させたいときだけ id を動かし、それ以外は id を0に保つ(id=0制御)のが表面磁石型の基本戦略です。

dq分離が『独立制御』を生む

座標変換のご利益は、磁束電流 id とトルク電流 iq が直交し、互いにほぼ干渉しなくなることです。これにより2本のPIループ(d軸用・q軸用)を別個に設計でき、トルクを変えても磁束が乱れない独立制御が成立します。直流機が界磁と電機子を機械的に直交させていたことを、交流機ではソフトウェアの座標変換で再現しているわけです。

電流ループとSVPWM ── dq電圧を三相スイッチングへ

dq軸に分離できたら、制御は素直になります。トルク指令から iq の目標値、磁束戦略から id の目標値(多くは0)を決め、それぞれをPI制御器で追従させます。

FOC の制御ブロック(一巡)

  トルク指令 ─→ iq* ─┐
  磁束戦略  ─→ id* ─┤
                     ▼
   [Park後の id,iq] → PIループ → vd*, vq*  (d/q軸の電圧指令)
                     ▼
              逆Park変換(θで戻す)→ vα*, vβ*
                     ▼
                   SVPWM → 三相インバータのゲート信号
                     ▼
   モータ電流を計測 → Clarke/Park → id,iq へ戻る(閉ループ)

PIループの出力は dq軸の電圧指令 vd, vq です。これを逆Park変換で静止αβ電圧に戻し、最終的に三相インバータの6個のスイッチをどう叩くかへ翻訳します。その翻訳を担うのが**SVPWM(空間ベクトルPWM、Space Vector PWM)**です。

SVPWMは三相2レベルインバータが出せる8通りのスイッチ状態(6つの有効ベクトルと2つの零ベクトル)を空間ベクトルとして捉え、目標電圧ベクトルを隣り合う2つの有効ベクトルと零ベクトルの時間配分で合成します。

SVPWM の要点

  三相2レベルインバータのスイッチ状態 = 8通り
    有効ベクトル V1〜V6(六角形の頂点)+ 零ベクトル V0,V7

  目標電圧ベクトル Vref を、それを挟む2つの有効ベクトルと
  零ベクトルの「オン時間の比」で合成する

  利点 : 正弦波PWM比で線間電圧を約15%多く取り出せる
        (直流母線利用率の向上。三次高調波重畳と等価の効果)

正弦波比較のSPWMに対し、SVPWMは同じ直流母線電圧から線間電圧を約15%多く引き出せます。これは /power/inverter-dc-ac-spwm/ で触れた三次高調波重畳と等価の効果で、零ベクトルを2種類に均等配分することで自然に生じます。三相の線間と相の関係は /power/three-phase-power/ を参照してください。電流PIループ自体の整定や帯域設計は、フィードバック制御の基礎 /power/pwm-feedback-control/ と地続きです。

電流ループの帯域はサンプリングとデッドタイムに縛られる

FOCの応答性は電流ループの帯域で決まり、それはPWMキャリア周波数とサンプリング周期、そしてインバータのデッドタイムに上限を縛られます。電流はPWM周期に同期してサンプルするのが定石で、零ベクトル中央の電流リプル平均点で読むと量子化ノイズを避けられます。帯域を欲張ってサンプリング遅延より速くしようとすると、ループが発振します。

デッドタイム補償 ── 歪みを生む必要悪を打ち消す

三相インバータの各脚は、上下スイッチの同時オン(貫通電流)を防ぐためデッドタイムを挿入します。安全のための必須機構ですが、その間は出力電圧が電流の向き任せの不定区間になり、低速・軽負荷で電流波形を歪ませます。

デッドタイムによる電圧誤差

  デッドタイム td の間、上下とも一旦オフ
   → 出力電圧は還流ダイオード(電流の向き)で決まる
   → 指令電圧と実電圧の間に「電流極性に依存した誤差」が乗る

  誤差電圧 ≈ (td ・ fsw) × Vdc      (極性は電流方向で反転)
    fsw : スイッチング周波数, Vdc : 母線電圧

この誤差は電流が小さい(極性判定が曖昧な)ほど、またキャリア周波数が高いほど無視できなくなり、トルクリプルや低速の回転ムラとして現れます。

デッドタイム補償の基本

  電流の極性を検出し、その向きに応じた一定の補正電圧を
  電圧指令 vd*, vq*(または相電圧指令)に足し戻す

  ・電流 > 0 の相 : 失われた分だけ指令を持ち上げる
  ・電流 < 0 の相 : 逆向きに補正する
  ・ゼロ電流近傍は極性判定が難しく、補償の難所

実装としては、電流極性に応じて一定量の電圧を電圧指令へ加算するフィードフォワード補償が基本です。ゼロ電流クロス付近は極性が暴れて補償が効きにくく、ここをいかに滑らかに扱うかが低速性能を分けます。

位置センサレス推定 ── エンコーダを捨てる

Park変換にはロータ磁束角 θ が不可欠で、素直にはエンコーダやレゾルバ、ホールセンサで測ります。しかしセンサはコスト・配線・故障点を増やすため、電流と電圧から θ を推定するセンサレス制御が広く使われます。手法は速度域で二系統に分かれます。

観点中高速:誘起電圧(EMF)ベースゼロ〜低速:高周波注入ベース
原理回転で生じる誘起電圧から磁束位相を逆算高周波信号を注入し突極性(インダクタンス差)を検出
必要な信号十分な回転速度(EMFが計測可能な大きさ)ロータのd-q軸インダクタンス差(突極性)
代表手法拡張誘起電圧オブザーバ、磁束推定、PLL回転/交番高周波注入、INFORM法
弱点停止・極低速ではEMFが小さく推定不能突極性の小さい表面磁石機では使いにくい
用途ファン・ポンプ・走行中のEV駆動始動トルクが要る昇降機・トラクション始動

中高速域では、回転によって生じる**誘起電圧(逆起電力、EMF)**から磁束の位相を割り出します。誘起電圧は速度に比例して大きくなるため、ある程度回っていれば電流・電圧の計測値からオブザーバ(拡張EMFモデルや磁束推定)で θ を再構成し、PLLで角度と速度を同時に追従させます。

EMFベース推定の骨子(中高速)

  電圧方程式 : v = R・i + L・(di/dt) + e(誘起電圧 e は θ を含む)
  → 計測した v, i から e を逆算し、e の位相 = ロータ位相を得る
  → PLLで θ と速度 ω を滑らかに追従

  停止付近では e ≈ 0 となり破綻する(低速の壁)

問題は停止・極低速です。誘起電圧がほぼ0になりEMF法が破綻するため、ここでは高周波注入を使います。ロータのd軸とq軸でインダクタンスが異なる突極性を利用し、高周波の電圧信号を注入してその応答電流からインダクタンスの非対称、すなわちロータ位置を推定します。突極性のある埋込磁石型(IPMSM)はこれが効き、突極性の小さい表面磁石型は苦手です。

センサレスの『速度域の壁』を押さえる

資格・実務の要点は「単一の手法で全速度域はカバーできない」ことです。EMFベースは中高速で高精度だが停止付近で破綻し、高周波注入は停止・低速で機能するが突極性に依存し中高速では損失と騒音が増えます。実機は両者を速度に応じてブレンド/切り替えるハイブリッド構成が定石です。始動トルクが要るEV・昇降機では低速側の高周波注入が、走行中の効率では中高速側のEMF法が主役になります。

まとめ

  • **V/fスカラ制御(VVVF)**は電圧と周波数の比を一定に保つだけの素朴な手法で、実装は簡単だが磁束の位相とトルク電流を握らないため、低速トルクと過渡応答に弱い。
  • **FOC(ベクトル制御)**はClarke変換で三相を静止αβ軸へ、Park変換でロータ磁束に同期したdq軸へ写し、交流電流を定常では直流として扱う。
  • dq軸では d軸=磁束電流、q軸=トルク電流に分離され、表面磁石型では T ≈ Kt・iq とトルクが iq に比例する。2本のPIループで磁束とトルクを独立制御できる。
  • PIループ出力のdq電圧を逆Park変換し、SVPWMで三相インバータのスイッチングに落とす。SVPWMはSPWM比で線間電圧を約15%多く取り出せる。
  • デッドタイム補償は、貫通電流防止のための不定区間が生む電流極性依存の電圧誤差を、フィードフォワードで打ち消し低速の歪みを抑える。
  • 位置センサレス推定は、中高速で誘起電圧(EMF)ベース、停止〜低速で高周波注入ベースを使い分けるのが定石。両者をブレンドして全速度域をカバーする。
  • 関連:三相インバータとSPWMの基礎は /power/inverter-dc-ac-spwm/、PI/フィードバック制御は /power/pwm-feedback-control/、三相の線間関係は /power/three-phase-power/、力率と無効電力は /power/power-factor-reactive-power/

電源 Article

モータドライブとFOC:三相インバータによるベクトル制御を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

FOC

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6

導入後に効く点

Clarke変換で三相電流を静止2軸(α-β)へ、Park変換でロータ磁束に同期した回転2軸(d-q)へ写す。d軸が磁束電流、q軸がトルク電流に対応し、両者を独立にPI制御できる。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「FOC / ベクトル制御」に近いか確認する。
  • 強みである「V/f(VVVF)スカラ制御は電圧と周波数の比を一定に保つだけの開ループ的手法で実装は簡単だが、低速トルクと過渡応答が弱い。FOC(フィールド指向制御)は瞬時電流ベクトルを制御し、直流機のようにトルクを自在に操る。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

FOCベクトル制御モータドライブdq変換SVPWMFOCベクトル制御モータドライブ