変調方式(AM・FM・QAM)
電波に情報を載せる仕組みを原理から整理。なぜ変調が必要か、AM/FMの帯域幅の決まり方、QAMがどう振幅と位相で多ビットを詰め込むかを、コンステレーションまで一気に腑に落とします。
- 1.変調とは搬送波(キャリア)の振幅・周波数・位相のいずれかを信号で変化させる操作。アンテナ長・帯域割当・多重化の3つの現実的制約が「なぜ変調するのか」の答え。
- 2.AM(DSB)の帯域幅は原信号帯域 W の2倍、FM の帯域幅は Carson の規則 B ≈ 2(Δf + fm) で近似する。FM は帯域を広く使う代わりに雑音とフェージングに強い。
- 3.デジタル変調は I/Q 平面上の点配置(コンステレーション)で表す。QAM は振幅と位相を同時に使い、M-QAM は 1 シンボルに log2(M) ビットを載せる(16-QAM=4bit、256-QAM=8bit)。
なぜ変調するのか
変調(modulation)とは、伝えたい情報(ベースバンド信号)に合わせて、高い周波数の**搬送波(キャリア)**の性質を変化させる操作です。音声や画像のような低い周波数の信号を、そのまま電波として飛ばすのではなく、なぜわざわざ高周波の波に「載せ替える」のか。理由は次の3つに集約されます。
- アンテナ長:効率よく放射するにはアンテナ長が波長の 1/4 〜 1/2 程度必要です。音声(数 kHz)の波長は数十 km に及び、現実的なアンテナで飛ばせません。搬送波を MHz〜GHz に上げれば、波長が cm〜m 級になり実装可能な寸法に収まります。
- 帯域割当(多重化):複数の局が同じ空間を共有するには、各局を異なる周波数帯に割り当てる必要があります。変調はベースバンド信号を任意の搬送波周波数へ平行移動させ、周波数軸上で場所を分けて共存させます(周波数分割多重)。
- 雑音・伝送特性への適合:伝送路の雑音が少ない帯域や、フェージングに強い方式を選べます。方式次第で雑音耐性と帯域効率のトレードオフを設計できます。
正弦波の搬送波は c(t) = A · cos(2π·fc·t + φ) と書けます。ここで変化させられるパラメータは振幅 A・周波数 fc・位相 φ の3つだけです。したがってアナログ変調は原理的に AM(振幅変調)・FM(周波数変調)・PM(位相変調)の3系統に尽き、デジタル変調(ASK/FSK/PSK/QAM)もこの3自由度の組み合わせに還元されます。
AM:振幅変調
AM は搬送波の振幅を、原信号 m(t) の大きさに比例して変化させます。標準的な両側波帯(DSB-LC, 通常の放送 AM)の式は次の通りです。
s(t) = Ac · [ 1 + ka·m(t) ] · cos(2π·fc·t)
変調度 μ = ka · max|m(t)| (0 〜 1 の範囲に収める)
変調度 μ が 1 を超えると(過変調)、包絡線が反転して波形が潰れ、単純な包絡線検波では原信号を復元できず歪みます。周波数領域で見ると、AM は搬送波成分と、その左右に上側波帯・下側波帯を生みます。原信号の最高周波数を W とすると、占有帯域幅は次式です。
B(AM-DSB) = 2W (搬送波の上下に W ずつ側波帯が出る)
上下の側波帯は同じ情報を持つため、片方と搬送波を削れば SSB(単側波帯)となり、帯域は W、送信電力も節約できます(そのぶん復調は複雑)。
DSB-LC では送信電力の大半が、情報を持たない搬送波成分に消費されます。μ=1 の理想でも側波帯(=情報)が占める割合は全電力の 1/3 に過ぎません。包絡線検波で受信機を安価にできる代償として電力効率が悪い、という設計上のトレードオフです。
FM/PM:角度変調
FM(周波数変調)と PM(位相変調)は、いずれも搬送波の瞬時位相を信号で変化させるため、まとめて角度変調と呼ばれます。FM は瞬時周波数を m(t) に比例させます。
瞬時周波数 fi(t) = fc + kf · m(t)
周波数偏移 Δf = kf · max|m(t)| (中心からのずれの最大値)
変調指数 β = Δf / fm (fm は原信号の最高周波数)
AM と違い、振幅は一定に保たれます。この性質が FM の最大の利点で、振幅に乗る雑音やフェージングの影響を受信側でリミッタ(振幅制限)により切り落とせるため、AM より S/N に優れます。代償として帯域幅を広く使います。FM の帯域幅は理論上は無限の側波帯を持ちますが、実用上は Carson の規則で近似します。
B(FM) ≈ 2 · (Δf + fm) = 2 · (β + 1) · fm (Carson の規則)
β が小さい(Δf が fm 未満、狭帯域 FM)と B ≈ 2·fm となり AM と同程度、β が大きい(広帯域 FM、FM 放送など)と帯域は偏移に支配され広くなります。「帯域を犠牲にして雑音耐性を買う」のが角度変調の本質です。
| 方式 | 変化させる量 | 帯域幅の目安 | 雑音耐性 | 復調 |
|---|---|---|---|---|
| AM (DSB) | 振幅 | 2W | 低い(振幅雑音に弱い) | 包絡線検波で簡単 |
| SSB | 振幅(片側波帯) | W | 低い | 同期検波が必要 |
| FM | 周波数(瞬時) | 2(Δf+fm)(Carson) | 高い(振幅制限で除去) | 周波数弁別器 |
| PM | 位相 | FM と同様 | 高い | 位相同期が必要 |
デジタル変調と I/Q 表現
デジタル変調では、ビット列を有限個のシンボル(搬送波の離散的な状態)に対応させて送ります。任意の変調波は、同相成分 I と直交成分 Q の2つに分解できます。
s(t) = I · cos(2π·fc·t) − Q · sin(2π·fc·t)
cos と sin は直交(互いに干渉しない)なので、1本の搬送波で I と Q の2次元を独立に運べます。各シンボルを (I, Q) の点として2次元平面に打ったものが**コンステレーション(信号点配置)**です。この平面上の点の置き方が、そのまま変調方式の定義になります。
- ASK(振幅偏移):I 軸上の振幅だけを切り替える。2値なら原点近くと遠くの2点。
- PSK(位相偏移):一定振幅で位相だけを変える。点は原点を中心とする円周上に等間隔で並ぶ。BPSK は2点、QPSK は4点。
- QAM(直交振幅変調):I と Q の振幅を独立に多値化する。点は平面上に格子状に並ぶ。振幅と位相の両方を使うのが PSK との決定的な違い。
QPSK(4値 PSK)は I と Q をそれぞれ ±1 の2値にした格子で、幾何的には 4-QAM と同一の正方形配置になります。「振幅一定の円周配置」と「格子配置」が一致する特別な場合です。8点以上では PSK(円周)と QAM(格子)は別物になり、以降は QAM が優勢になります。
M 値と帯域効率:QAM が多ビットを詰め込む仕組み
1 シンボルが取りうる状態数を M とすると、1 シンボルで運べるビット数は次式です。
1 シンボルあたりのビット数 = log2(M)
M を増やすほど 1 シンボルの情報量が増え、同じシンボルレートでもビットレートが上がります。QAM は I・Q それぞれを独立に多値化できるため、状態数を効率よく増やせます。
| 方式 | M(信号点数) | ビット/シンボル | 点の配置 |
|---|---|---|---|
| BPSK | 2 | 1 | I 軸上の2点 |
| QPSK / 4-QAM | 4 | 2 | 2×2 の正方格子(円周4点) |
| 16-QAM | 16 | 4 | 4×4 の正方格子 |
| 64-QAM | 64 | 6 | 8×8 の正方格子 |
| 256-QAM | 256 | 8 | 16×16 の正方格子 |
シンボルレート(1 秒あたりのシンボル数)を Rs とすると、搬送波に I/Q を載せた帯域通過信号の占有帯域幅は理論下限(Nyquist)で Rs(ベースバンド換算では片側 Rs/2)、実際にはロールオフ率 α のルートレイズドコサインフィルタで整形し、次式になります。
占有帯域幅 B ≈ (1 + α) · Rs (0 ≤ α ≤ 1、実用では α = 0.2 前後)
ビットレート Rb = Rs · log2(M)
帯域効率 = Rb / B ≈ log2(M) / (1 + α) [bit/s/Hz]
ここが QAM の核心です。帯域幅を増やさずに M を上げれば、単位帯域あたりのビットレート(帯域効率)が log2(M) に比例して向上します。256-QAM は 16-QAM の2倍のビットを同じ帯域で運べます。
M を上げると信号点が密になり、隣接点の間隔(最小ユークリッド距離)が縮みます。距離が縮むほど、同じ雑音でも別の点へ誤りやすくなり、要求 SNR が急激に上がります。したがって 256-QAM のような高次変調は、SNR の高い良好な回線でしか成立しません。現代の無線(Wi-Fi・LTE/5G・デジタル放送)が適応変調で回線品質に応じて QPSK ⇄ 64-QAM ⇄ 256-QAM を動的に切り替えるのは、この距離と SNR のトレードオフを最大限使うためです。
系統の整理:3自由度から各方式へ
変調方式は搬送波の3自由度(振幅・周波数・位相)を起点に、アナログ/デジタルへ枝分かれします。文章で系統を追うと次の通りです。
搬送波 A·cos(2π·fc·t + φ) の可変パラメータ
├─ 振幅 A を変える
│ ├─ アナログ … AM(DSB / SSB / VSB)
│ └─ デジタル … ASK
├─ 周波数 fc を変える
│ ├─ アナログ … FM
│ └─ デジタル … FSK
├─ 位相 φ を変える
│ ├─ アナログ … PM
│ └─ デジタル … PSK(BPSK / QPSK / 8PSK …)
└─ 振幅 A と位相 φ を同時に変える(I/Q 両軸を多値化)
└─ デジタル … QAM(16 / 64 / 256-QAM …)
歴史的には、初期の放送は復調が簡単な AM(1920年代〜)、次いで雑音に強い FM(1930年代のアームストロングの発明、放送は1940年代〜)が普及しました。デジタル化以降は、限られた帯域に高速データを詰め込む要求から PSK・QAM が主役となり、Wi-Fi・LTE/5G・地上デジタル放送・ケーブルモデムなどが高次 QAM を採用しています。
- なぜ変調するか:アンテナ長・帯域割当(多重化)・雑音耐性の3点を挙げられること。
- 帯域幅:AM-DSB は 2W、FM は Carson の規則
2(Δf+fm)を即答。SSB は W。 - FM の利点:振幅一定ゆえリミッタで振幅雑音を除去でき、AM より S/N が良い。代償は広帯域。
- QAM のビット数:
log2(M)。16-QAM=4bit、64-QAM=6bit、256-QAM=8bit を暗記。 - 多値化のトレードオフ:M を上げると信号点間距離が縮み、要求 SNR が上がる。適応変調で対処。
- QPSK=4-QAM:4点では PSK の円周配置と QAM の格子配置が一致する。
まとめ
変調は搬送波の振幅・周波数・位相という3つの自由度を操作して情報を載せる技術で、その動機はアンテナ長・帯域割当・雑音耐性という現実的制約にあります。アナログでは、電力効率は劣るが復調が簡単な AM(帯域 2W)と、帯域を広く使う代わりに雑音に強い FM(Carson の規則 2(Δf+fm))が対照的です。デジタルでは信号を I/Q 平面上のコンステレーションで表し、QAM は振幅と位相を同時に多値化して 1 シンボルに log2(M) ビットを詰め込みます。ただし高次化は信号点間距離を縮めて要求 SNR を押し上げるため、実運用では適応変調で回線品質に応じた最適点を選ぶ——これが「変調方式」を貫く一本の設計思想です。信号処理の土台としては プログラミング の数値表現、無線を支えるハードウェア側は ハードウェアコンポーネント も合わせて参照してください。
信号処理・制御 Article
変調方式(AM・FM・QAM)を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
変調
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 信号処理・制御 / タグ数: 6
導入後に効く点
AM(DSB)の帯域幅は原信号帯域 W の2倍、FM の帯域幅は Carson の規則 B ≈ 2(Δf + fm) で近似する。FM は帯域を広く使う代わりに雑音とフェージングに強い。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 信号処理・制御
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「変調 / AM/FM」に近いか確認する。
- 強みである「変調とは搬送波(キャリア)の振幅・周波数・位相のいずれかを信号で変化させる操作。アンテナ長・帯域割当・多重化の3つの現実的制約が「なぜ変調するのか」の答え。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。