根軌跡法
フィードバックゲインを動かすと閉ループ極がどこへ動くかを、方程式を解かずに作図で読めます。安定限界・応答速度・振動をゲイン一つで見通せる設計眼が身につきます。
- 1.根軌跡は、開ループ伝達関数 K·G(s)H(s) のゲイン K を 0 から ∞ へ動かしたときの閉ループ極(1+K·G(s)H(s)=0 の根)が s 平面に描く軌跡。K=0 で開ループ極から出発し、K→∞ で開ループ零点(または無限遠)へ到達する。
- 2.軌跡は角度条件 ∠G(s)H(s) = ±180° を満たす点の集合で、実軸上では右側の極零点の総数が奇数の区間に存在する。無限遠へ逃げる枝は漸近線で近似でき、極と零点の分岐点で実軸を離れ複素平面へ入る。
- 3.軌跡が虚軸を横切るゲインが安定限界(ラウス・フルビッツで算出)。ボード線図が周波数ごとの余裕を測るのに対し、根軌跡はゲイン変化に対する極の移動と過渡応答(減衰比・時定数)を直接可視化し、両者は相補的に使う。
ゲインを回すと極はどこへ動くか
フィードバック制御では、ループゲイン K を上げると応答は速くなりますが、上げすぎると振動し、やがて発振します。この「速さと安定性のトレードオフ」の正体は、ゲイン変化に伴う閉ループ極の移動です。極が左半面の深くにあれば速く減衰し、虚軸に近づけば振動が増え、右半面に入れば発散する——伝達関数とラプラス変換 で見た通りです。
問題は、ゲインを変えるたびに閉ループの特性方程式を解き直すのが煩雑なことです。根軌跡法(root locus)は、この特性方程式を陽に解かずに、K を 0 から ∞ まで連続的に変えたとき閉ループ極が s 平面上に描く軌跡を、幾何学的な規則だけで作図する手法です。1948年にエヴァンス(W. R. Evans)が体系化しました。
特性方程式と2つの条件
負帰還系の開ループ伝達関数を K·G(s)H(s) とすると、閉ループ極は分母がゼロになる点、すなわち特性方程式 1 + K·G(s)H(s) = 0 の根です。これを書き換えると軌跡の定義が見えます。
特性方程式:
1 + K·G(s)H(s) = 0
→ K·G(s)H(s) = -1
G(s)H(s) は複素数なので、-1 という複素数に等しいことは
大きさと角度の両方が一致することを意味する:
角度条件: ∠G(s)H(s) = ±180°(2m+1) (m = 0, 1, 2, …)
大きさ条件: |K·G(s)H(s)| = 1 → K = 1 / |G(s)H(s)|
ここが根軌跡の核心です。軌跡上にあるかどうかは角度条件だけで決まり、ゲイン K は登場しません。ある点 s が角度条件を満たせば、その点はどれかの K に対する閉ループ極であり、必要な K は後から大きさ条件で計算できます。つまり「まず軌跡(形)を角度条件で描き、次に各点のゲインを大きさ条件で割り当てる」という二段構えになります。
K は正の実数なので、K を掛けても G(s)H(s) の角度(偏角)は変わらず、大きさだけがスケールされます。したがって「-1(角度 ±180°、大きさ 1)に等しくせよ」という条件のうち、角度の部分は K に依存せず点 s の位置だけで決まります。角度条件を満たす点の集合が軌跡そのものであり、K はその上を極が動く速度を与えるパラメータにすぎません。ここが根軌跡が「解かずに描ける」理由です。
出発点と到達点
軌跡の両端は、開ループ伝達関数 G(s)H(s) = N(s)/D(s) の極と零点で決まります。N(s)=0 の根が開ループ零点(m 個)、D(s)=0 の根が開ループ極(n 個)です。
特性方程式を分子分母で書くと:
D(s) + K·N(s) = 0
K → 0 のとき D(s) = 0 → 根は開ループ極(出発点)
K → ∞ のとき N(s) = 0 → 根は開ループ零点(到達点)
K が小さいと分母 D(s) の寄与が支配的で、閉ループ極は開ループ極から出発します。K を大きくすると N(s) が支配的になり、閉ループ極は開ループ零点へ到達します。極の数 n が零点の数 m より多いのが普通で、その差 n - m 本の枝は行き先の有限零点がないため無限遠へ逃げます(無限遠の零点へ向かう、と解釈します)。
| ゲイン K | 支配する多項式 | 閉ループ極の位置 | 枝の本数 |
|---|---|---|---|
| K = 0 | D(s)(開ループ分母) | 開ループ極から出発 | n 本すべて |
| K → ∞(有限零点あり) | N(s)(開ループ分子) | 開ループ零点へ到達 | m 本 |
| K → ∞(零点不足分) | — | 無限遠へ発散 | n - m 本 |
実軸上の軌跡と対称性
軌跡は複雑に見えて、いくつかの単純な規則で骨格が描けます。まず係数が実数なので複素極は共役ペアで現れ、軌跡は実軸に関して上下対称です。実軸上のどこに軌跡が乗るかも、角度条件から即座に決まります。
実軸上の判定規則:
実軸上のある点 s を選ぶ。
その点より「右側」にある実軸上の極と零点の総数を数える。
総数が奇数 → その区間は軌跡に含まれる
総数が偶数 → 含まれない
これは、実軸上の点から見て右側にある実軸上の極・零点は角度 180° を、左側にあるものは 0° を寄与し、複素共役ペアの寄与は打ち消し合うため、右側の個数が奇数のときだけ合計が ±180° になることから導けます。この規則だけで、実軸上のどの区間に軌跡があるかを暗算で描けます。
漸近線 ── 無限遠への枝
有限零点へ行けず無限遠へ逃げる n - m 本の枝は、遠方では直線(漸近線)に漸近します。漸近線は、実軸と交わる中心点と、実軸となす角度の2つで決まります。
漸近線の角度(n - m 本):
θ = ±180°(2k+1) / (n - m) (k = 0, 1, …, n-m-1)
漸近線の中心(実軸上の1点、重心に相当):
σ_a = ( Σ 極 - Σ 零点 ) / (n - m)
= (開ループ極の総和 - 開ループ零点の総和) / (n - m)
角度の式から、たとえば n - m = 1 なら 180°(実軸負方向へ1本)、n - m = 2 なら ±90°(虚軸と平行に上下へ)、n - m = 3 なら ±60° と 180°、というように枝の広がり方が瞬時に分かります。中心 σ_a は全漸近線が交わる実軸上の点で、極と零点を質点に見立てた重心のように振る舞います。
無限遠へ向かう枝の角度は n - m が大きいほど虚軸側へ寝ます。n - m ≥ 2 だと漸近角が 90° 以下の枝を持ち、ゲインを上げると枝が右半面へ入り込みやすくなります。つまり極が零点より2つ以上多い系は、高ゲインで不安定化しやすいという構造的な傾向が漸近線から読み取れます。零点を1つ加える(進み補償で分子に零点を置く)と n - m が減り、漸近線が左へ寝て安定余裕が改善する——これが位相進み補償の幾何学的な意味です。
分岐点 ── 実軸を離れて複素平面へ
実軸上を近づいてきた2本の枝が出会うと、そこで実軸を離れて複素平面へ分岐します(逆に複素側から実軸へ合流する点もあります)。この点を分岐点(break-away / break-in point)と呼びます。分岐点では特性方程式が重根を持つため、K を s について微分してゼロと置くことで求まります。
分岐点の条件:
特性方程式 1 + K·G(s)H(s) = 0 を K について解き
K = -1 / (G(s)H(s)) = -D(s)/N(s)
実軸上で K が極大(重根)になる点を探す:
dK/ds = 0
→ この方程式の実根のうち、実軸上の軌跡区間にあるものが分岐点
分岐点で2本の枝が実軸から垂直に立ち上がる(角度 90° で分かれる)のが典型で、ここから先は複素共役ペアの極となり、系は振動的な応答に変わります。分岐点のゲインは、実軸上の非振動応答と複素極による振動応答を分ける境目を与えるため、設計上の重要な指標になります。
安定限界と虚軸交差
軌跡が虚軸 s = jω を横切る点は、閉ループ極が右半面へ入る瞬間、すなわち安定限界です。この交差点の周波数 ω と限界ゲイン K は、フィードバックと安定性(ナイキスト) と同じくラウス・フルビッツ判別法で厳密に求められます。
虚軸交差(安定限界)の求め方:
特性方程式 D(s) + K·N(s) = 0 にラウス表を作る。
ラウス表のある行が全て 0 になる K が限界ゲイン K_c。
その直前の行から補助方程式を立て s = jω を解くと交差周波数 ω が出る。
K < K_c → 全極が左半面(安定)
K = K_c → 一対の極が虚軸上(限界安定・持続振動)
K > K_c → 極が右半面へ(不安定・発散)
つまり根軌跡は「どのゲインで、どの周波数で発振するか」を図と数値の両面で与えます。虚軸交差の ω は、まさにその発振の角周波数です。設計では、この K_c に対して十分な余裕(たとえば K_c の半分程度)を取って運用ゲインを選びます。
応答の設計 ── 減衰比と時定数を狙う
根軌跡の実用的な価値は、望みの過渡応答を満たす極の位置を狙い、それを実現するゲインを逆算できることにあります。s 平面上では、極の位置が応答の質と直結しています。
2次系の代表極 s = -ζωn ± jωn√(1-ζ²) と応答の対応:
原点からの距離 = ωn (固有角周波数 → 応答の速さ)
実軸となす角 β (cos β = ζ → 減衰比・オーバーシュート)
実部 -ζωn (減衰の速さ → 整定時間 ≈ 4/(ζωn))
虚部 ωn√(1-ζ²) (減衰振動の周波数)
たとえば「減衰比 ζ = 0.7 を確保したい」なら、原点から角度 β = arccos(0.7) ≈ 45° の放射直線を s 平面に引き、それが根軌跡と交わる点が目標の閉ループ極です。その交点で大きさ条件 K = 1/|G(s)H(s)| を評価すれば、必要なゲインが一意に決まります。この「定減衰比線と軌跡の交点を読む」操作が、根軌跡による設計の中心的な手続きです。
根軌跡はゲイン K だけを動かすので、描ける軌跡は開ループの極・零点の配置で完全に決まってしまいます。望む閉ループ極の位置に軌跡がそもそも通っていなければ、K をどう選んでも到達できません。その場合は補償器(進み・遅れ補償)で開ループに極・零点を追加し、軌跡の形自体を目標点へ通るよう作り替える必要があります。ゲインだけで足りるのか、補償器で軌跡を整形すべきかの判断が設計の分かれ目です。全状態を測れる場合の 状態空間表現と現代制御 の極配置なら、可制御なら極を任意位置へ置けるという違いも押さえておきましょう。
ボード線図との相補性
根軌跡とボード線図・ナイキスト線図は、同じ系を別の座標で見た相補的な道具です。どちらか一方だけでは設計判断が偏るため、両方を併用します。
| 観点 | 根軌跡法 | ボード線図 / ナイキスト |
|---|---|---|
| 横軸・領域 | s 平面(複素平面・極の位置) | 周波数 ω(対数軸) |
| 直接読める量 | 閉ループ極、減衰比、時定数 | ゲイン余裕・位相余裕、帯域 |
| ゲイン変化 | 極の移動として軌跡で追える | 曲線の上下シフトで追える |
| 過渡応答の見通し | 得意(極位置から直接) | 間接(余裕から推定) |
| むだ時間・実測データ | 扱いにくい(有理関数前提) | 得意(測定した H(jω) をそのまま) |
根軌跡は閉ループ極の位置から過渡応答(オーバーシュート・整定時間)を直接見通せるのが強みで、PID制御の原理 のゲイン調整が極をどう動かすかを可視化するのに向きます。一方ボード線図は、むだ時間を含む系や、伝達関数が未知でも実測した周波数応答 H(jω) をそのまま扱えるのが強みです。s 平面で応答形状を詰め、周波数領域で安定余裕を確認する——この往復が実務の定石です。
- 定義: 根軌跡は
1 + K·G(s)H(s) = 0の根がK: 0→∞で描く軌跡。角度条件∠GH = ±180°で形が、大きさ条件K = 1/|GH|でゲインが決まる。 - 出発と到達:
K=0で開ループ極から出発、K→∞で開ループ零点へ到達。行き先のないn-m本は無限遠へ。 - 実軸規則: 実軸上の点より右の極零点の総数が奇数の区間に軌跡がある。全体は実軸対称。
- 漸近線: 角度
±180°(2k+1)/(n-m)、中心σ_a = (Σ極 - Σ零点)/(n-m)。 - 分岐点:
dK/ds = 0の実根。ここで実軸を離れ複素極(振動応答)へ。 - 安定限界: 虚軸交差のゲインをラウス・フルビッツで算出。交差周波数が発振周波数。
- 相補性: 根軌跡=極位置と過渡応答、ボード=周波数余裕とむだ時間。両方使う。
まとめ
根軌跡法は、フィードバックゲイン K を 0 から ∞ へ変えたときの閉ループ極 1 + K·G(s)H(s) = 0 の根が s 平面に描く軌跡を、特性方程式を解かずに作図する手法です。要点は、(1) 軌跡の形は角度条件 ∠G(s)H(s) = ±180° だけで決まり、ゲインは大きさ条件で後から割り当てること、(2) K=0 で開ループ極から出発し K→∞ で開ループ零点(または無限遠)へ到達すること、(3) 実軸規則・漸近線・分岐点で骨格を暗算で描けること、(4) 虚軸交差のゲインが安定限界でラウス・フルビッツで厳密に求まること、(5) 定減衰比線と軌跡の交点から望みの過渡応答を満たす極とゲインを逆算できること。極の位置から過渡応答を直接見通せる根軌跡と、周波数余裕やむだ時間を扱えるボード線図を相補的に使うことが、PID制御の原理 を含む古典制御の設計を支える背骨になります。
信号処理・制御 Article
根軌跡法を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
制御工学
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 信号処理・制御 / タグ数: 6
導入後に効く点
軌跡は角度条件 ∠G(s)H(s) = ±180° を満たす点の集合で、実軸上では右側の極零点の総数が奇数の区間に存在する。無限遠へ逃げる枝は漸近線で近似でき、極と零点の分岐点で実軸を離れ複素平面へ入る。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 信号処理・制御
- タグ数
- 6
判断チェックリスト
- 自社の用途が「制御工学 / 根軌跡法」に近いか確認する。
- 強みである「根軌跡は、開ループ伝達関数 K·G(s)H(s) のゲイン K を 0 から ∞ へ動かしたときの閉ループ極(1+K·G(s)H(s)=0 の根)が s 平面に描く軌跡。K=0 で開ループ極から出発し、K→∞ で開ループ零点(または無限遠)へ到達する。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。