TL

接地方式の系統:TN・TT・IT接地の比較

TN・TT・ITのどれを選ぶかで保護方式も連続運転性も変わります。地絡電流の還り道と保護動作・タッチ電圧・EMCの違いを原理から押さえ、データセンターや医療・工場の系統設計を自分で判断できるようになります。

応用接地TN-TT-IT系統接地RCD電気安全EMC最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.系統接地はIEC 60364で1文字目が電源中性点の対地、2文字目が機器筐体の対地を表し、地絡電流の還り道と頼る保護装置(過電流かRCDか)が決まる。
  • 2.TNは金属PE経由の低インピーダンス還路で過電流遮断器が速断、TTは大地経由の高インピーダンスでRCD必須、ITは初回地絡で閉路せず絶縁監視で警報し連続運転を優先する。
  • 3.PEとNを分離するTN-Sは漏れ電流を中性線に乗せずEMCに有利、ITはタッチ電圧を初回地絡で抑え無停止に強い。DCはTN-S、医療・工場の重要負荷はITが定石。

系統接地は「地絡電流の還り道」を規格で型分けしたもの

系統接地(earthing system)とは、配電系統の 電源側中性点の対地機器側露出導電部(筐体)の対地 をどう結ぶかの組み合わせの分類です。IEC 60364 は2文字のコードで表し、1文字目が電源中性点、2文字目が機器筐体を意味します。

IEC 60364 の系統接地コード:

  1文字目(電源中性点の対地):
    T : 電源中性点を直接接地(Terra=大地)
    I : 非接地、または高インピーダンスで接地(Isolated)

  2文字目(機器筐体=露出導電部の対地):
    T : 機器筐体を独立した接地極で大地へ
    N : 機器筐体を電源中性点へ保護導体で接続(Neutral)

  追加文字(N接続時のPEとNの導体構成):
    S : PE と N を別導体で分離(Separated)
    C : PE と N を1本のPEN導体に兼用(Combined)

この分類が効いてくるのは、地絡時に 電流がどの経路で電源へ還るか が系統ごとに違い、ひいては どの保護装置で人を守れるか が変わるからです(地絡電流は必ず電源へ還る閉回路を作る点は /power/grounding-protection/ の電流連続性が前提)。還り道のインピーダンスが低ければ過電流遮断器で速断でき、高ければ過電流では切れずRCDに頼る、という対応がそのまま設計判断になります。

TN系統:PEN/PEで電源中性点へ還す低インピーダンス還路

TN系統は電源中性点を直接接地し、機器筐体を 保護導体(PE)または兼用導体(PEN)という金属経路 で電源中性点まで戻します。地絡電流が大地を介さず金属だけで還るため、地絡が 実質的に短絡に近い大電流になり、過電流遮断器が主保護になります。PEとNの構成でさらに3つに分かれます。

方式PEとNの構成地絡時の主保護特徴・弱点
TN-S全系統でPEとNを分離過電流遮断器で速断(RCD併用可)漏れ電流がN/PE間で混ざらずEMCに最良。DC・通信系の定番
TN-C全系統でPENに兼用過電流遮断器で速断経済的だがPEN断線で筐体充電・N電流がPEに常時流れEMC悪い
TN-C-S上流PEN→末端でPEとNに分離過電流遮断器で速断幹線は経済的、末端は安全/EMC良好。多くの建物で採用

TN-C の弱点は PEN導体が中性線電流(負荷の戻り電流)を常時運ぶ ことに起因します。PEN には負荷電流が流れるため筐体間にわずかな電位差が出てノイズ源になり、さらに PEN が断線すると 筐体電位が相電圧まで浮く(戻り道を失った中性点電位が筐体に現れる)危険があります。そこで上流のみ PEN とし、末端の分電盤以降で PE と N を分離する TN-C-S が一般的です。一度分離したら下流で再び結んではいけない(漏れ電流が逆流して保護が乱れる)のが鉄則です。

なぜTNは過電流遮断器で切れるのか

TNの地絡ループは「相導体→地絡点→PE/PEN→電源中性点」と金属だけで閉じ、ループインピーダンス Zs が数百mΩ〜数Ω程度に収まります。地絡電流は Ifault = 相電圧 / Zs で、たとえば 230V を 0.5Ω で割れば約460A。これは過電流遮断器の瞬時引外し領域に十分入り、規定時間(最終回路で 0.4 秒以内など)で遮断できます。TNでRCDが必須でないのは、この低インピーダンス還路のおかげです。

TT系統とIT系統:大地経由と非接地、保護の発想が変わる

TT系統は機器筐体を 電源とは独立した接地極 で大地に落とすだけです。地絡電流は「相導体→地絡点→筐体接地極→大地→電源接地極」と進み、大地抵抗(接地極で数十Ω規模)を直列に含む高インピーダンス経路になります。電流が小さく過電流遮断器は動かないため、差電流を見る RCDが必須です。

IT系統は電源中性点を接地しない(または高抵抗で接地する)方式です。1点目の地絡では電流の還る閉路が完成せず、漏れるのは線路の対地静電容量を通るごく小さな電流だけ。だから システムを止めずに運転を続けられるのが最大の利点です。代わりに 絶縁監視装置(IMD) が常時対地絶縁抵抗を測り、1点目地絡を警報。2点目が別相で起きると相間短絡になり危険なので、その前に修理する運用を前提とします。

系統地絡電流の還り道初回地絡の挙動主保護タッチ電圧
TN金属PE/PEN経由(低Z・大電流)短絡相当の大電流で即遮断過電流遮断器(RCD併用可)遮断まで一時的に高くなりうる
TT大地経由(高Z・小電流)電流小さく過電流では切れないRCD必須接地極抵抗次第。RCDで時間を抑える
IT初回は閉路せず容量電流のみ止まらない(警報のみ)IMD監視+2点目で過電流遮断初回はごく低い

タッチ電圧(接触電圧)の観点で並べると性格が見えます。地絡時に筐体に現れる電位は、地絡電流と「接地極〜大地のインピーダンス」の積です。ITは初回地絡で電流がほぼ流れないためタッチ電圧が最も低く、無停止と安全を両立しやすい。TTは大地経由の電流×接地極抵抗で危険電位が出やすいため、接地抵抗を低く保つかRCDで素早く切るのが要点。TNは大電流ゆえ遮断までの短時間は筐体電位が上がりうるので、速断時間の確保と等電位ボンディングが前提になります。

系統と保護の対応(頻出)

即答すべき対応:TN=過電流遮断器で速断(金属PEN/PE還路で大電流)/TT=RCD必須(大地経由で電流が小さく過電流では切れない)/IT=初回地絡で止めず絶縁監視(IMD)で警報、2点目で遮断。ITが初回で止めないのは非接地ゆえ閉回路が完成せず電流がごく小さいため。ただし2点目地絡は相間短絡で危険なので絶縁監視が前提です。

EMC特性とPE/N分離

系統接地はEMC(電磁両立性)にも直結します。鍵は 戻り電流(中性線電流)と保護電流(漏れ電流)を同じ導体に混ぜないこと です。TN-C の PEN は中性線電流を常時運ぶため、その電流が建物構造体や信号系のグラウンドへ分流して コモンモードノイズと電位差 を生みます。対して TN-S は PE が原則無電流(地絡時のみ流れる)なので、筐体・ラックを安定した基準電位に保てます。

PEN兼用(TN-C)でノイズが乗る仕組み:

  負荷の戻り電流 I_n は PEN を流れる
    → PEN は建物中の複数経路(構造体・配管)へ分流
    → 経路ごとの電位差・ループ電流が発生
    → ラック間グラウンド電位差 → 信号系にコモンモード混入

  TN-S では:
    N と PE が別導体 → 戻り電流は N のみ、PE は地絡時以外ほぼ無電流
    → ラックは安定基準電位、グラウンドループ最小化

このため通信・IT機器の集積環境では、感電保護だけでなく信号品質の観点からも PEとNを分離するTN-S が標準とされます(電源品質との関連は /power/power-quality-disturbances/ も参照)。

適用判断:データセンター・医療・工場

実務の選び分けは「連続運転の要求度」「保護の主役」「EMC要求」で決まります。

用途推奨系統理由
データセンター/ITTN-S(建物はTN-C-S→末端TN-S)PE無電流でラック基準電位が安定しEMC良好。地絡は過電流で速断
一般住宅/商用(配電が直接接地)TT電源接地が事業者側固定で独立接地極+RCDが現実解。漏電遮断が安全の主役
医療(手術室など)IT(医用IT系統)初回地絡で停電させず手術継続。IMDで監視し漏れ電流とタッチ電圧を最小化
工場の重要プロセス/連続運転設備IT1線地絡で即停止させず、計画停止で修理。可用性最優先のライン向き

データセンターでは大量の非線形負荷(/power/datacenter-power-architecture/)が直流分・高周波の漏れ電流を作るため、RCDを併用するなら直流分に対応した Type A/B の選定が要ります(48V系などの構成は /power/hvdc-48v-datacenter/)。医療・工場でITが選ばれるのは、1点目地絡で止めない=可用性初回タッチ電圧が低い=安全を両立できるから。ただしITは2点目地絡対策としてIMD常設・低い対地容量・確実な保守体制が前提で、これを欠くと最も危険な相間短絡に化けます。

まとめ

  • 系統接地はIEC 60364で電源中性点(1文字目)と機器筐体(2文字目)の対地を型分けしたもので、地絡電流の還り道と頼る保護装置が決まる。
  • TN は金属PE/PEN経由の低インピーダンス還路で地絡が短絡相当になり過電流遮断器で速断。PEN兼用のTN-Cは経済的だが断線リスクとEMC不利、末端でPE/Nを分けるTN-C-S/TN-Sが安全・EMCに有利。
  • TT は大地経由の高インピーダンスで電流が小さく過電流では切れないため RCD必須IT は非接地で初回地絡が閉路せず止まらず、IMD監視で連続運転を優先(2点目は相間短絡で危険)。
  • タッチ電圧はITが初回最小、TTは接地極抵抗次第、TNは遮断までの短時間に上がりうる。EMCはN/PEを分けるTN-Sが最良。
  • 適用は連続運転と保護の主役で決まる:DCはTN-S、住宅はTT、医療・工場の重要負荷はIT。前提の還り道設計は /power/grounding-protection/、中性点と三相は /power/three-phase-power/ を参照。

電源 Article

接地方式の系統:TN・TT・IT接地の比較を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

接地

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6

導入後に効く点

TNは金属PE経由の低インピーダンス還路で過電流遮断器が速断、TTは大地経由の高インピーダンスでRCD必須、ITは初回地絡で閉路せず絶縁監視で警報し連続運転を優先する。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「接地 / TN-TT-IT」に近いか確認する。
  • 強みである「系統接地はIEC 60364で1文字目が電源中性点の対地、2文字目が機器筐体の対地を表し、地絡電流の還り道と頼る保護装置(過電流かRCDか)が決まる。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

接地TN-TT-IT系統接地RCD電気安全接地TN-TT-IT系統接地
参考: 公式情報