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マルチレベルインバータ:NPC・フライングキャパシタ・MMC

出力電圧を多段の階段波にしてdv/dtとTHDを下げ高耐圧化する仕組みを、NPC・フライングキャパシタ・カスケードHブリッジ・MMCの構成とコンデンサ電圧バランスから理解できます。HVDCや産業ドライブでなぜ選ばれるかがつかめます。

応用マルチレベルインバータNPCMMCHVDCdv/dtTHD最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.出力を2段ではなくN段の階段波にすると、各スイッチに分圧してかかり高耐圧化でき、1段あたりの電圧変化が小さくなってdv/dtとTHDが下がる。フィルタも小さくできる。
  • 2.NPCは中性点クランプダイオードで中点を作る3レベル方式、フライングキャパシタは浮遊コンデンサで中間電圧を作る方式、カスケードHブリッジは絶縁直流源を持つHブリッジを直列に積む方式。いずれも内部コンデンサの電圧バランス維持が制御の核心。
  • 3.MMC(モジュラーマルチレベル)はハーフブリッジセルを多数直列にし、各セルコンデンサ電圧をソート選択で均す。フィルタレスで数百レベルの正弦波が作れるためHVDCの標準。産業ドライブでは高圧モータを変圧器なしで直接駆動できる利点で採用される。

なぜ「段数を増やす」と高耐圧・低歪みになるのか

通常の2レベルインバータは、出力点を直流母線の上(+Vdc)か下(0)の二択に切り替えるだけです。出力線間電圧は +Vdc / 0 / -Vdc の3値しか取れず、各瞬間の電圧変化(ステップ)は母線電圧そのものの大きさになります。これは /power/inverter-dc-ac-spwm/ で見たフルブリッジの動作そのものです。

ここで問題が二つ生じます。第一に、高圧(数kV以上)の系統やモータを駆動しようとすると、1個のスイッチに母線電圧の全部がかかります。耐圧の高い半導体は高価で損失も大きく、単純な直列接続では各素子の電圧分担が揃わず壊れやすい。第二に、毎回フルスイングするためスイッチング時の電圧変化率 dv/dt が極端に大きくなります。dv/dtが大きいと、モータ巻線の絶縁を傷め、長いケーブルでサージ反射を起こし、放射ノイズ(EMI)も増えます。

マルチレベルインバータは、出力を2段ではなく3段・5段・……N段の「階段状」に作ることでこの両方を解決します。中間電圧を作れると何が起きるかを整理します。

観点2レベルNレベル(多段)
出力相電圧の段数2段(+Vdc/0)N段の階段波
1回の電圧ステップ母線電圧の全幅母線電圧 ÷(N-1)の小刻み
スイッチ1個の耐圧分担母線電圧の全部母線電圧 ÷(N-1)に分圧
dv/dt大きいステップが小さいぶん低い
波形のTHD高い(要フィルタ)階段が正弦波に近く低い
出力フィルタ比較的大きいLCが必要小型化または不要

要点は、段数を N 段にすると各スイッチには母線電圧の 1/(N-1) しかかからず、1回のスイッチングで動く電圧も 1/(N-1) で済むことです。耐圧の低い素子(同じIGBTでも低耐圧品は速くて安い)を使え、dv/dtが下がり、階段が細かいぶん出力波形がもともと正弦波に近いのでTHDが小さく、フィルタを小型化できます。代償は、素子数・コンデンサ数・制御の複雑さの増加です。

NPC ── 中性点クランプで中点を作る

最も古典的な3レベル方式が NPC(Neutral-Point-Clamped、中性点クランプ) です。直流母線を2個のコンデンサで分割して中点(中性点 O)を作り、その中点をクランプダイオードを介して出力に接続できるようにします。

NPC 3レベル(1相分、片側アーム)

   +Vdc/2 ──┬── [S1]
            │     │
           [Cu]   ├──[D_u]──┐
            │     │         │
    O(中点)─┼─────┤      出力 A(+Vdc/2, 0, -Vdc/2)
            │     │         │
           [Cl]   ├──[D_l]──┘
            │     │
   -Vdc/2 ──┴── [S4]   (S2,S3 は中段スイッチ)

  出力 = +Vdc/2 : S1,S2 オン
  出力 = 0      : S2,S3 オン(中点 O にクランプ)
  出力 = -Vdc/2 : S3,S4 オン

各相は4個のスイッチ(S1〜S4)と2個のクランプダイオードで構成され、出力は +Vdc/20(中点)、-Vdc/2 の3レベルを取ります。中段の2スイッチをオンにすると出力が中点に「クランプ」されて0Vが得られるのが名の由来です。オフ状態のスイッチにはクランプダイオードによって母線の半分(Vdc/2)だけがかかるため、2レベルの半分の耐圧で済みます。

NPCの弱点は中性点電位の変動

NPCで最も厄介なのが中性点電位のバランスです。上下コンデンサ CuCl の分担電圧は、出力電流が中点 O に流れ込む/流れ出す向きと時間で増減します。出力電流が中点を充放電するため、放置すると中点電位が Vdc/2 からずれて、各レベルの間隔が崩れ低次高調波が増えます。対策は、同じ出力レベルを作る冗長なスイッチ状態(中点へ電流を入れる組み合わせと抜く組み合わせ)を選び分けて中点電位を能動的に補正することです。3レベルを超えると(ダイオードクランプ多レベル)クランプダイオードの直列段数と電圧分担が急増し、実用は3レベルにほぼ限られます。

フライングキャパシタ ── 浮遊コンデンサで中間電圧を作る

フライングキャパシタ(FC、Flying Capacitor、浮遊コンデンサ) 方式は、クランプダイオードの代わりに、Vdc/2 に充電した浮遊コンデンサを中間電圧源として使います。

フライングキャパシタ 3レベル(1相分の概念)

   +Vdc ──[S1]──┬──[S2]──┐
                │        │
              [Cfc]    出力 A
            (Vdc/2に充電) │
                │        │
    0V ──[S1']─┴──[S2']──┘

  S1,S2'      : 出力 = +Vdc を Cfc 経由で分圧 → 中間レベル生成
  状態の組合せで +Vdc / +Vdc/2 / 0 の3レベルを合成

浮遊コンデンサ CfcVdc/2 に保てば、スイッチの組み合わせで出力に VdcVdc/20 の中間値を作れます。NPCと違い、同じ中間レベルを作るスイッチ状態が複数あり(コンデンサを充電する組み合わせと放電する組み合わせ)、この冗長性を使ってコンデンサ電圧を Vdc/2 近傍に自然に均せるのが利点です。クランプダイオードが不要で、レベル数を増やしてもダイオード段数問題が起きにくく、3レベルを超える拡張がNPCより素直です。

起動時のプリチャージとコンデンサ容量

フライングキャパシタ方式は、運転前に浮遊コンデンサを所定電圧に充電(プリチャージ)しておく必要があります。充電前にスイッチングすると過大電流が流れます。また、基本波周波数が低いほどコンデンサが充放電を支える時間が長くなり、電圧リプルを抑えるため大きな容量が要ります。低速・高トルク域を多用する用途では、コンデンサが大型化しやすい点に注意します。

カスケードHブリッジ ── 絶縁直流源を直列に積む

カスケードHブリッジ(CHB、Cascaded H-Bridge) は、それぞれ独立した直流電源を持つHブリッジ(/power/inverter-dc-ac-spwm/ のフルブリッジ)を直列に積み重ねて出力電圧を足し合わせる方式です。

カスケードHブリッジ(1相に3セル直列の例)

  [セル1: Hブリッジ + 絶縁DC源] ── 出力 +E/0/-E
        │(直列)
  [セル2: Hブリッジ + 絶縁DC源] ── 出力 +E/0/-E
        │(直列)
  [セル3: Hブリッジ + 絶縁DC源] ── 出力 +E/0/-E
        │
       相出力 = 各セル出力の総和(最大 ±3E、7レベル)

  Nセル直列 → 相電圧は (2N+1) レベル

各セルは +E / 0 / -E の3値を出せ、これを直列に足すと、Nセルで (2N+1) レベルの相電圧が得られます(3セルなら7レベル)。素子の耐圧は1セルの直流電圧 E 分でよく、セルを増やすだけで簡単に多レベル化・高耐圧化できる拡張性の高さが最大の長所です。各セルが独立した小容量で構造が同一なのでモジュール量産にも向きます。

代償として、セルごとに絶縁された独立直流源が必要です。実機では多巻線(位相シフト)変圧器の二次側を各セルの整流器につなぐ構成が一般的で、この変圧器が大きく重くなります。太陽光のように各セルに別々のパネル列をつなげる用途では、この絶縁源要件がむしろ自然にMPPT分散と噛み合い、相性が良くなります。

MMC ── ハーフブリッジセルの直列、HVDCの主役

MMC(Modular Multilevel Converter、モジュラーマルチレベル変換器) は、各相のアームを多数の**サブモジュール(セル)**の直列接続で構成する方式です。各セルは典型的にハーフブリッジ(2スイッチ)+1個のコンデンサからなり、外から見ると「コンデンサ電圧 Vc を挿入する(投入)」か「短絡してバイパスする(除外)」かの二状態を取ります。

MMC の1相(上下アーム各 N セル)

   +Vdc ─┬─[上アーム: SM1..SMn 直列]─┐
         │                         (各 SM はハーフブリッジ+C)
         │                          ├── 相出力(中点)
         │                         │
   -Vdc ─┴─[下アーム: SM1..SMn 直列]─┘

  上アームで投入するセル数 + 下アームで投入するセル数 ≈ N(一定)
  → 投入セル数を上下で配分して中点電圧を階段状に動かす
  → 各セルが1段ずつ寄与するので N が大きいほど階段が細かい

相出力電圧は、上下アームで「投入する(コンデンサを挿入する)セル数」の配分で決まります。投入セル数を時間とともに正弦波状に増減させると、セル1個ぶん(Vdc/N)ずつの非常に細かい階段で出力が動きます。セルを数十〜数百段積めば、出力はほぼ連続的な正弦波になり、出力フィルタが原理的に不要になります。

MMCの心臓部はセルコンデンサ電圧のソート均一化

MMCでは各セルコンデンサの電圧は、そのセルを電流が流れる向きと投入時間で増減します。全セルの電圧を揃え続けないと階段の高さがバラついて歪みます。標準的な手法は、各制御周期で全セルの電圧を測ってソートし、いま必要な投入セル数だけを、アーム電流の向きに応じて「充電が必要なら電圧の低いセル」「放電させたいなら電圧の高いセル」から選んで投入するソートベースの均一化(バランシング)です。さらに上下アーム間を流れる循環電流を制御してアーム内のリプルを抑えます。1セルが故障してもバイパスして運転継続できる冗長性も、N段構成ならではの強みです。

ハーフブリッジセルは構造が簡単で効率が高い反面、直流側短絡(DC地絡)電流を遮断できません。HVDCで直流線路故障に対処するため、各セルをフルブリッジ化して逆電圧を出せるようにし、故障電流を抑える構成も使われます(コストは増えます)。

なぜHVDCと産業ドライブで選ばれるのか

マルチレベル化のメリットが最も効くのが、HVDC送電高圧の産業ドライブです。

用途主流の方式選ばれる理由
HVDC送電(自励式)MMC数百レベルでほぼ完全な正弦波 → 交流フィルタ不要。多数セルへ分圧して数百kVを耐圧。1セル故障も冗長運転で継続
高圧大容量モータドライブNPC(3〜5レベル)/ CHB中圧(3.3〜6.6kV)モータを昇圧変圧器なしで直接駆動。低dv/dtでモータ絶縁とケーブルを保護
系統用STATCOM・無効電力補償MMC / CHB高圧側に直結でき、低歪みで無効電力を高速制御できる
大規模太陽光・蓄電CHB / MMCセルごとの独立直流源がパネル列・電池モジュールと自然に対応

HVDCでは、交流系統と直流線路の間で数百kV・数百MW〜GW級を変換します。MMCは数百段のセルで出力がほぼ純粋な正弦波になるため、従来の2レベル/3レベル自励式変換に必須だった大型の交流フィルタが要らず、損失も低く、各セルへの分圧で超高耐圧を実現できます。直流送電そのものの利点(/power/hvdc-48v-datacenter/ で扱う直流配電の考え方と同じく、長距離・大容量で交流より有利)と相まって、自励式HVDCは現在ほぼMMC一択です。

産業ドライブでは、3.3kVや6.6kVといった中圧モータを駆動します。2レベルで作ると素子の耐圧が足りず、無理に直列接続しても電圧分担と高dv/dtの問題が出ます。NPCやCHBなら各素子に分圧してかかり、出力が階段状で正弦波に近いため、昇圧変圧器を介さずモータへ直結でき、低dv/dtでモータ巻線の絶縁劣化と長ケーブルのサージ反射を抑えられます。高調波の評価と低減の一般論は /power/harmonics-fourier-analysis/、各方式の主役であるスイッチ素子の構造は /power/igbt-structure-operation/ を参照してください。

まとめ

  • マルチレベル化は出力を N 段の階段波にする。各スイッチには母線電圧の 1/(N-1) だけが分圧してかかり高耐圧化でき、1回の電圧ステップが小さくなってdv/dtTHDが下がり、フィルタを小型化できる。代償は素子・コンデンサ・制御の増加。
  • NPCは2個のコンデンサで中点を作りクランプダイオードで3レベルを得る。課題は出力電流による中性点電位の変動で、冗長スイッチ状態で補正する。実用は3レベル中心。
  • フライングキャパシタは浮遊コンデンサを Vdc/2 に保ち中間電圧を作る。冗長状態でコンデンサ電圧を均しやすく多レベル拡張が素直だが、プリチャージと大容量コンデンサが必要。
  • カスケードHブリッジは絶縁直流源付きHブリッジを直列に積み (2N+1) レベルを得る。拡張性とモジュール性が高いが、各セルに独立絶縁直流源(多巻線変圧器など)が要る。
  • MMCはハーフブリッジセルを多数直列にし、セルコンデンサ電圧のソート均一化と循環電流制御で運転する。数百レベルでフィルタレスの正弦波が作れ、冗長運転も可能なためHVDCの標準
  • 採用理由:HVDCはMMCで超高耐圧・低歪み・フィルタ不要を実現。中圧産業ドライブはNPC/CHBで変圧器なし直結と低dv/dtによるモータ・ケーブル保護を得る。
  • 関連:基礎の2レベルインバータは /power/inverter-dc-ac-spwm/、高調波評価は /power/harmonics-fourier-analysis/、スイッチ素子は /power/igbt-structure-operation/、直流配電の考え方は /power/hvdc-48v-datacenter/

電源 Article

マルチレベルインバータ:NPC・フライングキャパシタ・MMCを実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

マルチレベルインバータ

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6

導入後に効く点

NPCは中性点クランプダイオードで中点を作る3レベル方式、フライングキャパシタは浮遊コンデンサで中間電圧を作る方式、カスケードHブリッジは絶縁直流源を持つHブリッジを直列に積む方式。いずれも内部コンデンサの電圧バランス維持が制御の核心。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「マルチレベルインバータ / NPC」に近いか確認する。
  • 強みである「出力を2段ではなくN段の階段波にすると、各スイッチに分圧してかかり高耐圧化でき、1段あたりの電圧変化が小さくなってdv/dtとTHDが下がる。フィルタも小さくできる。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

マルチレベルインバータNPCMMCHVDCdv/dtマルチレベルインバータNPCMMC