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変圧器の原理:励磁・漏れインダクタンス・インピーダンス電圧

短絡電流の上限も電圧変動率も%インピーダンス1つで読み解けます。理想変圧器からの4つのズレ(励磁電流・鉄損・漏れ・銅損)を等価回路に落とし、設計指標を原理から押さえます。

応用変圧器電力等価回路パーセントインピーダンス結線最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.理想変圧器からのズレは励磁電流(磁化+鉄損)と漏れインダクタンス・巻線抵抗(銅損)の4つ。これらを並列の励磁枝と直列の漏れインピーダンスとして等価回路にまとめる。
  • 2.%インピーダンスは定格電流で漏れインピーダンスに生じる電圧降下の定格比。短絡電流は定格電流の100/%Z倍(%Z=5%なら20倍)に制限され、%Zが小さいほど短絡電流が大きく電圧変動率は小さい。
  • 3.結線はY/Δの組み合わせで決まり、Y-Δは一次二次間に30度の位相差(時計番号)を生む。並列運転には位相群・%Z・極性の一致が必須。

理想変圧器と、そこからの4つのズレ

変圧器の設計指標を読むには、まず「理想変圧器」を基準に置き、現実がそこからどうズレるかを4項目で整理するのが近道です。理想変圧器は巻数比 n = N1/N2 だけで電圧・電流を変換し、損失ゼロ・励磁電流ゼロ・完全結合を仮定します。

理想変圧器の関係(ファラデーの法則 v = N・dΦ/dt が土台):
  V1/V2 = N1/N2 = n      電圧は巻数比に比例
  I1/I2 = N2/N1 = 1/n    電流は巻数比に反比例(電力保存)
  入力皮相電力 = 出力皮相電力(損失なし)

磁束と巻数比の物理は /power/isolated-converter-transformer//power/magnetic-core-physics/ で扱った通りです。現実の変圧器はこの理想から次の4点でズレ、これがそのまま等価回路の各素子になります。

ズレ物理的原因等価回路での表現招く損失・現象
励磁電流(磁化)コアに磁束を立てるのに有限の電流が要る並列の励磁リアクタンス Xm無負荷でも流れる遅れ電流
鉄損ヒステリシス損・渦電流損並列の励磁抵抗 Rc無負荷損(コア損)・発熱
漏れ磁束一次二次を完全には鎖交しない磁束直列の漏れリアクタンス X1, X2電圧降下・%Zの主成分
巻線抵抗導線の有限抵抗直列抵抗 R1, R2銅損(負荷損、電流の2乗に比例)

等価回路:並列の励磁枝と直列の漏れインピーダンス

4つのズレを1枚の回路にまとめたものが等価回路です。励磁に関わる2項目(磁化電流と鉄損)は無負荷でも流れるので並列に、漏れと巻線抵抗は負荷電流が通るので直列に置きます。

T型等価回路(一次基準):

  V1 ─[ R1 ]─[ jX1 ]─┬─[ R2' ]─[ jX2' ]─ V2'(二次を一次へ換算)
                      │
                  励磁枝(並列)
                      │
              ┌───────┴───────┐
            [ Rc ]          [ jXm ]   ← Rc:鉄損, Xm:磁化
              │               │
             (鉄損電流)     (磁化電流)

  ・ R2', X2', V2' は二次量を巻数比の2乗 n^2 倍して一次へ換算した値
  ・ 二次換算: R2' = n^2・R2,  X2' = n^2・X2,  V2' = n・V2,  I2' = I2/n

ここで決定的なのが二次量の一次換算です。インピーダンスは巻数比の2乗でスケールします(電圧が n 倍、電流が 1/n 倍なので Z = V/I は n の2乗倍)。換算後は一次と二次が同じ電圧階級になり、直列の漏れ分を R1 + R2'X1 + X2' と単純加算で合算できます。

励磁枝は実務でしばしば省略される

励磁電流は定格電流の数%以下と小さいため、負荷時の電圧降下や短絡計算では励磁枝を開放(無視)し、直列の漏れインピーダンス Re + jXe = (R1+R2') + j(X1+X2') だけの「簡易等価回路」を使うのが定石です。一方、無負荷損や励磁突入電流(インラッシュ)を論じるときは励磁枝が主役になります。どちらを無視できるかは解きたい問題で決まります。

直列インピーダンスと並列励磁枝の各値は、2つの試験で分離測定できます。物理的に何を測っているかが等価回路の各素子と一対一で対応します。

試験方法測れるもの対応する素子
無負荷試験二次開放で定格電圧を印加鉄損(コア損)・励磁電流並列の Rc, Xm
短絡試験二次短絡で定格電流が流れる低電圧を印加銅損(負荷損)・漏れインピーダンス直列の Re, Xe

短絡試験で印加した電圧こそが、次に述べるインピーダンス電圧そのものです。

%インピーダンスとインピーダンス電圧、短絡電流

%インピーダンス(%Z)は変圧器の最重要設計指標です。定義は「定格電流を流したとき、内部の漏れインピーダンスに生じる電圧降下が定格電圧の何%か」。これは短絡試験で「定格電流を流すのに必要な印加電圧(=インピーダンス電圧)の定格比」と同じものです。

%Z の定義:
  %Z = (定格電流 × 漏れインピーダンス Ze) / 定格電圧 × 100
     = インピーダンス電圧 Vz / 定格電圧 × 100

  例: %Z = 5% の変圧器
    定格電流を流すには定格電圧の5%を内部降下に費やす
    → 短絡試験では定格電圧の5%を印加した時点で二次に定格電流が流れる

%Z が決まると短絡電流の上限が一意に決まります。二次を完全短絡すると、出力電圧をゼロに落とした分の電圧がすべて漏れインピーダンスにかかり、電流は下式の値まで増えます。

短絡電流(二次端短絡):
  Isc = 定格電流 / (%Z / 100) = 定格電流 × 100 / %Z

  例: %Z = 5%  → Isc = 定格電流の20倍
      %Z = 10% → Isc = 定格電流の10倍

  → %Z が小さいほど短絡電流が大きい
試験・実務で問われる%Zのトレードオフ

%Z は「小さければ良い」指標ではありません。%Z を小さくすると電圧変動率(後述)が改善し電圧が安定する一方、短絡電流が 定格電流 × 100/%Z まで跳ね上がり、遮断器の遮断容量(kA)や巻線の電磁機械応力の要求が厳しくなります。逆に%Z を大きくすると短絡電流は抑えられるが電圧変動が悪化する。配電用変圧器の%Z が数%、大容量電力用が十数%に設計されるのは、この電圧安定性と短絡容量制限のバランスを取った結果です。短絡保護の前提は /power/grounding-protection/ を参照。

なお漏れインピーダンスの抵抗分とリアクタンス分の比は重要で、配電クラスでは Xe が Re より大きい(X/R が大)のが普通です。短絡電流はほぼリアクタンス支配で位相がほぼ90度遅れ、力率・無効電力の観点とつながります(/power/power-factor-reactive-power/)。

効率と電圧変動率

%Z と並ぶ実務指標が効率電圧変動率で、いずれも前述の損失と漏れインピーダンスから導けます。

損失は性質の異なる2種に分かれます。鉄損(無負荷損)は電圧で決まり負荷によらずほぼ一定銅損(負荷損)は負荷電流の2乗に比例します。この非対称が効率曲線の形を決めます。

効率 η = 出力 / (出力 + 鉄損 + 銅損)

  鉄損 Pi : 一定(電圧依存)
  銅損 Pc : Pc = Pc_rated × (負荷率)^2

  最高効率の条件:  鉄損 = 銅損  (Pi = Pc)
  → この負荷率で η が最大になる
最大効率は「定格負荷」では起きない

変圧器の効率が最大になるのは、変動する銅損が一定の鉄損と等しくなる負荷率です。多くの配電用変圧器はこの点が定格の50〜70%付近に来るよう設計されます。これは1日の負荷が定格より低い時間帯が長いため、その帯域で効率を最適化する狙いです。「定格で最高効率」と思い込むと運用最適化を誤ります。データセンター電源の効率設計思想は /power/datacenter-power-architecture/ でも扱います。

電圧変動率(voltage regulation)は、無負荷から定格負荷へ移行したときに二次電圧がどれだけ下がるかの指標です。漏れインピーダンスでの電圧降下が原因で、%Z と負荷力率で決まります。

電圧変動率 ≈ %R・cosφ + %X・sinφ   (遅れ力率、近似式)
  %R, %X : 漏れインピーダンスの抵抗分・リアクタンス分の%値

  ・遅れ力率(誘導性負荷): %X・sinφ が加算 → 電圧降下が大きい
  ・進み力率(容量性負荷): sinφ が負 → 電圧が逆に上昇することもある

同じ%Z でも力率次第で電圧変動率が変わる点が肝です。遅れ力率では漏れリアクタンス分の降下が効いて電圧が大きく落ち、進み力率では逆に二次電圧が定格より上がる現象(フェランチ的挙動)すら起こります。

結線(Y/Δ)と位相群

三相変圧器では3相分の巻線をY(スター)かΔ(デルタ)で結び、一次・二次の組み合わせで特性が決まります。Y/Δの線間・相関係の基礎は /power/three-phase-power/ の通りです。

結線特徴向く用途
Y-Y中性点を両側に出せるが第3高調波で中性点が不安定。安定巻線(Δ)併用が普通限定的
Y-Δ降圧(送電端Y→配電Δ)。一次に中性線・接地が取れる送電降圧
Δ-Y昇圧(発電Δ→送電Y)。二次中性点から相電圧を取り出せる発電昇圧・配電
Δ-Δ第3高調波がΔ内を循環し外へ出ない。1台故障時V結線で継続可大電流・産業

結線の組み合わせで生じる決定的な性質が位相群(時計番号、ベクトル群)です。Y-ΔやΔ-Yでは、一次と二次の線間電圧の間に30度の位相差が生じます。Y側の線間電圧が相電圧から30度進む一方、Δ側は線間と相電圧が一致するため、両者の基準がずれるのが原因です。

位相群の表記(時計の文字盤、1番 = 30度遅れ):
  Dyn11 : Δ一次・Y二次・中性点引出、二次が一次に対し 330度(= 30度進み)
  Dyn1  : 同上で二次が 30度遅れ
  Yyn0  : Y-Y、位相差ゼロ(0番)

  Y-Δ / Δ-Y → 必ず 30度の奇数倍(1,5,7,11番)
  Y-Y / Δ-Δ → 0度または180度(0,6番)
並列運転は位相群・%Z・極性の一致が必須

2台の変圧器を並列運転するには、(1)位相群(時計番号)が一致、(2)%Z がほぼ等しい、(3)極性・巻数比が一致、の条件が要ります。位相群が違えば二次線間電圧に30度の差が生じ、両者の間に大きな循環電流が流れて巻線を焼きます。%Z が違うと負荷分担が%Z の逆比で偏り、%Z の小さい側が過負荷になります。「容量が同じだから並列にできる」わけではない、というのが実務の落とし穴です。

第3高調波の扱いも結線で決まります。Δ結線は第3高調波電流が三相で同相になりΔ内を循環して外部へ出さないため、Y-Y単独で生じる電圧波形の歪み(中性点振動)を抑える「安定巻線」として組み込まれます。これは三相4線の中性線で第3高調波が加算重畳する問題(/power/three-phase-power/)の裏返しの関係です。

まとめ

  • 理想変圧器からのズレは励磁電流(磁化=Xm・鉄損=Rc)と漏れリアクタンス(X1,X2)・巻線抵抗(R1,R2)の4つ。前者は並列の励磁枝、後者は直列の漏れインピーダンスとして等価回路にまとまる。二次量は巻数比の2乗でインピーダンス換算する。
  • **無負荷試験で励磁枝(鉄損・励磁電流)、短絡試験で直列の漏れインピーダンス(銅損)**を分離測定できる。短絡試験の印加電圧がインピーダンス電圧。
  • %Z は定格電流時の漏れ降下の定格比で、短絡電流は 定格電流 × 100/%Z。%Z が小さいほど短絡電流大・電圧変動小という相反するトレードオフを持つ。
  • 鉄損は一定・銅損は負荷の2乗で、両者が等しい負荷率で効率最大(多くは定格の50〜70%)。電圧変動率は%R・cosφ + %X・sinφ で、遅れ力率ほど大きく進み力率では上昇もする。
  • Y-Δ / Δ-Y は一次二次間に30度の位相差(時計番号で表す)を生む。並列運転は位相群・%Z・極性の一致が必須。
  • 巻数比と磁束の原理は /power/isolated-converter-transformer/、コア磁気は /power/magnetic-core-physics/、三相結線は /power/three-phase-power/、保護は /power/grounding-protection/ を参照。

電源 Article

変圧器の原理:励磁・漏れインダクタンス・インピーダンス電圧を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

変圧器

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 5

導入後に効く点

%インピーダンスは定格電流で漏れインピーダンスに生じる電圧降下の定格比。短絡電流は定格電流の100/%Z倍(%Z=5%なら20倍)に制限され、%Zが小さいほど短絡電流が大きく電圧変動率は小さい。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
5

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「変圧器 / 電力」に近いか確認する。
  • 強みである「理想変圧器からのズレは励磁電流(磁化+鉄損)と漏れインダクタンス・巻線抵抗(銅損)の4つ。これらを並列の励磁枝と直列の漏れインピーダンスとして等価回路にまとめる。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

変圧器電力等価回路パーセントインピーダンス結線変圧器電力等価回路
参考: 公式情報