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磁性体コアの物理:BHカーブ・ヒステリシス・飽和

トランスやインダクタの発熱・効率・サイズが伸びない真因を、BHカーブと飽和・損失から特定でき、フェライト/アモルファス/ナノ結晶/圧粉のコア材選定の判断軸がつかめます。

応用磁性体コアBHカーブヒステリシス損磁気飽和フェライトスタインメッツ則最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.コアの磁化はBHカーブで表され、囲む面積がヒステリシス損。Bが飽和磁束密度Bsatに達すると透磁率が崩れインダクタンスが急減し電流が暴走する。
  • 2.コア損は周波数fと磁束密度振幅Bの累乗で増える(スタインメッツ則 Pv≒k×f^α×B^β)。ヒステリシス損はfに比例、渦電流損はfの二乗で効くため高周波ほど後者が支配的。
  • 3.材料選定はBsat・損失・透磁率・直流重畳のトレードオフ。高Bsatのアモルファス/圧粉は大電流向き、低損失のナノ結晶/フェライトは高周波向き。

磁化を一枚で表す ── BHカーブ

トランスやインダクタの心臓部は磁性体コアです。その振る舞いはすべて BHカーブ(磁化曲線) に凝縮されます。横軸が磁界の強さ H(巻線電流に比例、単位 A/m)、縦軸が磁束密度 B(コア内に立つ磁束の密度、単位 T テスラ)。両者を結ぶのが 透磁率 μB = μ × H という関係です。

磁界 H と磁束密度 B の関係(B = μH)

  H = N × I / le      … 磁界は「巻数 × 電流 / 磁路長」で決まる
  B = μ × H = μ0 × μr × H

    N  : 巻数,  I : 電流,  le : 平均磁路長
    μ0 : 真空の透磁率 (4π×10^-7),  μr : 比透磁率(材料固有)

  巻線の鎖交磁束 Φ = B × Ae(Ae はコア断面積)
  インダクタンス L = N × Φ / I = μ × N^2 × Ae / le

ここで決定的なのは、コアの μr が数百〜数万倍あるため、空芯の何千倍ものインダクタンスを小さな体積で得られる点です。少ない巻数で大きな磁束を立てられるのがコアを使う理由そのものです。回路素子としてのインダクタの基礎は/power/circuit-fundamentals/を参照してください。

しかし B = μH は理想線形の近似にすぎません。実際の μr は H とともに変化し、しかも過去の履歴に依存します。この二つの非理想性こそが 飽和ヒステリシス です。

飽和 ── 透磁率が崩れる壁

H を上げていくと B は増えますが、ある値 Bsat(飽和磁束密度) で頭打ちになります。コア内の磁区(小さな磁石の集まり)がすべて磁界方向に揃いきると、それ以上磁束を増やせなくなるためです。飽和すると差分の透磁率 dB/dH がほぼゼロまで落ち、空芯と変わらなくなります。

飽和はインダクタンス崩壊から電流暴走へ直結する

インダクタンス L は微分透磁率に比例します。Bsat に達すると L が急減し、v = L × di/dt より同じ電圧でも di/dt が跳ね上がります。一次電流が暴走的に増えてスイッチ素子が過電流破壊に至る ── これが絶縁型コンバータで最も怖い故障です。飽和の発生条件と回避策(ギャップ・リセット)は/power/isolated-converter-transformer/で扱っています。

Bsat は材料で大きく異なります。フェライトは 0.4〜0.5T 程度と低く、アモルファスは 1.5T 前後、鉄系の圧粉やケイ素鋼は 1.5〜2.0T に達します。さらに Bsat は温度とともに下がる性質があり、フェライトはとくに顕著です。常温で設計余裕があっても、コア温度が 100℃を超えると Bsat が 2〜3割低下し、飽和余裕が削られます。放熱を誤ると熱的に飽和へ追い込まれるため、飽和設計は熱設計とセットです(/power/power-thermal-design/)。

ヒステリシス ── 履歴が描くループ

H を上げて下げて、また反転させると、B は往路と復路で同じ経路を通りません。磁区の向きを変えるのに摩擦のようなエネルギーが要り、H をゼロに戻しても磁束が残る(残留磁束 Br)からです。この閉じたループが ヒステリシスループで、囲む面積が1サイクルあたりに失われるエネルギーになります。

BHカーブのヒステリシスループ

        B
        │      ___────  ← 飽和(Bsat、これ以上 B は増えない)
   Br ──┤   ╱▔
(残留)  │  ╱
        │ ╱
  ──────┼─────────── H
       ╱│   ↑ Hc(保磁力:B=0 に戻すのに要る逆向き H)
      ╱ │
  ───▔  │
        │

  ループが囲む面積 = 1サイクルの単位体積あたりヒステリシス損
  Br 大・Hc 大 = 太いループ = 損失大(硬磁性寄り)
  Br 小・Hc 小 = 細いループ = 損失小(軟磁性、電源用コアはこちら)

電源用コアはループが細い軟磁性材料を使い、保磁力 Hc を小さくして損失を抑えます。一方で永久磁石は Hc が大きい硬磁性材料です。同じ磁化曲線で語れる点が面白いところです。

コア損失の二本柱 ── スタインメッツ則

交流励磁でコアが発熱する損失(鉄損)は、突き詰めると二つの機構に分かれます。ヒステリシス損渦電流損です。両者は周波数に対する効き方が違います。

損失発生機構周波数依存
ヒステリシス損磁区の向きを変える際の不可逆な摩擦損。ループ面積に比例f に比例(1サイクルあたり一定 × 回数)
渦電流損変動磁束がコア内に誘導する渦電流のジュール熱。導電率と磁束変化率で増えるf の二乗に比例(di/dt が効くため)

実務ではこの二つをまとめて経験式の スタインメッツ則で扱います。単位体積あたりのコア損 Pv を、周波数 f と磁束密度振幅 B の累乗で表すものです。

スタインメッツの式(単位体積あたりコア損)

  Pv ≒ k × f^α × B^β

    f : 励磁周波数,  B : 磁束密度の振幅(ピーク値)
    k, α, β : 材料固有の係数(データシートまたは実測で決める)
    α は概ね 1〜2(ヒステリシスと渦電流の合成を反映)
    β は概ね 2〜3(B 依存が強い)

  → 周波数を倍にするより、B の振幅を倍にする方が損失は激増する
  → 高周波化で B 振幅を下げられれば、コアを小さくしつつ損失を抑えられる
渦電流損を抑えるのが「薄く」「絶縁する」理由

渦電流損は f の二乗で効くため、高周波では決定的です。対策は渦電流のループを物理的に断つこと。ケイ素鋼を薄い積層にする、アモルファス/ナノ結晶を極薄リボンにする、フェライトは高抵抗のセラミックなので渦電流が流れにくい、圧粉コアは絶縁被覆した鉄粉を固めて渦電流を粒子内に閉じ込める ── いずれも渦電流の経路を細切れにする工夫です。だから高周波SMPSではフェライトやナノ結晶が主役になります。

実際のSMPSではコア損に加えて巻線の銅損(直流抵抗損に加え、高周波では表皮効果・近接効果で交流抵抗が増える)も乗ります。総合効率を語るときは鉄損と銅損の両方を見ます。スイッチ素子側の損失機構は/power/mosfet-switching-physics/を参照してください。

直流重畳 ── インダクタで効く別の壁

トランスは磁束が交流的に振れますが、降圧コンバータの平滑インダクタなどは直流バイアス電流が重畳します。直流電流は BHカーブ上の動作点を H 軸の正側へ押し上げ、飽和に近い領域へ寄せます。すると交流分に対する微分透磁率が下がり、直流電流が増えるほどインダクタンスが低下する現象が起きます。これが直流重畳特性です。

直流重畳によるインダクタンス低下

  L
  │▔▔▔▔▔╲           ← 低電流域:定格 L を維持
  │       ╲
  │        ╲___      ← 飽和に近づき L が急落
  │            ▔▔──
  └──────────────────── I_dc

  圧粉コア(分布ギャップ):なだらかに下がる=大電流まで使える
  ギャップ付きフェライト  :定格までほぼ平坦、超えると急落

直流重畳に強いコアを作るには、磁路にギャップを入れて実効透磁率を下げ、飽和しにくくします。圧粉コアは粒子間の隙間が無数の微小ギャップ(分布ギャップ)として働くため、飽和がなだらかで大電流まで L を保ちます。ギャップがエネルギーを蓄える役割も果たす点は絶縁型の解説と共通です。

コア材の選定 ── 何を優先するか

材料選定は Bsat・損失・透磁率・直流重畳・コストのトレードオフです。代表的な四系統を整理します。

材料Bsat高周波損失得意領域
フェライト(Mn-Zn/Ni-Zn)低(0.4〜0.5T)小(高抵抗で渦電流が少ない)数十kHz〜MHzの高周波トランス・インダクタ。SMPSの定番
アモルファス高(1.5T前後)商用〜中周波の大電力トランス・チョーク。高Bsatで小型化
ナノ結晶(Fe基微結晶)中〜高(1.2T前後)極小高周波かつ低損失が要る用途、コモンモードチョーク、高効率トランス
圧粉コア(鉄粉/センダスト等)高(1.0〜1.5T)中〜大直流重畳の大きいPFCチョーク・出力インダクタ。分布ギャップで飽和に強い
高Bsatと低損失は基本的に両立しにくい

鉄を多く含む材料はBsatが高い反面、導電性が高く渦電流損が増えがちです。フェライトはセラミックで高抵抗だから高周波で低損失ですが、Bsatが低く大電流では飽和しやすい。ナノ結晶は両者の良いとこ取りに近いものの高価です。**「高周波で低損失なら高Bsatを諦め、大電流で飽和余裕が要るなら損失を許容する」**という割り切りが選定の出発点になります。

判断の順序としては、まず周波数で渦電流損が許せる材料を絞り(高周波ならフェライト/ナノ結晶)、次にピーク磁束 B と Bsatで飽和余裕(温度低下込み)を確認し、トランスかインダクタかで直流重畳の要否を見ます。最後にスタインメッツ則でコア損を見積もり、放熱とあわせて温度上昇が許容内かを確認する ── この流れで決めます。デバイス全体のトポロジ選定は/power/dcdc-topology-map/と接続して考えます。

選定とコア物理の勘所(実務・試験)

(1) BHカーブの傾きが透磁率、Bsat到達で透磁率が崩れインダクタンスが急減=飽和。(2) ヒステリシス損はループ面積でfに比例、渦電流損はfの二乗 ── 高周波ほど渦電流が支配的。(3) スタインメッツ則 Pv≒k×f^α×B^β、βが2〜3でB振幅の影響が大きい。(4) Bsatは温度上昇で低下(フェライト顕著)、飽和設計は熱設計と一体。(5) 直流重畳でLは低下、圧粉コアの分布ギャップは大電流まで平坦。(6) フェライト=高周波低損失だが低Bsat、アモルファス/圧粉=高Bsatで大電流向き、ナノ結晶=低損失だが高価。

まとめ

  • コアの振る舞いは BHカーブに集約され、傾きが透磁率 B = μH、巻数とともにインダクタンスを L = μN^2Ae/le で決める。
  • **飽和(Bsat到達)**で透磁率が崩れインダクタンスが急減し電流が暴走する。Bsatは温度上昇で下がるため飽和設計は熱設計とセット。
  • コア損は**ヒステリシス損(fに比例)渦電流損(fの二乗に比例)**の和で、まとめてスタインメッツ則 Pv≒k×f^α×B^β で扱う。B振幅の効きが強い。
  • インダクタでは直流重畳で動作点が飽和側へ寄りLが低下する。圧粉コアの分布ギャップは大電流まで平坦。
  • 材料選定は Bsat・損失・透磁率・直流重畳・コストのトレードオフ。高周波低損失ならフェライト/ナノ結晶、大電流の飽和余裕ならアモルファス/圧粉。飽和回避の実装は/power/isolated-converter-transformer/、熱は/power/power-thermal-design/で詰める。

電源 Article

磁性体コアの物理:BHカーブ・ヒステリシス・飽和を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

磁性体コア

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6

導入後に効く点

コア損は周波数fと磁束密度振幅Bの累乗で増える(スタインメッツ則 Pv≒k×f^α×B^β)。ヒステリシス損はfに比例、渦電流損はfの二乗で効くため高周波ほど後者が支配的。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「磁性体コア / BHカーブ」に近いか確認する。
  • 強みである「コアの磁化はBHカーブで表され、囲む面積がヒステリシス損。Bが飽和磁束密度Bsatに達すると透磁率が崩れインダクタンスが急減し電流が暴走する。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

磁性体コアBHカーブヒステリシス損磁気飽和フェライト磁性体コアBHカーブヒステリシス損