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バンド理論とキャリア(電子・正孔・フェルミ準位)

なぜシリコンが導体でも絶縁体でもなく「半導体」なのかが原理から分かります。バンドギャップ、正孔、フェルミ準位とドーピングまで、全デバイスの土台を一気に押さえられます。

応用半導体バンド理論フェルミ準位ドーピング固体物理最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.原子が固体になると離散準位が帯(バンド)に広がり、満たされた価電子帯と空の伝導帯の間のバンドギャップ幅が導体・半導体・絶縁体を分けます。
  • 2.電流は伝導帯の電子と、価電子帯にできた空席を粒子とみなす正孔が運び、両者は逆符号の電荷を持つキャリアとして振る舞います。
  • 3.フェルミ準位は電子の占有確率が1/2となる基準で、ドナー添加でギャップ上側へ、アクセプタ添加で下側へ動き、これがn型・p型を決めます。

なぜ「半導体」という第三のカテゴリが要るのか

金属はよく電気を通し、ガラスはほとんど通しません。シリコンはその中間にあり、しかも温度や不純物でその性質が桁違いに変わります。この振る舞いを説明するのがバンド理論です。孤立した原子では電子は離散的なエネルギー準位しか取れませんが、原子が規則正しく並んで結晶になると、隣接原子の波動関数が重なり合い、パウリの排他律のもとで準位が無数に少しずつずれて連続的な帯(バンド)に広がります。

価電子帯・伝導帯・バンドギャップ

重要なのは2つのバンドと、その間の隙間です。

  • 価電子帯(valence band):原子間の結合に使われる電子が詰まったバンド。絶対零度では電子で満たされています。
  • 伝導帯(conduction band):価電子帯のすぐ上にある、通常は空のバンド。ここに電子が入ると結晶全体を自由に動ける。
  • バンドギャップ(band gap, Eg):価電子帯の上端と伝導帯の下端の間の、電子が存在できないエネルギーの隙間。

満たされたバンドは電流を運べません。なぜなら、電子が動いて電流が生じるには「空いた行き先」が必要で、完全に詰まったバンドにはそれが無いからです。だから導電性は Eg と、ギャップを越えて伝導帯に上がれる電子の数 で決まります。

分類バンドギャップの目安導電のしくみ
導体(金属)ギャップが無いか重なる価電子帯と伝導帯が重なり常に自由電子が豊富
半導体約0.1〜3 eV(Siは約1.12 eV)熱や添加で少数の電子をギャップ越えに励起できる
絶縁体約5 eV以上室温の熱エネルギーでは越えられず電子が動けない
室温の熱エネルギーとの比較

室温(300K)の熱エネルギーの目安 kT は約 0.026 eV。Si のギャップ約 1.12 eV はこの 40 倍以上あるため、純粋な Si で熱励起される電子はごく僅かです。それでも絶縁体ほど大きくないので、わずかな励起と後述のドーピングで導電性を実用的に制御できる——この「絶妙な中間」こそ半導体が価値を持つ理由です。

電子と正孔 ── 2種類のキャリア

電子が価電子帯から伝導帯へ励起されると、伝導帯には動ける電子が1個生まれ、同時に価電子帯には電子の抜けた空席が1個残ります。この空席を1個の粒子のように扱ったものが**正孔(hole、ホール)**です。

正孔は実在の粒子ではなく「電子の不在」ですが、周囲の価電子帯の電子が次々とその空席を埋めて移動すると、空席そのものが逆向きに動いているように見えます。これを正の電荷を持つ準粒子として記述すると計算が一気に簡単になります。

価電子帯の電子の玉突き移動:

  ●●●○●●●   ○ = 正孔(空席)
   →電子が左から空席を埋める→
  ●●○●●●●   空席(正孔)は右へ動いたように見える

  → 電子(負電荷)の左向き移動 = 正孔(正電荷)の右向き移動

つまり半導体では、伝導帯の電子(負電荷キャリア)と価電子帯の正孔(正電荷キャリア)の2種類が電流を運びます。電界をかけると両者は逆向きに動きますが、電荷の符号も逆なので電流への寄与は同じ向きに足し合わさります。この「正孔」という概念が、後の pn 接合やトランジスタ動作(/semiconductor/mosfet-operation/)を直感的に語る言語になります。

フェルミ準位 ── 占有確率の基準線

電子がどのエネルギー準位をどの確率で占めるかはフェルミ・ディラック分布で決まり、その中心となるのが**フェルミ準位(Fermi level, EF)**です。

フェルミ準位 EF の定義:

  そのエネルギーにある準位を電子が占める確率が
  ちょうど 1/2 になるエネルギー

  EF より十分下 → ほぼ確実に電子で埋まる(占有確率≈1)
  EF より十分上 → ほぼ確実に空(占有確率≈0)
  温度が上がるほど EF 周辺の境界が「なまる」

真性(不純物のない)半導体では、伝導帯の電子数と価電子帯の正孔数が等しく、EF はほぼバンドギャップの中央に位置します。EF は単なる確率の基準ではなく、熱平衡では系全体で一定という強力な性質を持ち、異種材料を接合したときのバンドの曲がり(ビルトインポテンシャル)を決める基準にもなります。

フェルミ準位は「電子がいる準位」ではない

EF はバンドギャップの中(電子が存在できない隙間)に来ることが普通です。これは矛盾ではありません。EF は実際に電子が座る準位ではなく、あくまで占有確率が 1/2 になる「仮想的な基準線」です。ギャップ内に EF があっても、そこに電子が居るわけではない点を取り違えないでください。

ドーピングがフェルミ準位を動かす

半導体の真価は、微量の不純物添加(ドーピング)でキャリアの種類と数、そして EF の位置を狙って制御できる点にあります。

  • n型(ドナー添加):Si(4価)に P や As など5価の原子を混ぜると、結合に使われない電子が1個余り、わずかな熱で容易に伝導帯へ供給されます。多数キャリアは電子。余剰電子で占有確率が上がるため、EF は伝導帯側(ギャップの上寄り)へ移動します。
  • p型(アクセプタ添加):B など3価の原子を混ぜると結合電子が1個不足し、価電子帯に正孔を作ります。多数キャリアは正孔。EF は価電子帯側(ギャップの下寄り)へ移動します。
        伝導帯 ────────────
                  EF(n型) ←ドナー準位が近い
        ┊
        ┊        EF(真性) ≒ ギャップ中央
        ┊
                  EF(p型) ←アクセプタ準位が近い
        価電子帯 ──────────
項目n型p型
添加する不純物ドナー(P, As など5価)アクセプタ(B など3価)
多数キャリア電子(負電荷)正孔(正電荷)
少数キャリア正孔電子
フェルミ準位の移動伝導帯側(上)へ価電子帯側(下)へ
試験・面接で問われる勘所

「n型は負に帯電しているか?」と問われたら No。ドーピングはキャリアの種類を変えるだけで、結晶全体は電気的に中性です(ドナーは電子を出した後プラスのイオンとして残り、可動電子と打ち消し合う)。問われるのは「帯電」ではなく「多数キャリアが電子か正孔か」「EF がどちらへ動くか」です。

なぜこれが全デバイスの土台なのか

n型とp型を接合すると、EF を全体で一定にしようとして境界付近のバンドが曲がり、キャリアが拡散して空乏層と内蔵電界が生まれます。これが pn 接合の整流作用であり、ダイオード、そしてゲート電圧でキャリアの通り道(チャネル)を開閉する MOSFET(/semiconductor/mosfet-operation/)や、それを相補的に組み合わせた CMOS(/semiconductor/cmos-inverter/)の動作原理そのものです。バンド・キャリア・フェルミ準位の3点を押さえれば、ほぼ全ての半導体デバイスは「バンドをどう曲げ、キャリアをどう動かすか」という一つの言語で読み解けます。

まとめ

  • 結晶では原子準位がバンドに広がり、バンドギャップの幅が導体・半導体・絶縁体を分ける。満たされたバンドは電流を運べない。
  • 電流は伝導帯の電子価電子帯の正孔の2種類のキャリアが担い、正孔は「電子の不在」を正電荷の準粒子として扱ったもの。
  • フェルミ準位は占有確率が 1/2 となる基準線で、熱平衡では系全体で一定。真性半導体ではほぼギャップ中央にある。
  • ドーピングは EF を動かし、ドナーで n型(EF が上へ)、アクセプタで p型(EF が下へ)を作る。結晶は中性のまま多数キャリアだけが変わる。
  • この3概念が pn 接合・MOSFET・CMOS など全デバイスの共通言語になる。

半導体 Article

バンド理論とキャリア(電子・正孔・フェルミ準位)を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

半導体

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 半導体 / タグ数: 5

導入後に効く点

電流は伝導帯の電子と、価電子帯にできた空席を粒子とみなす正孔が運び、両者は逆符号の電荷を持つキャリアとして振る舞います。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
半導体
タグ数
5

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「半導体 / バンド理論」に近いか確認する。
  • 強みである「原子が固体になると離散準位が帯(バンド)に広がり、満たされた価電子帯と空の伝導帯の間のバンドギャップ幅が導体・半導体・絶縁体を分けます。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

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