ドーピングとイオン注入(pn 接合の作り方)
ただのシリコンが、なぜ電気を一方向にだけ通すダイオードになるのか。不純物を打ち込み熱で活性化し、pn 接合という電気的な弁を作り込む原理が腹落ちします。
- 1.真性シリコンに5価のドナー(P, As)を入れるとn型、3価のアクセプタ(B)を入れるとp型になり、不純物濃度で多数キャリアの数を数桁の範囲で設計できる。
- 2.現代の不純物導入はイオン注入が主流で、ドーズ(注入量)と加速エネルギーで濃度と深さを独立に制御するが、打ち込み直後のドーパントは格子位置になく電気的に不活性。
- 3.アニール(熱処理)でドーパントを格子位置へ収め活性化すると同時に注入損傷を回復させ、n型とp型が接する境界に空乏層と内蔵電界を持つpn接合が完成する。
真性シリコンは「制御できない」素材である
不純物を一切含まない真性(intrinsic)シリコンは、室温では熱励起でわずかな電子・正孔対しか持たず、しかもその数は温度で激しく変わります。電子と正孔の数も常に等しいため、電流を運ぶキャリアの種類も量も自分で決められません。デバイスを作るには「ここは電子が多い領域」「ここは正孔が多い領域」を狙って作り分ける必要があります。これを実現するのが微量の不純物添加、すなわち**ドーピング(doping)**です。キャリアとバンドの基礎は/semiconductor/band-theory-carriers/で扱っており、本稿はそれを「どう物理的に作り込むか」に踏み込みます。
n型とp型 ── 価数の差がキャリアを生む
シリコンは4価で、各原子が隣接4原子と共有結合を作り、価電子帯が満たされた安定構造を取ります。ここに価数の違う原子を置換すると結合に過不足が生じ、それがキャリアになります。
- ドナー(5価:P, As, Sb):4本の結合に使われない電子が1個余る。この電子はドナー原子に弱く束縛されるだけで、室温の熱エネルギーで容易に伝導帯へ放出される。多数キャリアは電子で、これがn型。
- アクセプタ(3価:B):結合電子が1本不足し、近くの価電子帯から電子を1個受け取って正孔を1個残す。多数キャリアは正孔で、これがp型。
n型は負に帯電している、と誤答しがちですが No です。ドナーは電子を放出した後、その場に正イオン(固定電荷)として残ります。可動電子の負電荷と固定ドナーイオンの正電荷が打ち消し合うため、結晶全体は電気的に中性のままです。ドーピングが変えるのは「帯電」ではなく、動けるキャリアの種類と数です。
重要なのは、ごく微量で効くという点です。シリコンの原子密度は約 5e22 個/立方cm に対し、典型的なドーピング濃度は 1e15〜1e20 個/立方cm。原子1000万個に1個といった割合でも、真性キャリア濃度(室温で約 1e10 個/立方cm)を桁違いに上回るため、導電性を設計値で支配できます。
| 項目 | n型 | p型 |
|---|---|---|
| 添加する不純物 | ドナー(5価:P, As, Sb) | アクセプタ(3価:B) |
| 多数キャリア | 電子(負電荷) | 正孔(正電荷) |
| 少数キャリア | 正孔 | 電子 |
| 残る固定電荷 | 正のドナーイオン | 負のアクセプタイオン |
イオン注入 ── ドーパントを「撃ち込む」
かつては高温の拡散炉でドーパントを表面から染み込ませる熱拡散が使われましたが、現代の主流は**イオン注入(ion implantation)**です。ドーパントをイオン化し、電界で加速してウェハに物理的に打ち込みます。
イオン注入の流れ:
ガス源(BF3, PH3 等)をイオン化 → 質量分析で目的イオンだけ選別
→ 数keV〜数百keVで加速 → ビームをウェハ面で走査して打ち込む
→ ドーズ(打ち込んだ総量)を電流積算で精密に計測
イオン注入の決定的な利点は、濃度(ドーズ)と深さ(加速エネルギー)を独立に制御できることです。ドーズは単位面積あたりのイオン数で、ビーム電流の積算から精密に決まります。深さは加速エネルギーで決まり、エネルギーが高いほど深く、軽い元素ほど深く入ります。打ち込まれたイオンは結晶内で原子と衝突して減速し、ある深さを中心にほぼガウス分布状に止まります(その中心を投影飛程と呼ぶ)。
フォトレジストや酸化膜を残しておけば、その下にはイオンが届きません。つまりリソグラフィでパターニングしたマスク(/semiconductor/photolithography/)を使えば、ウェハ上の狙った領域だけを選択的にドープできます。「どこを加工するか」をリソが決め、「電気的性質を入れる」のがイオン注入、という役割分担です。
シリコンは規則正しい結晶なので、結晶軸に沿った隙間(チャネル)にイオンが入ると衝突せず予想外に深くまで進んでしまいます。これを避けるため、ウェハを結晶軸から数度傾けて注入する、あるいは表面に薄い酸化膜を被せてイオンの向きを乱す、といった対策が取られます。
アニール ── 損傷回復と「活性化」
イオン注入には避けられない副作用があります。高エネルギーのイオンが格子に衝突するため、結晶が激しく損傷し、表面付近はアモルファス(非晶質)化することすらあります。さらに、打ち込まれたドーパント原子の大半は格子の正規位置(置換位置)ではなく格子間に止まっており、この状態では結合に参加できず電気的に不活性です。打ち込んだだけではキャリアは生まれません。
この2つを同時に解決するのが**アニール(熱処理、活性化アニール)**です。
アニールの役割:
(1) 損傷回復: 高温でSi原子が再配列し、アモルファス層が
下地の結晶を種に再結晶化する(固相エピタキシ)
(2) 活性化: ドーパント原子が格子位置(置換位置)に収まり、
ドナー/アクセプタとして機能し始める
ところがここにトレードオフがあります。高温・長時間で熱を加えるほど活性化は進みますが、同時にドーパントが拡散して広がり、せっかく浅く形成した接合がぼやけてしまいます。微細デバイスでは接合を極めて浅く保ちたいため、両立が課題になります。
解は「高温だが超短時間」。ランプ加熱で秒単位の急速熱処理を行うRTA(Rapid Thermal Annealing)、さらにミリ秒級のフラッシュアニールやレーザーアニールが使われます。活性化に必要な高温は与えつつ、ドーパントが動く時間を与えないことで、活性化と浅接合を両立させます。微細化が進むほど、この「いかに動かさず活性化するか」がプロセスの肝になります。
pn 接合の形成 ── 空乏層と内蔵電界
活性化したn型領域とp型領域が接すると、そこにpn接合ができます。境界では何が起きるか。
接合面の両側で多数キャリアの濃度差が大きいため、拡散が起きます。n側の電子はp側へ、p側の正孔はn側へ流れ込み、互いに出会って再結合し消滅します。すると境界付近にはキャリアが居なくなり、後には動けない固定イオン(n側の正ドナーイオン、p側の負アクセプタイオン)だけが残ります。この領域を**空乏層(depletion region)**と呼びます。
pn接合の断面:
p型 │←空乏層→│ n型
●●● │ ⊖ ⊕ │ ○○○ ● 正孔 ○ 電子
●●● │ ⊖ ⊕ │ ○○○ ⊖ 負アクセプタイオン
│←E←─ │ ⊕ 正ドナーイオン
拡散で再結合 → 固定電荷が露出 → 内蔵電界 E が立つ
露出した正負の固定電荷は電界を作ります。これが内蔵電界(ビルトイン電界)で、向きはn側からp側へ、すなわちさらなる拡散を押し戻す向きです。拡散しようとする力と、内蔵電界が押し戻す力(ドリフト)が釣り合ったところで平衡に達し、空乏層の幅が定まります。このとき接合をまたいで生じる電位差が**内蔵電位(ビルトインポテンシャル)**です。熱平衡では/semiconductor/band-theory-carriers/で述べたフェルミ準位が系全体で一定になるよう、バンドが境界で曲がります。
この構造が整流作用を生みます。p側を正、n側を負にする順方向電圧をかけると内蔵電界が弱まり空乏層が縮んで電流が流れ、逆向きにかけると空乏層が広がりほとんど流れません。ダイオードが電気的な「弁」として働く理由はここにあります。そしてこの接合制御こそ、ソース・ドレインとチャネルを作り分けるトランジスタ動作(/semiconductor/mosfet-operation/)の土台です。製造工程全体での位置づけは前工程フロー(/semiconductor/wafer-fab-process-flow/)も参照してください。
「内蔵電界があるから空乏層ができる」は因果が逆です。正しくは、まず濃度差による拡散と再結合でキャリアが消え固定イオンが露出し(=空乏層の形成)、その結果として固定電荷が内蔵電界を作ります。そして内蔵電界がそれ以上の拡散を止めて平衡させる、という順序です。
まとめ
- 真性シリコンはキャリアの種類も量も制御できないため、微量の不純物添加(ドーピング)で電気的性質を作り込む。
- 5価のドナーでn型(多数キャリアは電子)、3価のアクセプタでp型(多数キャリアは正孔)。固定イオンと可動キャリアが打ち消し合い、結晶は中性のまま。
- 現代の不純物導入はイオン注入が主流で、ドーズで濃度、加速エネルギーで深さを独立制御する。マスクで領域を選べる。
- 打ち込み直後のドーパントは格子間にあり不活性。アニールで損傷回復と活性化を同時に行うが、拡散とのトレードオフをRTA等の短時間処理で両立させる。
- n型とp型が接すると拡散・再結合で空乏層ができ、露出した固定電荷が内蔵電界を立てて平衡する。これがpn接合の整流作用で、ダイオードやトランジスタの土台となる。
半導体 Article
ドーピングとイオン注入(pn 接合の作り方)を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
半導体
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 半導体 / タグ数: 5
導入後に効く点
現代の不純物導入はイオン注入が主流で、ドーズ(注入量)と加速エネルギーで濃度と深さを独立に制御するが、打ち込み直後のドーパントは格子位置になく電気的に不活性。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 半導体
- タグ数
- 5
判断チェックリスト
- 自社の用途が「半導体 / ドーピング」に近いか確認する。
- 強みである「真性シリコンに5価のドナー(P, As)を入れるとn型、3価のアクセプタ(B)を入れるとp型になり、不純物濃度で多数キャリアの数を数桁の範囲で設計できる。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。