pn 接合とダイオードの動作原理
なぜ電流が一方向にしか流れないのかを、空乏層と内蔵電位というたった一つの仕組みから原理で理解できます。MOSFET やパワーデバイスを支える pn 接合の本質を一気に押さえられます。
- 1.p 型と n 型を接合すると多数キャリアが拡散・再結合して空乏層ができ、固定イオンが作る内蔵電位がそれ以上の拡散を止めて平衡に達する。
- 2.順方向バイアスは内蔵電位の障壁を下げて少数キャリア注入を急増させ電流を指数的に流し、逆方向は障壁を高め空乏層を広げてほぼ電流を流さない(整流作用)。
- 3.電流はダイオード方程式 Id = Is・(exp(Vd/(n・Vt)) − 1) で表され、この接合が MOSFET のソース・ドレインや太陽電池・パワーデバイスの土台になる。
pn 接合は「一方向にだけ電流を流す」最小単位
pn 接合は、p 型半導体と n 型半導体を原子レベルで連続的に接合した構造で、ダイオード・太陽電池・LED の本体であり、MOSFET(/semiconductor/mosfet-operation/)のソース・ドレインや各種パワーデバイスの土台でもあります。本質的な性質はただ一つ、電流を一方向にだけ流す整流作用 です。なぜそれが起きるのかは、接合面に自然にできる「空乏層」と「内蔵電位」で完全に説明できます。前提となる電子・正孔・フェルミ準位は /semiconductor/band-theory-carriers/ を踏まえます。
p 型は正孔が多数キャリア、n 型は電子が多数キャリアです。両者を接合した瞬間、濃度差を埋めようとする 拡散 が始まります。これが空乏層形成の出発点です。
空乏層と内蔵電位 ── 平衡はどう決まるか
接合直後、n 側の過剰な電子は p 側へ、p 側の過剰な正孔は n 側へ拡散し、接合面付近で互いに再結合して消えます。すると接合面の両側にはキャリアが居なくなり、動けない固定イオンだけが残った領域 ができます。これが 空乏層(depletion region) です。
| 領域 | 残る固定電荷 | 符号 |
|---|---|---|
| n 側の空乏層 | 電子を失ったドナーイオン | 正(+) |
| p 側の空乏層 | 正孔を失ったアクセプタイオン | 負(−) |
| 空乏層の外(中性領域) | イオンとキャリアが釣り合う | 中性 |
この固定電荷の対(n 側が正、p 側が負)は、n から p へ向かう内部電界を作ります。電界は拡散しようとするキャリアを押し戻す向きなので、拡散電流と、電界によるドリフト電流がちょうど打ち消し合った点で平衡 に達します。このとき空乏層の両端に生じる電位差が 内蔵電位(built-in potential, Vbi) です。
内蔵電位(熱平衡):
Vbi = Vt・ln( (Na・Nd) / ni² )
Vt : 熱電圧 = kT/q(室温で約 0.026 V)
Na : p 側のアクセプタ濃度
Nd : n 側のドナー濃度
ni : 真性キャリア濃度(Si で室温約 1.0e10 /cm³)
→ 両側のドープ濃度が高いほど Vbi は大きい(Si で概ね 0.6〜0.8 V)。
熱平衡(外部電圧なし)の pn 接合では、p 側と n 側のフェルミ準位が一致して一直線に揃います。p 型はフェルミ準位が価電子帯寄り、n 型は伝導帯寄りなので、これらを揃えるには接合部でバンドが曲がるしかありません。この バンドの曲がり量がそのまま内蔵電位 q・Vbi に対応します。空乏層幅はこの曲がりを支えるのに必要な固定電荷量で決まり、ドープ濃度が低い側ほど広く伸びます。
順方向バイアス ── 障壁を下げて少数キャリアを注入する
p 側に正、n 側に負の電圧をかけるのが 順方向バイアス です。外部電圧は内蔵電位と逆向きにかかるため、空乏層を支える正味の電位障壁が (Vbi − Vd) まで下がります。障壁が下がると、
- 空乏層幅が縮み、内部電界が弱まる。
- 多数キャリアが障壁を越えやすくなり、n 側の電子が p 側へ、p 側の正孔が n 側へ大量に流れ込む。
この「相手側へ多数キャリアが流れ込む」現象を 少数キャリア注入 と呼びます。注入されたキャリアは相手領域で少数キャリアとなり、濃度勾配に従って拡散しながら再結合していきます。電流の正体はこの拡散で、障壁が指数関数的に効くため電流も電圧に対して指数的に立ち上がります。
ダイオード方程式(順方向で支配的):
Id = Is・( exp( Vd / (n・Vt) ) − 1 )
Is : 飽和電流(少数キャリアの拡散で決まる極小電流)
Vd : 接合にかかる電圧(順方向で正)
n : 理想係数(理想で 1、再結合が効くと 1〜2)
Vt : 熱電圧 = kT/q
Vd ≫ Vt では −1 が無視でき、Id ≈ Is・exp(Vd/(n・Vt))。
→ Vd が 60 mV(n=1, 室温)増えるごとに電流が約 10 倍になる。
Si ダイオードを「約 0.7 V で導通する」と覚えますが、これは閾値があるわけではなく、電流が実用レベル(mA 級)に達するときの電圧が指数特性上たまたまその近辺になるためです。電流はもっと低い電圧でも指数的に流れ続けています。順方向電圧がほぼ一定に見えるのはこの急峻さの裏返しで、定電圧源・基準電圧としても使われます。
逆方向バイアス ── 障壁を高めて電流を止める
p 側に負、n 側に正をかけるのが 逆方向バイアス です。外部電圧が内蔵電位と同じ向きに加わるため、正味の障壁は (Vbi + |Vd|) に高まり、空乏層は逆に 広がり ます。多数キャリアはますます越えられなくなり、流れるのは少数キャリアが拡散して空乏層に達したぶんだけ ── これがダイオード方程式の −Is に対応する 逆方向飽和電流 で、極めて小さい値です。この非対称性こそが整流作用の核心です。
順方向 / 逆方向の対比:
順方向: 障壁 (Vbi − Vd) ↓ 空乏層 縮む 電流 指数的に増大
逆方向: 障壁 (Vbi + |Vd|) ↑ 空乏層 広がる 電流 ≈ −Is(ごく僅か)
逆電圧を上げ続けると、ある電圧(降伏電圧 Vbr)で急に大電流が流れます。空乏層の強電界で加速されたキャリアが格子に衝突して新たな電子正孔対を作る連鎖(なだれ降伏)や、薄い空乏層で起きるトンネル現象(ツェナー降伏)が原因です。通常のダイオードでは破壊につながりますが、ツェナーダイオードはこの一定電圧を逆に利用して基準電圧源にします。降伏電圧はドープ濃度が低いほど空乏層が広がりやすく高くなります。
整流以外の重要な振る舞い ── 接合容量
逆バイアス時の空乏層は、固定電荷を蓄えた領域が絶縁体的に振る舞うため、コンデンサ として働きます。これが 接合容量(空乏層容量) です。逆電圧を上げると空乏層が広がり、平行平板の極板間隔が広がるのと同じ理屈で容量が減ります。
空乏層容量:
Cj ∝ 1 / 空乏層幅 W, W ∝ √(Vbi + |Vd|)
→ 逆電圧 |Vd| を上げるほど Cj は小さくなる(電圧で容量を可変できる)。
この電圧依存性を利用したのがバラクタ(可変容量)ダイオードで、電圧制御発振器などの同調に使われます。一方デジタル回路では、この接合容量は MOSFET のソース・ドレイン拡散層に必ず付随する寄生容量となり、スイッチング速度と消費電力を左右します。pn 接合は素子として使うだけでなく、CMOS の各拡散層に避けがたく存在する点が実務上の勘所です。
「なぜ pn 接合は整流するか」を一文で答えるなら、内蔵電位という電位障壁の高さが、順方向では下がり逆方向では上がるため、キャリアの注入量(≒電流)が指数的に非対称になるから です。空乏層・内蔵電位・少数キャリア注入の三語をこの順で結べれば原理を押さえています。容量については「逆バイアスで空乏層が広がり容量が減る」が頻出です。
なぜこの原理が上位デバイスの土台になるのか
pn 接合の物理は、より複雑なデバイスの内部で必ず再利用されます。
- MOSFET:ソース・ドレインと基板の間は逆バイアスされた pn 接合で、本来は絶縁。ゲート電界で反転層を作って初めて導通する(/semiconductor/mosfet-operation/)。各接合の容量がスイッチング遅延を決める。
- 太陽電池・LED:順方向の少数キャリア注入と再結合が発光(LED)に、逆に光が作るキャリアの分離が発電(太陽電池)になる。
- パワーデバイス:逆方向の降伏電圧と空乏層の電界設計が耐圧を決め、整流・スイッチングの主役になる。
立体構造への進化(/semiconductor/transistor-structure-evolution/)でゲートの囲み方が変わっても、接合そのものの物理は本記事の枠組みで読めます。
まとめ
- p 型と n 型を接合すると拡散と再結合で 空乏層 ができ、残った固定イオンが作る 内蔵電位 Vbi が拡散を止めて平衡に達する。
- 順方向は障壁
(Vbi − Vd)を下げて少数キャリア注入を急増させ、電流はId = Is・(exp(Vd/(n・Vt)) − 1)に従って指数的に増える。 - 逆方向は障壁を高め空乏層を広げてほぼ電流を流さない。この非対称が 整流作用 の本質で、限界が降伏電圧。
- 逆バイアスの空乏層は 接合容量 として働き、寄生容量やバラクタとして実回路に影響する。
- この接合は MOSFET(/semiconductor/mosfet-operation/)・太陽電池・パワーデバイスの共通の土台で、前提は /semiconductor/band-theory-carriers/ を参照。
半導体 Article
pn 接合とダイオードの動作原理を実務で読む
TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。
解決すること
半導体
比較で見る軸
難易度: advanced / カテゴリ: 半導体 / タグ数: 5
導入後に効く点
順方向バイアスは内蔵電位の障壁を下げて少数キャリア注入を急増させ電流を指数的に流し、逆方向は障壁を高め空乏層を広げてほぼ電流を流さない(整流作用)。
先に潰すリスク
用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。
- 難易度
- advanced
- カテゴリ
- 半導体
- タグ数
- 5
判断チェックリスト
- 自社の用途が「半導体 / pn接合」に近いか確認する。
- 強みである「p 型と n 型を接合すると多数キャリアが拡散・再結合して空乏層ができ、固定イオンが作る内蔵電位がそれ以上の拡散を止めて平衡に達する。」が本当に評価軸になるか確認する。
- 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
- 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
- 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
- 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。