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電流センシング手法:シャント・ホール・DCR・SenseFET

過電流保護が誤動作する・電流制御ループの精度が出ない原因を、シャント・ホール・DCR・SenseFETの精度と帯域と温度依存から切り分け、損失と絶縁の制約も含めて用途別に最適な方式を選べるようになります。

応用電流センシングシャント抵抗ホールセンサDCR過電流保護最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.シャントは精度・帯域とも最良だが I²R 損失と発熱があり、ホールは絶縁・無挿入損だがオフセットと帯域が課題、DCRはインダクタの直流抵抗を流用して無損失だが温度補正必須、SenseFETはパワーMOSFET内蔵で低コストだが精度が低い。
  • 2.DCR方式はインダクタに並列のRC時定数をL/DCRに一致させて電流波形を復元する。整合がずれると過渡で誤差が出て、銅のDCRは約+0.39%/℃の温度依存を持つため高精度用途では温度補償が要る。
  • 3.過電流保護のような閾値判定はSenseFETやDCRで十分なことが多く、電流制御ループや電力計量のような連続精度が要る用途は低オフセットのシャント+専用アンプか磁気式を選ぶ。絶縁が要れば磁気式、ハイサイド検出はコモンモード耐圧で部品が決まる。

電流を「電圧」に変える4つの原理

電源回路で電流を測る目的は大きく二つあります。一つは過電流・短絡を検知して回路を守る 保護、もう一つは出力電流や相電流をフィードバックして制御する 電流制御 です。どちらも電流そのものを直接デジタル値にはできないので、まず電流を測りやすい量(電圧や磁界)に変換します。この変換原理の違いが、精度・帯域・損失・絶縁・コストという設計上のトレードオフをそのまま決めます。代表的な4方式の変換原理を整理します。

電流 I を観測量に変換する原理:

  シャント抵抗   : V = I × Rsense        (オームの法則、直接)
  ホールセンサ   : V ∝ B ∝ I            (磁界経由、非接触・絶縁)
  インダクタDCR  : V_C ≈ IL × DCR        (巻線抵抗を流用、無損失)
  SenseFET       : Isense = IL / N        (並列セルで電流を分流)

シャントとDCRは電流が抵抗に作る電圧降下を読むので 電流路と電気的につながった(非絶縁) 検出で、ホールセンサは磁界を介すので電流路から 電気的に絶縁 されます。SenseFETはパワーMOSFETのセルの一部を取り出して比例した小電流を得る方式で、これも非絶縁です。それぞれの内部動作を順に見ます。

シャント抵抗 ── 精度・帯域は最良、代償は I²R 損失

最も素直なのがシャント抵抗です。既知の低抵抗 Rsense(典型 0.1〜数十mΩ)を電流路に直列に挿入し、両端の電圧降下 V = I × Rsense を測ります。原理が単純なぶん精度と帯域が最良で、直流から数百kHz以上まで素直に追従します。問題は二つあります。

第一に 損失と発熱 です。シャントには P = I² × Rsense の電力が消費され、これがそのまま熱になります。たとえば 10A・5mΩ なら 0.5W で、大電流ほど I² で効いてくるため Rsense を下げたくなりますが、下げると信号電圧(10A・1mΩ では 10mV)が小さくなり、アンプのオフセットやノイズに埋もれます。低抵抗ほど 発熱は減るが信号対雑音比は悪化 するという綱引きがここにあります。

ケルビン接続と温度係数を外すと精度は出ない

mΩ級のシャントでは、はんだ付けや配線の接触抵抗(数mΩ)が Rsense と同オーダーになり、誤差源になります。電流を流す端子(フォース)と電圧を測る端子(センス)を物理的に分ける 4端子ケルビン接続 で、配線抵抗を測定経路から外すのが必須です。さらに抵抗体自体の温度係数(TCR)が効きます。一般の金属皮膜では銅に近い温度依存が出るため、高精度用途ではマンガニンや特殊合金など低TCR材(数ppm/℃〜数十ppm/℃)を使い、自己発熱による抵抗値変化を抑えます。

第二は コモンモード電圧 です。シャントを電源のハイサイド(高電位側)に置くと、両端の差電圧(数十mV)は高い共通電位(数十〜数百V)の上に乗ります。これを正しく読むにはコモンモード耐圧の高い専用電流センスアンプが要ります。逆にローサイド(GND側)に置けばコモンモードはほぼ0で安価なアンプで済みますが、負荷とGNDの間に抵抗が入るためグラウンド電位が浮き、短絡電流が地絡経路を通ると検出できないなどの弱点が出ます。

ホールセンサ ── 絶縁・無挿入損、代償はオフセットと帯域

ホールセンサは、電流が作る磁界をホール素子で電圧に変換します。電流路に半導体薄片を近づけ(あるいはコアに巻いた導体の磁界を集めて)、ホール電圧が磁束密度 B に比例し、B が電流 I に比例することを使います。最大の利点は 電流路と完全に電気的に絶縁 され、かつ抵抗を直列に挿入しないので 挿入損失がほぼ0 な点です。高電圧・大電流のインバータ相電流検出で定番なのはこのためです。

ホール方式の二系統:

  オープンループ : ホール電圧をそのまま増幅して出力
        → 安価・小型だが、コアの非線形・残留磁気で精度が落ちる

  クローズドループ : 2次巻線に逆磁界を流しコア磁束を常に0へ戻し、
                     その帰還電流から I を求める(磁気平衡)
        → 高精度・広帯域だが、消費電力と価格が上がる

弱点は オフセットとドリフト、そして 帯域 です。ホール素子は温度で感度とオフセットが変動し、ゼロ電流でも出力が0からずれます。直流オフセットがそのまま電流誤差になるため、定期的なオフセットキャンセル(チョッパ安定化)を内蔵した製品が使われます。帯域はオープンループで数十kHz、クローズドループでも数百kHz程度が目安で、シャントほど高速な過渡には追従しにくい場合があります。集積型では、絶縁を保ったまま電流路をICのリードフレームに通し、その直上のホール素子で読む 絶縁シャント代替 タイプもあります。

インダクタDCR検出 ── 無損失だが整合と温度補正が要る

スイッチング電源には必ず出力インダクタがあり、その巻線には直流抵抗(DCR、数mΩ)が必ず存在します。この既存のDCRをシャント代わりに使えば、新たな抵抗を挿入せず損失ゼロで電流が読める ——これがDCR検出(ロスレス電流センシング)です。多相VRMなど効率最優先の用途で広く使われます。原理は、インダクタ(L と DCR の直列)に RC を並列接続し、RC のコンデンサ電圧にインダクタ電流を再現させることです。

DCR検出のしくみ:

  インダクタ = L ──直列── DCR
  これに R ──直列── C を並列接続し、C の電圧 V_C を読む

  時定数を一致させると(整合条件):
      R × C = L / DCR
  このとき  V_C = IL × DCR

  → C 両端電圧がインダクタ電流 IL に DCR を掛けた波形になる

整合条件 R×C = L/DCR が成り立つとき、コンデンサ電圧はインダクタ電流の真の波形(直流+三角波リプル)を × DCR で忠実に再現します。整合がずれると過渡応答で位相と振幅に誤差が乗り、リプルが実際より大きく/小さく見え、電流モード制御や過電流判定の精度が落ちます。

DCRは銅の温度依存(約+0.39%/℃)を持つ

DCR検出の最大の弱点は、検出抵抗である銅巻線の DCR が温度で大きく変わることです。銅の抵抗温度係数は約 +0.39%/℃ で、25℃から100℃まで上がれば DCR は約3割増えます。V_C = IL × DCR の係数がそのまま3割ずれるため、温度補正なしでは過電流閾値や電流計測が大きくずれます。高精度が要る用途ではインダクタ近傍の温度を測って係数を補正するか、サーミスタを整合RCに組み込んで温度依存を打ち消します。DCRそのものの製造ばらつき(±数%〜十数%)も精度を律速します。

SenseFET ── パワーMOSFET内蔵、低コストだが低精度

SenseFET(電流ミラーFET)は、パワーMOSFETの数千〜数万個並列セルのうち一部(たとえば数千分の1)を分離し、本流と同じゲート・ドレイン条件で動かして比例した小電流を取り出す方式です。Isense = IL / N(N はセル比)の関係で、追加の挿入抵抗なしにMOSFET内部で電流を分流します。ハイサイドスイッチやスマートパワースイッチに内蔵され、部品点数とコストを抑えつつ過電流保護を実現 できるのが利点です。

ただし精度は4方式で最も劣ります。セル比 N の精度は製造ばらつきに依存し、本流セルとセンスセルのソース電位を厳密に等しく保たないと分流比が崩れます(これを保つためのアンプが要る)。さらに温度・ドレイン電流・オン抵抗の非線形でミラー比が変動するため、典型誤差は数%〜十数%に達します。MOSFETのスイッチング挙動そのものは /power/mosfet-switching-physics/ に支配され、ターンオン直後の過渡ではセンス電流が暴れるためブランキング(一定時間の読み飛ばし)が必要です。精密な計測には不向きだが、閾値判定だけなら十分 という位置づけです。

用途で選ぶ ── 保護か制御か、絶縁が要るか

4方式の素性を一覧で比較します。

方式精度帯域挿入損失絶縁温度依存主な用途
シャント抵抗高(低TCR材+ケルビン)広(DC〜数百kHz+)あり(I²R 発熱)なしTCR次第(低TCR材で小)電力計量・電流制御・精密保護
ホールセンサ中〜高(クローズドループで高)中(数十k〜数百kHz)ほぼなしあり感度・オフセットが変動(要補償)高圧大電流・相電流・絶縁が必須な系
インダクタDCR中(整合・温度補正で向上)広(整合次第)なし(既存DCR流用)なし大(銅 約+0.39%/℃、要補正)多相VRM・効率最優先のDCDC
SenseFET低(数%〜十数%)中(要ブランキング)ほぼなしなし大(ミラー比が変動)過電流保護・スマートスイッチ

選択の軸は明確です。過電流・短絡保護 のように「閾値を超えたか」だけを見る用途は、絶対精度が数%ずれても実害が小さく、損失を嫌うのでDCRやSenseFETが好まれます。一方 電流制御ループや電力計量 のように連続した値の精度が成績を決める用途は、低オフセットのシャント+専用電流センスアンプか、磁気平衡式(クローズドループホール)を選びます。電流モード制御で各相の電流を読む多相VRMの設計指針は /power/multiphase-vrm-design/ に、制御ループ全体の中での電流検出の役割は /power/pwm-feedback-control/ に整理しています。

ハイサイドかローサイドか、絶縁が要るか

検出位置も方式と同じくらい結果を左右します。ローサイド検出(負荷とGNDの間)はコモンモードが小さく安価ですが、グラウンド電位が浮き地絡を見落とす弱点があります。ハイサイド検出(電源と負荷の間)は地絡も含め負荷電流を確実に捉えますが、高いコモンモード電圧を扱える部品が要ります。電位差が大きい・安全絶縁が要求される(産業インバータ、EV、医療)系では、非絶縁のシャント/DCR/SenseFETは使えず、磁気式か絶縁アンプ(デジタルアイソレータ付きΔΣ変調器でシャント信号を絶縁転送する方式)が必要になります。MOSFETを駆動するゲートドライバ側で過電流保護を組む場合は /power/gate-driver-design/ のデサット検出とも組み合わせます。

試験・実務で問われる勘所

覚える要点は3つです。(1) 変換原理=シャントは V=I·Rsense(直接・非絶縁)、ホールは磁界経由(絶縁・無挿入損)、DCRはインダクタ巻線抵抗の流用(無損失だが温度依存)、SenseFETはセル分流(低コスト・低精度)。(2) DCR検出は整合条件 R·C = L/DCR で電流波形を復元し、銅DCRの約+0.39%/℃の温度依存を補正しないと係数がずれる。(3) 用途で選ぶ——閾値判定の保護はDCR/SenseFETで可、連続精度の制御・計量はシャント+専用アンプか磁気式、絶縁が要れば磁気式か絶縁ΔΣ。検出位置はハイサイドが確実だがコモンモード耐圧が要る、を併せて押さえます。

まとめ

  • 電流センシングは電流を電圧/磁界に変換する原理の違いで素性が決まる。シャント(直接・高精度だが I²R 損失)、ホール(絶縁・無挿入損だがオフセットと帯域が課題)、DCR(インダクタ抵抗流用で無損失だが温度補正必須)、SenseFET(MOSFET内蔵で低コストだが低精度)。
  • シャントは4端子ケルビン接続で配線抵抗を外し、低TCR材で自己発熱の影響を抑えるのが前提。低抵抗ほど発熱は減るが信号が小さくなりS/Nが悪化する綱引きがある。
  • DCR検出は整合条件 R·C = L/DCR でコンデンサ電圧にインダクタ電流を再現する。整合ずれは過渡誤差を、銅の約+0.39%/℃の温度依存は係数ずれを生むため温度補償が要る。
  • 用途で選ぶ。保護(閾値判定) はDCR/SenseFETで十分、制御・計量(連続精度) は低オフセットシャント+専用アンプか磁気式、絶縁が必須 なら磁気式か絶縁ΔΣ。位置はローサイド(安価)かハイサイド(確実だがコモンモード耐圧要)で部品が決まる。
  • 関連は /power/mosfet-switching-physics//power/gate-driver-design//power/multiphase-vrm-design//power/pwm-feedback-control/ を参照。

電源 Article

電流センシング手法:シャント・ホール・DCR・SenseFETを実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

電流センシング

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 5

導入後に効く点

DCR方式はインダクタに並列のRC時定数をL/DCRに一致させて電流波形を復元する。整合がずれると過渡で誤差が出て、銅のDCRは約+0.39%/℃の温度依存を持つため高精度用途では温度補償が要る。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
5

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「電流センシング / シャント抵抗」に近いか確認する。
  • 強みである「シャントは精度・帯域とも最良だが I²R 損失と発熱があり、ホールは絶縁・無挿入損だがオフセットと帯域が課題、DCRはインダクタの直流抵抗を流用して無損失だが温度補正必須、SenseFETはパワーMOSFET内蔵で低コストだが精度が低い。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

電流センシングシャント抵抗ホールセンサDCR過電流保護電流センシングシャント抵抗ホールセンサ
参考: 公式情報