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位相シフトフルブリッジとZVS:高効率大電力変換の定番

数百Wから数kWの絶縁DC-DCを高効率でまとめたいときの定番が位相シフトフルブリッジです。レグ間の位相差でデューティを作り、漏れインダクタとCossの共振でZVSを得る原理から、軽負荷でZVSが外れる弱点までを正確に理解できます。

応用位相シフトフルブリッジZVSソフトスイッチングDC-DC漏れインダクタンス電源最終更新: 2026-06-21
TL;DR要点だけ先に
  • 1.フルブリッジの2本のレグを位相差φでずらして駆動し、対角スイッチが同時オンする重なり時間で実効デューティを作る。φを動かすだけで出力を制御できるのでデューティ固定50%駆動が使える。
  • 2.各レグの切り替え時に、トランス漏れインダクタ(または追加共振インダクタ)に蓄えた電流がデバイス出力容量Cossを充放電してVdsを0Vに落とす。その谷でオンするのでZVSが成立し、ターンオン損とCoss損が消える。
  • 3.ラギングレグはトランス電流だけでCossを放電するため軽負荷でエネルギー不足になりZVSを失いやすい。さらに循環電流による導通損とデューティ損失(実効デューティの目減り)が固有の弱点になる。

位相シフトフルブリッジとは何か

フルブリッジは4個のスイッチ(Q1〜Q4)でトランス一次に正負の電圧を交互に印加する絶縁型トポロジで、基本構造は /power/bridge-pushpull-topologies/ で扱っています。通常のフルブリッジは対角ペア(Q1+Q4、Q2+Q3)のオン時間(パルス幅)をPWMで絞って出力を制御します。これに対し 位相シフトフルブリッジ(PSFB: Phase-Shifted Full Bridge) は、各スイッチを常にデューティ50%(オン時間固定)で駆動し、左レグ(Q1/Q2)と右レグ(Q3/Q4)の位相差φ だけで出力を調整します。

2本のレグはそれぞれ 50% 方形波を出すが、右レグを位相 φ だけ遅らせる:

  左レグ中点:  ‾‾‾‾|____|‾‾‾‾|____   (Q1とQ2が交互、各50%)
  右レグ中点:  __|‾‾‾‾|____|‾‾‾‾|     (φ だけ遅れて反転)

  一次巻線にかかる電圧 = 左中点 − 右中点
    両レグが「同じ向き」の区間 → 一次電圧 0(フリーホイール)
    両レグが「逆向き」の区間   → 一次電圧 ±Vin(電力を二次へ伝送)

  この「逆向きで重なる時間」が実効デューティ Deff = φ/180°(片極あたり)

ポイントは、出力を決めるのが個々のパルス幅ではなく対角スイッチが同時にオンしている重なり時間である点です。φを0から180°へ動かすと実効デューティが0から最大まで連続的に変わります。デューティ固定50%駆動が使えるため、後述するZVSのための共振エネルギーを各遷移で安定して確保できるのが最大の利点です。

なぜ大電力で定番なのか

PSFBは数百Wから数kW級(サーバー電源の二次段、通信用整流器、EV車載充電器、産業用DC-DC)で広く使われます。理由は3つ。追加部品ほぼゼロで全スイッチをZVS化できること、固定周波数なのでEMIフィルタ設計や磁性部品(/power/inductor-transformer-design/)が読みやすいこと、そしてフルブリッジ由来の高い電力容量です。周波数を動かすLLC(/power/llc-resonant-converter/)と並ぶ高効率絶縁DC-DCの双璧と言えます。

ZVSの原理:漏れインダクタとCossの共振

PSFBのZVSは共振コンバータのような連続共振ではなく、各レグの遷移(デッドタイム)の瞬間だけに起きる過渡的な共振です。鍵になるのが2つの寄生要素です。ひとつはトランスの漏れインダクタンスLlk(必要なら外付け共振インダクタLrを足す)、もうひとつは各MOSFETの出力容量Cossです。ソフトスイッチングの一般原理は /power/resonant-soft-switching/ を参照してください。

遷移の手順はこうです。あるレグのハイサイドをオフにすると、一次電流Ipはすぐには止まれません(インダクタ電流は連続)。この電流が、オフしたスイッチのCossを充電し、同じレグのローサイドのCossを放電します。ローサイドのVdsが0Vまで下がるとボディダイオードが導通して電流の通り道ができるので、その間にローサイドのゲートをオンするVds=0で導通させるため重なり損が出ず、Cossもすでに放電済みなのでCoss損も出ません。

1レグのZVS遷移(デッドタイム中に Coss を充放電し切る条件):

  放電に使える磁気エネルギー  ≧  2個の Coss を Vin まで動かすエネルギー
    (1/2) × L × Ip^2   ≧   (1/2) × (2·Coss) × Vin^2 + Ctr 余裕

  L     = レグによって異なる(後述)
  Ip    = 遷移時点の一次電流(負荷が軽いほど小さい)
  →  軽負荷で Ip が小さいと放電し切れず、ZVS が外れる

この不等式のLどのインダクタを使えるかがレグごとに違う、というのがPSFBの最重要ポイントです。

リーディングレグとラギングレグ:ZVS喪失の非対称性

2本のレグは遷移するタイミングが異なり、ZVSの成立しやすさも大きく違います。

リーディングレグ(先行・アクティブ)ラギングレグ(後行・パッシブ)
遷移するタイミング一次電圧が ±Vin の伝送区間からゼロ区間へ移るときゼロ区間(フリーホイール)から伝送区間へ移るとき
Coss を放電する電流源出力チョーク電流が一次へ反射した大電流 + 漏れインダクタ電流漏れインダクタ Llk(+ 外付け Lr)の電流だけ
ZVSに使える L とエネルギー実質的に出力インダクタが効き、エネルギーが大きいLlk だけなので小さく、負荷とともに激減
ZVSを失う負荷ごく軽負荷まで成立しやすい中〜軽負荷で先に失う(PSFBの弱点)

直感的にはこうです。リーディングレグが遷移する瞬間は、まだ一次に大電流が流れている(出力チョークの電流が反射している)ので、Cossを放電する元気が十分あります。一方ラギングレグが遷移するのはフリーホイール区間(一次電圧ゼロで電力を伝送していない時間)で、このときCossを放電できるのは漏れインダクタLlkに蓄えた電流だけです。負荷電流が減るとLlkの電流も減り、放電エネルギー(1/2)Llk·Ip^2があっという間に足りなくなってラギングレグのZVSが先に外れます

ラギングレグZVSを軽負荷まで延ばす手段とその代償

ラギングレグのZVS範囲を広げる王道は、外付け共振インダクタLrを足してL=Llk+Lrを増やすことです。しかしこれには代償があります。Lrを大きくすると後述のデューティ損失と循環電流が悪化し、フル負荷時の効率と最大出力が下がります。つまり**「軽負荷ZVS」と「重負荷効率」がトレードオフ**になります。実務ではラギングレグだけ補助巻線や飽和インダクタ、あるいはGaNのような低Coss素子(/power/mosfet-switching-physics/)を使い、Lrを増やさずにZVS範囲を稼ぐ設計が好まれます。

固有の損失:循環電流とデューティ損失

PSFBは「ほぼタダでZVS」が魅力ですが、ZVSを成立させる漏れ/共振インダクタが2つの固有損失を生みます。

循環電流(サーキュレーティングカレント)

フリーホイール区間では一次電圧が0なのに、漏れ/共振インダクタの電流は流れ続けます。この電流は二次へ電力を運ばず、スイッチとトランス巻線を通ってぐるぐる循環するだけです。これが循環電流で、導通損(Irms^2 × Rds(on)、巻線抵抗損)だけを増やします。Lrを大きくしてラギングレグZVSを稼ぐほどこの循環電流が増えるため、軽負荷ZVSの代償として重負荷の効率が落ちる、という前述のトレードオフの実体がこれです。

デューティ損失(デューティロス)

漏れ/共振インダクタにはもうひとつ厄介な副作用があります。伝送区間の開始時、一次電流の極性を反転させる(+方向から−方向へ振り切る)のにLlkのせいで時間がかかります。この電流が反転し切るまでの間は、一次にVinがかかっていても二次へ有効な電圧が現れません。結果として二次側で見える実効デューティが、一次で作ったφ/180°より目減りします。

デューティ損失の正体(一次電流の極性反転に要する時間):

  反転に必要な時間  Δt ≈ (2 · Ip · L) / Vin      (L = Llk + Lr)
  失われるデューティ ΔD ≈ Δt / (Tsw/2)  ∝  L · Iout · fsw / Vin

  Llk・Lr が大きいほど、また負荷電流・周波数が高いほど ΔD が増える
  → 二次の実効デューティ Deff,sec = φ/180° − ΔD

デューティ損失が大きいと、目標の出力電圧を得るためにトランスの巻数比を上げる(昇圧寄りにする)必要が生じ、一次電流が増えて導通損がさらに悪化する悪循環になります。ZVS範囲(Lr大)・循環電流・デューティ損失の三つ巴をどこで折り合わせるかが、PSFB設計の核心です。

同期整流とアダプティブ制御で弱点を補う

現代のPSFBはこれらの弱点を制御と素子で補います。二次整流をダイオードからMOSFETの同期整流(/power/current-sensing-methods/ で電流を見ながら駆動)に替えて整流損を下げ、デッドタイムを負荷に応じて変えるアダプティブデッドタイムでラギングレグの放電タイミングを最適化し、軽負荷ではバースト動作でZVSが外れる領域を避けます。これらにより、フル負荷で98%級、広い負荷域で高効率を維持できます。

LLCとの使い分け

同じ高効率絶縁DC-DCでも、固定周波数のPSFBと周波数可変のLLCは得意分野が異なります。

観点位相シフトフルブリッジ(PSFB)LLC共振コンバータ
制御変数位相差 φ(固定周波数・固定50%デューティ)周波数 fsw(PFM・固定50%デューティ)
ZVSの種類遷移時のみの過渡的ZVS(リーディング/ラギング非対称)ほぼ全域で一次ZVS・二次ZCS
軽負荷の弱点ラギングレグZVS喪失・循環電流・デューティ損失極軽負荷でZVS喪失、容量性領域で破綻
出力電圧の制御性出力チョークがあり広い入力・負荷で安定共振利得カーブに依存し広範囲制御が難しい
向く用途出力電圧が安定な大電力DC-DC、定電流用途入力が安定な高効率AC-DC二次段

PSFBは出力にチョークを持つ降圧型(電流連続)なので、入力電圧や負荷が大きく変動しても出力が素直で、定電圧・定電流制御がしやすいのが強みです。バッテリ充電器やEV車載充電のように出力範囲が広い用途で好まれます。一方LLCは利得カーブが急峻で広範囲制御は苦手ですが、共振により全域ソフトスイッチングで最高効率を狙えます。制御ループの設計は /power/voltage-vs-current-mode-control/ も参照してください。

試験・面接で問われる勘所

「PSFBはどうやって出力を制御し、なぜZVSできるのか」と問われたら、全スイッチ50%デューティ固定のまま2本のレグの位相差φで対角オンの重なり時間(実効デューティ)を作る。遷移時に漏れインダクタとCossが共振してVdsを0Vに落とすのでZVSになる が核心。続けて「ラギングレグはLlkの電流だけでCossを放電するため軽負荷でZVSを失いやすく、循環電流とデューティ損失が固有の弱点」まで言えれば原理を理解していると伝わります。

まとめ

  • PSFBは全スイッチをデューティ50%固定で駆動し、左右レグの位相差φで対角オンの重なり時間(実効デューティ)を作って出力を制御する。固定周波数で各遷移のZVSエネルギーを安定して確保できる。
  • ZVSは遷移のデッドタイム中に、漏れインダクタLlk(+外付けLr)の電流がCossを充放電してVdsを0Vに落とすことで成立する。連続共振ではなく遷移時のみの過渡的ソフトスイッチング。
  • リーディングレグは反射した大電流で放電するためZVSを保ちやすいが、ラギングレグはLlkの電流だけなので中〜軽負荷でZVSを先に失う。これがPSFB最大の弱点。
  • 固有損失は循環電流(フリーホイール区間の無効な周回電流による導通損)とデューティ損失(一次電流反転に要する時間ぶん実効デューティが目減り)Lrを増やすと軽負荷ZVSは広がるが両者が悪化するトレードオフがある。
  • 基本構造は /power/bridge-pushpull-topologies/、ソフトスイッチング一般は /power/resonant-soft-switching/、周波数制御の対極は /power/llc-resonant-converter/、磁性部品設計は /power/inductor-transformer-design/ を参照。

電源 Article

位相シフトフルブリッジとZVS:高効率大電力変換の定番を実務で読む

TL;DRは入口です。実際に選ぶ・使う段階では、何を解決するか、何と比較するか、導入後にどこで詰まるかまで見る必要があります。

解決すること

位相シフトフルブリッジ

比較で見る軸

難易度: advanced / カテゴリ: 電源 / タグ数: 6

導入後に効く点

各レグの切り替え時に、トランス漏れインダクタ(または追加共振インダクタ)に蓄えた電流がデバイス出力容量Cossを充放電してVdsを0Vに落とす。その谷でオンするのでZVSが成立し、ターンオン損とCoss損が消える。

先に潰すリスク

用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。

数字・仕様の読み方
難易度
advanced
カテゴリ
電源
タグ数
6

判断チェックリスト

  • 自社の用途が「位相シフトフルブリッジ / ZVS」に近いか確認する。
  • 強みである「フルブリッジの2本のレグを位相差φでずらして駆動し、対角スイッチが同時オンする重なり時間で実効デューティを作る。φを動かすだけで出力を制御できるのでデューティ固定50%駆動が使える。」が本当に評価軸になるか確認する。
  • 注意点の「用語だけ覚えても、設計・実装・運用でどこに効くかを確認しないと判断を誤る。」を運用で吸収できるか確認する。
  • 公開値や仕様値は、対象プラン・対象機種・対象リージョンまで確認する。
  • 既存システム、ID、ネットワーク、監視、バックアップとの接続方法を先に洗い出す。
  • 小さく試してから、本番移行、権限設計、障害時手順、コスト監視を決める。

次に確認する観点

位相シフトフルブリッジZVSソフトスイッチングDC-DC漏れインダクタンス位相シフトフルブリッジZVSソフトスイッチング
参考: 公式情報